第37話 ピザで急接近

 オレは自分の部屋にピザを持っていく。


 実代みよは、チュートリアルモードで遊んでいた。技の練習台に、オレが使っていたラスボスを使用している。


「マルゲリータだが、よかったか?」

紺太こんたセンパイが用意してくれるなら、なんでも食べるっす。いただきまーす。ハフハフ」


 実代はうまそうに、ピザにかじりついた。


「冷めてないか? ちょっと隣人と話し込んでいたから、ヤバイかなって」


 コーラを開けて、お互いのコップに注ぐ。やっぱ、ピザと言えばコーラだろ。


「大丈夫っす。おいひいっす」


 伸びるチーズを、実代はズズズッと勢いよくすすった。


「センパイも早く」

「おう」


 ハフハフ。よかった。ぬるくなってはいないな。チーズがニューっと伸びて、うまい。 


「それにしても、危なかった」


 緊張をほぐすため、コーラでノドを潤す。


「センパイ、どうしたんすか?」

「上の階にいるクラスメイトに、お前の存在がバレた」

「マジっすか!?」


 片山の特徴と推理を、オレは実代に聞かせてやる。


 少なくとも、オレがここに女を連れ込んでいることはわかっているように思えた。


「……鋭いっすね。ヘタな女子より、カンがいいっす」


 といいつつ、何も困っていないかのように実代はピザをハフハフと食う。


「だろ? ヤバイんだよあいつは」


 でも、オレに女子がいようが言いふらすようなやつじゃない。だから友人をやっている。


「あいつは自分の知的好奇心を満たせれば、それでOKなヤツだから」


 片山にとって重要なのは、推理が当たっているかどうかしかない。


「変わってるっすね?」

「ミス研だから、ああいう感じなのかもな」


 片山は、小説を書いたりはしない。

 自分には文才がないとあきらめている。

 しかし、ミステリのトリックを解くのは好きなようだ。

 いわゆる「読み専」である。


「しかも、『作者の手癖から犯人を導き出す』のを得意としていたなぁ。オレも何回も推理者の犯人とトリックを暴かれた」

「めんどくさっ! あたし、片山先輩に小説読ませたくないっす」


 実代の感想は、もっともだ。


 片山はミステリ作家にとって、もっとも厄介なタイプであろう。


「じゃあ、OLさんのお部屋を片付けているのも?」

「多分、その人の過去を推理している可能性は高い」


 そういう意味では、片山は異様かもしれない。


「怖っ! ちょっと深くお知り合いにはなりたくないタイプっすね」


 実代が、身体を仰け反らせる。


「詮索はするが、相手に追求はしねえから。あいつは、知りたいだけなんだ」

「それでも怖いっすよ! メモとか取ってそうっす」

「あはは。それはオレも思った」


 そこで、オレのスマホが震えた。親からだ。


「ああ、夜の八時には帰るってよ」

「ウチもさっき連絡があって、七時には帰ってきなさいってあったっす」

「わかった。それまでには返す。じゃあ、何をする? 遊ぶか、小説を書くか」

「遊ぶっす」


 方針が決まったので、ピザを食い直す。


 それにしても実代のやつ、よく食うなぁ。お互いに半分ずつか。結構、腹にたまる。昼を軽めにしたから、まだ余裕はあったつもりだったが。


「ごちそうさまっす。おいしかったぁ」


 さっそく、実代はゲームを始めようとした。


 だが、ミヨの口にはベッタリとトマトソースが。


「おい、実代。口吹けよ。ほら」


 オレはピザについていたナプキンで、実代の口を拭こうとする。


「え? わっ」


 突然、実代が身体を後ろに倒した。


「ちょっとお前!?」


 その拍子に、オレも一緒になって前のめりに。


 ベッドの縁を掴んで、かろうじて美夜を押しつぶすことは避けられた。


 しかし……。


「セ、センパイ、顔が近いっす」


 目をウルウルとさせて、実代がオレを見つめる。めちゃめちゃ距離が近い。


「お前が急に後ろに下がるからだろ?」


 腕がプルプルと震えている。この体勢は結構キツイ。


「だって、ガチでキスしそうな距離だったので!」

「キ!?」


 待てよ。キスって!? 発想が飛びすぎだろ!

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