第38話 とうとう初キス!?

実代みよお前、そんなこと急に言うなよ! 意識しちまうだろ!」


 胸が急にドキドキし始めた。


「だって、あたしだってどうしたらいいか!」

「お前も混乱してんじゃねえよ!」


 どうするよ。いい加減、腕が辛くなってきたぞ。しかし、少しでも動いたら唇が当たりそうだし。


「あたし、紺太こんたセンパイならいいっすよ」


 いきなり、実代が目を閉じる。


 後輩のこんないじらしい姿は、初めて見た。


 実代はムダに顔が整っている。本気で攻められて、落ちない異性はいないかもしれない。


 そんな実代が、目の前にいる。


「おい、待て待て! 落ち着けって!」

「センパイがしたいなら、いいっす。あたしは受け入れるっす」


 いやいや、ちょっと待ってほしいんだが。まだ慌てる時間じゃない。


「とにかく落ち着け実代」

「落ち着くのは、紺太センパイの方っす。するんなら早くしてほしいっす」


 瞳を閉じたまま、実代はじっとする。


 急かすんじゃねえ。


「ん?」


 実代のやつ、身体が震えているじゃねえかよ。やせがまんしていたか。


「ったく」


 オレは、身体を横へ預けた。流されてしまいそうになるのを、必死でこらえる。


「センパイ?」


 尋ねられても、オレは答えない。目的通り、実代の口を拭いてやる。


「ゲームするぞ。いいな」


 キスなんて、勢いでするものじゃない。


「……そういうとこっす」

「なんだよ?」

「なんでもないっす!」


 実代は、コントローラーを握った。


 ゲームは実代に選ばせる。


 ちなみに、ボッコボコにされた。


 家族にバレないうちに、家へと返す。


 実代は自宅の近くで、こちらに振り返る。


「では紺太センパイ、お邪魔したっす。次からは、またウチで遊ぶっす」


 オレンジのリュックを背負ったまま、実代がペコリと頭を下げた。


「でもいいのか? 何度もお邪魔して」

「いいっす。あたしも誘い甲斐があるっすから」


 なんだよ、誘い甲斐って?


「じゃあ、また明日学校で」

「ああ。気をつけてな」


 オレが手をふると、実代はまたペコっとあいさつをして走り去っていった。


 濃密なGWだったな。とても三日間だけの出来事とは思えない。かなりの時間を、実代と過ごした。情が移ってしまいそうだぜ。


 帰ろうとすると、後ろからダダダダダーっとなにかの激しい足音が。


「セーンパイッ」


 やっぱり実代か。


「なんだよ忘れ物か?」



 振り返ろうとした瞬間、頬に柔らかいものが触れた。



 実代が、オレの頬に唇を当てている。



「……み、実代?」

「えへへぇ。泊めてくれたお礼っす」

「あ、の、そんな。イヤじゃないのか?」

「ぜーんぜん。じゃあ今度こそホントに!」


 オレの顔を見ようともせず、実代はすごい勢いで走り去っていく。


 本当に、濃密な日々だったなぁ。後輩にキスまでされるとは。


「ただいま」

「おかえりー」


 家に帰ると、両親と姉貴が帰っていた。表に車が駐めてあったから、もしやと思っていたが。


美智子みちこ姉、今日は遅くなるって言ってなかったか?」

「道が空いていてさ。すぐ帰ってきた」


 姉貴が言うと、両親が手をバタバタさせる。


「違うんだよ! 美智子のやつ、ウソつきやがってさ!」

「あんたが油断している間に、早く帰ってきてカノジョの顔を拝んでやるんだって、大急ぎで帰ってきたのよ!」


 なんという策士か。早めに帰らせてよかった。


「残念だったな。あいつならもう帰ったぜ」

「そうみたいだね。でも、これでオンナなのは確定したからいいや」


 真知子姉が、ハイボールの缶を開ける。


「なんでわかるんだよ?」

「身内に見せられない友だちなんて、異性くらいなもんだし」


 ぬう、鋭い。オレの胸が、驚きで弾む。


「図星だったっぽいね」

「なんのことやら。真知子姉」

「まあいいけどね」


 真知子姉が、ハイボールを空ける。


「大事にしなよ。同性のお友だちができるなんて、奇跡みたいなもんだから」

「肝に銘じておくよ」


 そう、オレとアイツは友だちだよな。


 友だちでいいはずだ。

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