第41話 ロボット格闘

「中間終わったっす!」


 自室で、実代みよが背伸びをする。


「成績がお互いマアマアだったのが、救いだな」

「よかったっす。センパイのご指導のおかげっすね」


 体をのけぞらせると、実代の胸が強調された。


「どうかしたっすか?」

「何も」

「ホントっすか? 目つきがいやらしかったっす」

「ないない」


 できるだけ、平静を装う。


 なんかお泊り以来、実代との距離が近い。


「ようやく、ゲームができるな」

「アレ? 紺太こんたセンパイ、小説の読み合いが目当てじゃなかったんすか?」


 実代がニヤニヤする。


 たしかに、今まではそうだった。今日は違う。


「気分転換だ。一度ゲームを挟んで、頭をクリアにしたい」

「そうっすね。根を詰めすぎてたっすからね」


 中間の間、オレは実代とずっと図書館で勉強ばかりしていた。

 家だと小説を書きたくなるし、実代の家だとゲームをしたくなる。

 図書館がちょうどいい。


「だから、今日はいつもと違うゲームを持ってきた」


 オレが持ってきたのは、ロボットゲームだ。


「おっ? 『大鋼鉄戦記 メタルオー』っすね。これほしかったんすよ!」


 3D格闘ゲームのパッケージを見て、実代が目をキラキラさせている。


「素手で殴り合うロボに、剣を振り回すロボに、ミサイルバババってロボに、ドリルなロボが出るっすよね!」

「まあ、ロボットが主役のゲームだからな」


 このゲームは、架空のロボットアニメの主人公同士が戦うゲームだ。

 同じ世界に連れてこられた各主人公たちは、相手を敵とみなしているか、みなされている。

 誤解を解くため、または邪魔な存在を排除するためと、戦う目的は様々だ。

 しかし、「拳で分かり合う」ゲームと言えば、わかりやすいだろうか。


「ロボ同士が戦うのに、理屈はいらないっすよね!」

「作中には、『誰が強いか決めようぜ』ってキャラも、含まれているからな」


 このゲーム世界は、「地球に危機が迫っている」といった緊迫感に乏しい。

 そのため、各キャラの性格は比較的穏やかだ。


「センパイには特別に、主人公を選ばせてあげるっすよ!」

「これ、オレが持ってきたゲームなんだがな!」


 ともあれ、お望み通りに主人公のメタルオーを操る男子高校生『テッペー』を選ぶ。


「あたしは女子を選ぶっす」


 実代が選んだのは、黒髪ロングの正統派ヒロイン、『ゴッド・アーム』のパイロット、『サオトメ・アム』だ。


「この子、ライバルなんすね?」


 作中では主人公と同じ学校に通う生徒会長である。

 だが正体は、メタルオーと競合している機関に所属する機体のエースパイロットだ。


「ああ。『主人公に戦いの道を歩んでほしくない』って、自身もロボを駆るんだよ。悲しい悪役って奴だな」

「自分が身代わりになって悪者退治に乗り出すとか、泣けるっす」


 実代がキャラ選択をして、ゲームが始まる。


「ロボットゲームって、自分でカスタマイズできるゲームもあるっすよね?」


 自機を操りながら、実代が問いかけてきた。


「あっちは持ってこなかった。ルールやら機体の特徴を覚えるのに一週間はかかるぞ」


 得意不得意があって、仕様が複雑すぎる。

 あと、主観視点だからモニターが二つ必要だ。通信対戦でないと遊べない。


「じゃあ、ムリっすね」


 わかる。実代の家は、そこまで機材が充実していない。

 もしモニタを複数用意していたら、何をしているのか怪しまれるところだ。


「なにより、オレはロボ同士は殴り合ってなんぼ、って思ってるからな」

「わかるっす!」


 実代なら、わかるなと思っていた。

 ロボットのプラモデルがズラッとガラスケースに並んでいるから。

 コイツはどちらかというと、少年が好きな遊びを好む。


「それはそうと、センパイ?」

「どうした?」


 実代の操るゴッド・アームが、流れるようなキックを放つ。


「このキャラのビジュアル、どことなく衣笠先輩を連想させますね」

「うおおおおおいっ!」


 ゴッド・アームの蹴りが、オレのメタルオーに炸裂した。

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