第四章 部長とバトルかよ!

第39話 同級生の推理

 怒涛のようなお泊りから一夜明け、オレは教室でグッタリしていた。


「おはよう、城浦しろうら


 オレの登校から一〇分ほど遅れて、片山かたやま 健介けんすけが教室に入る。


「おう片山。珍しくギリギリだな?」

「ダメダメ。あの人、全っ然起きなくて」


 片山は、朝がまちまちだ。本人は早起きで生活習慣も規則正しいのだが、オレと一緒に登校することのほうが珍しい。それも、例のお隣に住むOLのせいだ。


「あの人さ、出張だって言ってるのに、夜中にゲーム実況とかしてるんだよ? やんなっちゃう。だから起きられないんだっての」


 片山のお隣さんはOLのかたわら、動画サイトでゲーム実況を配信するゲーマーらしい。その界隈では有名な方なんだとか。


「だから、家に入る度に配信の機材やら新しいゲーム機やらコントローラーだらけなの。しんどいよー」

「OLさんは、出張にでられたか?」

「朝起こすのが大変だったよ。母が機転を利かせてボクを見に行かせていなかったら、大遅刻だろうね」


 どんな生活してるんだよ、お前のお隣さんは。


「ゲームだったら、キミとも話があうかもしれないね? ボクはゲームとかしないから、そっちは話が合わないんだよ」

「どうだろうな。生活リズムが違いすぎて、話もできなさそうだな」

 



 昼休み、オレは片山と向かい合って弁当を食う。


「ところで紺太、例の女のコはどうしたの?」


 やっぱ、その話題になるよな。


「ああ。何もなかったよ」

「別に詮索はしないけど。城浦が女子となにかあってもなくても、ボクには関係ないからね」

「助かる」


 オレも、コイツが年上のOLさんといい関係になったとしても、別に構わないし。


「どうせ、文芸部の後輩の子でしょ?」


 なんでそんなことまでわかるんだよ、コイツは?


「女のコの事情をどうして知ってるんだ、って顔をしているね。カンタンなことさ。接点がソレくらいしかないからだよ」


 ゲームか小説くらいしか、オレは外界との接触がない。


「キミは、文芸の同人誌とか興味がない。あったら、サークル内で活動しているはずだ」


 となれば、オレと女子が絡んでくるのは文芸部くらいであると、片山は推理した。


「文芸部二年の女子は、フリーの子がいない。みんな彼氏持ちだろ?」


 たしかに。クラスメイトにも文芸部の女子がいる。そいつはチャイムが鳴ると、サッカー部所属のカレシと学食へ向かった。


「三年で女子は衣笠先輩だけ。後は、後輩の相川あいかわさんくらいだろ? その後輩ちゃんは、城浦に懐いている」

「なんで後輩の相川が、オレにくっついてるって言えるんだよ?」

「ボク、文芸部に友だち多いからさ」


 ミステリのオススメを、文芸部からやたら聞かれるらしい。「エンタメを知るには、ミステリの仕組みを理解するのが手っ取り早い」ことは、エンタメ小説においてほぼ常識だ。


「知ってるかい? 実はエンタメ系を書いているのは、城浦だけじゃないんだ」

「へえ」

「衣笠先輩に言っていないだけで、文芸の賞に応募している生徒って多いんだよ。ネット小説でも、学生向けの賞って増えたでしょ?」

「言われてみれば」


 純粋に文芸を愛しているのは、衣笠先輩くらいだろう。


 他の部員も、やはり小説で食いたいらしく、エンタメ系の賞を獲ろうとしているらしいのだ。


 といっても、ホラーやミステリなど、キャラよりストーリーが問われる賞ばかりだが。


「でも、それと相川は関係ねえだろーが」

「文芸部からさんざん聞かされたよ。なんか城浦と後輩ちゃんの距離が近いって。お二人さん、自然と隣同士だっていうじゃないか」

「そうだっけ?」


 読む小説が似ているから、自然と席が隣になることが多い。


 そう、オレは思っていたんだがな。


「オレと衣笠先輩が家にいた、って可能性はねえんだな」

「衣笠先輩とキミが? 冗談よしてよっ」


 反論してみると、片山はクスクスと笑い出す。


「なにがおかしいんだよ?」

「ホントに何も知らないんだね? 衣笠先輩、GW中にお見合いの話が舞い込んだそうだよ。相手は、御曹司だってさ」


 事情は聞いていないが、やり手の実業家だという。


「そんな情報、どっから入手したんだ?」

「ボク、文芸部に友だち多いから」


 また、これだよ。どうせオレは、文芸部でハブられてますよー。


「それに、相手のことなら、ひょっとするとって節はある」

「どんな?」

「お隣さん、ウェディングプランナーなわけ。急に忙しくなったんだって」


 なるほど。情報はそっちから入ってくるわけか。


 もちろん個人情報保護の観点から、相手は何も教えない。しかし、タイミングが合いすぎている。もしやと察したようだ。


「今から当分の間、クライアントのところで色々打ち合わせなんだって」

「大変だなぁ。会えなくなって寂しくねえか?」

 

 オレが気を使うと、「全然」と、片山は返した。


「その分、片付けに専念できるからいいよ」


 片山が、整理整頓フェチぶりを発揮した。


「帰ったら、ピッカピカにして、ビックリさせてやるんだぁ。今から楽しみでしょうがないよ」


 ダメだ。コイツのヘンタイぶりには付き合いきれん。

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