最終話 読み合いは終わらない

 オレは実代みよと二人、夜の公園を歩く。


 衣笠きぬがさ先輩を送るというので、修太郎しゅうたろうたちとは家の近所で別れた。


「なんの話をしていたんすか、紺太こんたセンパイ?」


 ジト目で、実代がオレの顔を覗き込む。


「別に」

「いやいや。ぜーったい、何か話し合ってたっす! 白状するっす」

「ねえから」

「あるっす」


 そんな問答を繰り返していくうちに、実代が足を止めた。


「どうした? 早く帰らないと、外が暗くなるぜ」


 動かない実代を、急かす。


「紺太センパイは、あたしのことどう思ってるっすか? ただゲームして小説読み合うだけの、ただの後輩っすか? それとも」


 実代が言いよどむ。


「修太郎たちを見て、意識しちゃったか?」

「そ、そうかもっす」


 コイツはコイツで、不安だったんだろう。

 余裕があるように見えて、思いつめていたのかもしれない。


「ただの後輩なわけ、ないじゃん」

「どういう意味っすか?」

「ほんとうにただの後輩なら、ここまで付き添ったりなんかしない」


 オレが言うと、実代がホッとするような顔に。


「はっきり言ってほしいっす」

「わかった。好きだよ」

「あたしも、センパイが好きっす。ありがとうっす」



 実代は、エヘヘと笑う。ようやく、落ち着いたようだ。


「関係性が壊れると思って、言い出せなかったっす。でも、うらら先輩を見てて、胸が張り裂けそうだったっす。ただの後輩って関係を、演じ続けていられればよかったんすけど」

「オレも、お前を傷つけるのが怖かった。だから言えなかったんだ。寂しい思いをさせて悪かった」

「ちちち違うっす。寂しいなんて。ただ」


 実代は、オレの胸にポスっと頭をあずけた。


「ただ寒かっただけっす。読み合いに疲れたっていうか」

「そっか」


 実代にとっての読み合いは、オレとの関係も含まれていたわけか。


「でも、センパイの本心を見られてうれしかったっす」

「オレもだ。やっと、恋人同士になれたな」

「いえ。まだっす」


 またジト目になり、実代がオレの顔をジッと見る。


「ん」


 実代は細くしていた瞳を、さらに閉じた。


「ん~」


 背伸びしながら、実代はキスをねだる。


 これは、ヤバイ。破壊力が凄まじかった。

 こんなに、実代ってかわいかったか?


 実代のドキドキが、オレにも伝わってくる。

 鼓動は、ドンドンと早くなっていた。

 かなり緊張しているな。オレも。


 オレも、唇を近づけていく。


「ワンワン!」


 小型犬の鳴き声がして、オレたちは我に返る。


 飼い主が謝りながら、犬を引っ張っていく。

 犬はまだ、キャンキャンと吠えていた。


「あはは」

「えへへぇ」


 顔を向かい合わせながら、オレたちは笑う。


 そのスキに、オレは実代と一瞬だけ、口づけをかわした。


 実代が、キョトンとなる。


「お前この間、オレの頬にくれたろ? そのお返し」

「ずるいっす。なんも身構えてないときにするなんて」

「また今度な」

「むう」


 本格的に暗くなる前に、実代を家へ帰した。

 

~~~~~ ~~~~~ ~~~~~ 

 

 後日、オレはまた実代の家でゲームをしている。


「センパイ、弱くなったっすねぇ。違うっすね。あたしが強くなりすぎちゃったりして」


 目をキラキラさせながら、実代がコントローラーを高々と上げた。


「うるっせ。ちょっと公募の感想がえげつなかったから、ヘコんでただけだっての」


 新人賞をことごとく逃し、オレは沈み込んでいたのである。

 ローテンションのままプレイするゲームは、実に空虚だ。


「だから、かわいいカノジョであるあたしがなぐさめゲームに付き合ってあげてるんじゃないっすかぁ。ちょっとくらい褒めてくれてもよくないっすか?」


 実代が、頬を膨らませた。


「わかったわかった。ありがとうな、オレのカノジョ」

「ったくもぉ。しょうがないっすねぇ、紺太センパイは」


 ガチでわかりやすく、実代の機嫌が治る。


 こういう読み合いは、最近得意になってきたな。


(完)

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「読み合いしましょう」と同じ文芸部の後輩宅に誘われたので自作ラノベを用意したら格ゲーに付き合わされた。読み合いってそういう意味じゃねえから! 椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞 @meshitero2

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