第42話 モノマネ後輩

 オレは変に敵キャラを意識してしまい、実代みよに翻弄される。なんてことない体術さえ、ガードが追いつかない。


「黒髪ロングなトコとか、気品ある立ち居振る舞いとか、胸のなさとか」

「そんなこといったら、攻撃できねえじゃんか!」


 攻め手を封じられ、オレは防戦一方に。


「大丈夫っすよ、紺太こんたセンパイ。これくらいハンデがないと、あたしが初プレイで勝てないっすから」


 コイツ、どこまで卑怯なんだ?


 実代のキャラが持つ、超必殺技ゲージが溜まる。


「トドメっす」


 背面から無限ミサイルを発射した。


 ミサイルの集中砲火を浴びて、オレのロボが落ちる。


「うわあああ! 結局、一本目取られた!」

「やりい」


 初プレイで勝利を手にして、実代がガッツポーズをした。


「くっそー。やりやがったな」


 久しぶりに触ったこともある。が、実代の不意打ちから立ち直ることができなかった。


「もう、容赦しねえぞ。あくまでも、コイツはただのキャラクターだからな」


 衣笠先輩は、打倒すべき敵じゃないんだ。


「望むところっす。さっきと同じ条件で、もう一回勝負っすよ」

「おう。かかってこい!」


 こっちも、ようやく技を思い出したからな。


 開幕早々に、オレは実代のキャラを空中へ打ち上げた。

 同時にオレも飛んで、ケリやパンチを見舞う。


「うわーっ! そんな技、知らないっす!」

「巨体にごまかされたようだが、この巨人には、コンボ技もあるんだぜ!」


 鈍重な見た目に騙されて、実代はオレのコンボに対処できない様子だ。


「遠くから、ロケットパンチを撃っていればいいものを!」

「時代は進化しているんだぜ!」


 二本目は面目躍如で、オレの勝ちに。


「初見だろうと手加減なしっすねー。性格悪いっす」

「人のトラウマえぐろうとするやつに、言われたくねえぞ」


 お互い勝手がわかってきて、第三ラウンドはいい勝負になってくる。


「やっぱこの敵、強いな。さすがライバルだけあって、動きがこなれてる」

「主人公くんも、なかなか。まともにやりあうと、ココまで厄介なんすね。からめ手が重要なのがわかるっす」


 ようやく、まともなロボ同士のケンカになってきた。


城浦しろうらくん、人物描写が薄っぺらくてよ!」


 不意に、実代が衣笠先輩の口調をマネする。


「だからやめろっての。調子狂うから!」


 モノマネ攻撃によって、オレはまたコンボのタイミングを逃す。


 実代のスキを突いて、カウンターを見舞った。


「この卑劣漢。人としてどうなのかしら?」

「やめろやめろ!」


 カウンターしただけだろうが!


 また不意打ちを食らい、オレは敗北した。


「よっしゃ。勝ちっすね」

「くっそー」


 オレはヒザをパンパンと叩く。悔しい。


「あの、センパイ」


 珍しく、実代がゲームをやめた。オレと向き合う。


「ど、ど、どうした?」


 真剣な眼差しで実代に見つめられ、オレはたじろぐ。


「今日は、小説を持ってきてないぞ」


 書き上げた小説は、もう全部サイトの新人賞に投稿してしまった。

 持ってくるものはない。

 あとは、新作のプロットくらいだが、見せられるレベルには達していなかった。


 だから、今日はそのお詫びとしてゲームを持ってきたのである。


「違うっす。小説のことじゃなくってっすね」

「ああ、うん。こんな関係をやめたいとかか?」


 だとしたら、寂しい。しかし、実代が嫌だというなら尊重しないと。


「ぜんぜん違うっす。縁起でもないこといわないでほしいっす」

「そうか。よかった」

「この関係は、あたしも癒やされてるっす。むしろ、これからも続けてほしいっす。先輩に会うの、楽しみなんすから」

「おう。それは、どうも」


 オレは思わず、実代の頭を撫でてしまう。


「えへへ」といいながら、実代が照れくさそうにした。


「それよりっすね。お話があるんすよ」


 座り直し、実代が話を切り出す。


「なんだよ?」

「あの、衣笠先輩に会いに行く気はないっすか?」

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