第47話 殺意の波動に目覚めた部長

 四人対戦格ゲー『ドンブラ』で遊んでいるが、CPUが一向に空気を読まない。独壇場で、場を荒らし続けた。


「すまんが実代みよ、入ってくれ。CPU強すぎる」


 オレは、余ったコントローラーを実代に渡す。


「しょうがないっすね。じゃあ衣笠きぬがさ先輩、あとは実践で教えるっす」

「よろしくおねがいします」


 衣笠センパイのコーチ役から外れ、実代も本格的にプレイする。ときに接待プレイを。ときにオレにちょっかいを掛けてきた。


「うわ、てめ。マサカリハリケーンは反則だっての!」


 金太郎に似たキャラの、マサカリで旋回する技である。が、『全画面攻撃』なので他のプレイヤーから嫌われている。


「いいじゃないっすか、紺太こんたセンパイ! こっちは集中砲火を食らって、体力ゲージがもう一〇%切ってるんすよ!」


 そんなギリギリの状態から、勝つやつに言われても……。


 やっていくうちに、衣笠先輩も慣れてきた。


「次は全員、コラボキャラにしようぜ」


 修太郎しゅうたろうが言い出す。


「すいません修太郎さん、コラボキャラとは?」

「これって人気作でさ、違うゲームとコラボレーションしているんだ。俺は『コブラ』な」


 選択が早い。どこまでも、強キャラにこだわる。


「私は、この勇者っぽいキャラで行きます」


 衣笠先輩が選んだのは、RPGの主人公だ。 


 オレは、別のRPGキャラ「レイン」を選ぶ。


「あたしは、イワヲにするっす」と、実代はアクションゲームのキャラを選んだ。


 ゲームが始まると、衣笠先輩のガードが光った。


「強いですね、部長。やっぱ、盾があるキャラはヤバイですね!」

「はい。構える動作で動きが止まると、危険ですが」


 盾装備キャラは前からくる攻撃を完全防御できる。かわりに、後ろや上下からは無防備になるのだ。


「うおー俺のロケランが止められた! なんつー反射神経してやがる!?」

「オレもだ。超必殺技まで防ぐか!?」


 なんと衣笠先輩が、レバガチャプレイで勝利を収める。接待ではないガチプレイだったのに。


「勝ちましたよ、実代さん!」

「やったっすね。うらら先輩!」


 実代と衣笠先輩が、ハイタッチをした。すっかり、名前呼びになっている。 


「修太郎さんに教わったゲームのキャラで勝ちましたよ」

「よかったな、うららちゃん」

「ゲームって、みんなで遊ぶとこんなにおもしろいのですね!」


 衣笠部長が楽しそうで、なによりだ。目つきは殺意の波動に目覚めているが。

 

 四人対戦格ゲーも一段落し、談笑する。


「見合いだよな。やけに意気投合しているが、何かあったのか?」


 フライドポテトをつまみながら、オレは修太郎と話した。


「以前から、付き合いはあったんだよ」


 修太郎の実家は、呉服屋である。着物やそれ以外の衣装の依頼などで、たびたび話す機会はあったらしい。


「若いやつ相手だと、どうしても俺が駆り出されるからな」


 初めてあった衣笠先輩は、まだ子どもだったという。修太郎は、彼女を異性として全く意識していなかったそうだ。


「で、ストーカーしてきた元カノに刺されるし」


 一〇年前に交際していた女性から襲撃されて、脇腹にケガをした。


「そこからかな。本格的に交際をはじめたのは。うららちゃんの男気に惚れた」

「男気って。私はおしとやかで通しているんですよ!」


 プンプンという効果音が出そうなほど、衣笠先輩が怒る。


「うららちゃんは俺を傷つけない。俺もうららちゃんが誰かに傷つけられるのを見たくない」


 そこで、決心がついたと。


「と、いうわけで、今でも付き合いは続いているってわけだ」


 修太郎が話し終えると、実代が手を上げた。


「先輩は、ご結婚なさるおつもりで?」


「はい」と、先輩はきっぱり言う。


「お見合いだからではなく、添い遂げたいと」


 先輩が語ると、実代が「おおおお」とうなる。


「ところで、お前らはどうなんよ?」

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