第48話 ラノベ主人公は、進んでいる

 急に話を振られて、オレは戸惑う。


 話しづらいだろうと思ってか、修太郎しゅうたろうはオレをドリンクバーへ引っ張っていく。全員分のドリンクを用意する、と言って外へ。


 一方で、実代みよ衣笠きぬがさ先輩は、二人で


紺太こんたんところは、どうなんだ? 実代ちゃんとは、うまくやってるか?」

「ど、どうっていわれてもなぁ」


 これは答えに詰まる。


「嫌われてはいないと思うが」

「俺もそれは見てわかるよ。ただ、どっちもアプローチしづらいって感じだな。はたから見てる感じだと」

「オレたちは、そんなんじゃ」

「そもそも、どうして知り合ったんだ?」


 オレは、ことの成り行きをかいつまんで修太郎に話した。


「なるほどな。小説の読み合いが、格ゲーの技の読み合いなんてな。おもしれー女」


 愉快そうに、修太郎は笑う。


「趣味が合うって最高じゃん。俺とうららちゃんは、趣味を合わせるところからスタートだった。それで打ち解けられたが、そうでなかったら大変だったろう。うららちゃんに受け入れられるか、心配だったし、向こうだって同じだったはずだ」

「どうやって乗り切った?」

「リスペクトさ。相手を尊重していれば、相手も応えてくれる」


 オレが、実代をリスペクトするか。


「でも、ホントにオレらはそういう関係じゃなくて」

「強がらなくてもいい。もう付き合っているも同然だ」


 何も言い返せない。周りから見ると、オレたちはどうしても恋人同士なのだろう。


「俺は何も、別に告れとか言わない。いまさらって感じだろ? 現にさ、今は告白しないほうがメジャーなんだ。俺たちだってそうさ」

「マジか? だって許嫁だろ?」

「でも、お互いの思いを確認しなくても、うまく言っているだろ?」

「たしかにな」

「もう告白は古い。海外じゃ、告白しないのが普通だ。海外ドラマや映画でも、愛してるとかいうときってスキンシップする場面だろ?」


 言われてみれば。


 海外ゲームでも告白よりも先に、デートに誘う。それから相手の様子をうかがうのだ。


「ふたりっきりで会っても警戒されていない段階で、もうOKなんだ。むしろ告白すると、相手に選ばせてしまうから、負担がデカイんだよ」

「あ、待てよ。そのアプローチ方法って、ラノベ主人公じゃん!」

「よく気がついたな。そうなのだ。ラノベ主人公は一見おどおどした情けない奴と思わせておいて、実は日本人より進んだ恋愛アプローチを会得していたんだよ!」

「なな、なんだってーっ!?」

「だが、これが事実だ。彼らは恋愛スタイルが欧米に近いから、日本人男性から見ると『いけ好かないヤツ』に見られていただけなのだ」


 それはオレも時々思う。「なんでコイツばっかりモテるんだ!」って鼻につく主人公がいかに多いことか!


「うん。お前の憤りはわかる。しかし実際は、告白なんて行為はアジア圏特有の『恋愛が失敗するパターン』にすぎん! 進んでいるのは、ラノベ主人公の方だったんだぜっ!」

「そ、そんな……」


 知らなかった。非モテヤロウだと思っていたのに。ラブコメ作家とは、恋愛の達人だったなんて。


 こんなんじゃ、オレはもう素直にラブコメ系ラノベを読むことができないよ……。


「だが、安心しろ紺太。お前は、進んでいる方だ。勝ち組なんだよ!」

「オレが、勝ち組?」

「そうだ。お前は多分、実代ちゃんから行為を寄せられている! それは間違いない。だから大手を振って、恋人ヅラしていればいい」

「ホントに、オレは彼女持ちでいいのか?」

「お前は実代ちゃんキライか?」

「いや、あ、う……好きだ」

「ならいいじゃん」


 オレは、修太郎に肩をポンポン叩かれる。 


「紺太センパイ」

「ああああああ、どうした?」


 聞かれたか!?


「ジュースまだっすか?」


 その後、すっかりぬるくなったジュースを持ってきてしまい、二人からヒンシュクを買った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る