第36話 クラスメイトとニアミス

 実代みよが描くホームドラマか。面白そうだな。


 舞台は、親が再婚して兄と妹になった犬猿の仲コンビという内容である。


 まあ、今だと定番か。


「どうっすか、紺太こんたセンパイ」


 珍しく、実代は不安げだ。かなり攻めた内容だからかも。


「これはヤバイな。初っ端からつかみOKじゃねえか。ラッキースケベのバランスもいい」


 着替え中の部屋に乱入や、風呂に突撃してしまうなどのイベントも、うまく彼ららしいオリジナリティが出ている。

 これは読み応えがありそうだ。


「うーん……ブッホ!」


 読み進めていくうちに、オレは笑いが止まらなくなった。


「なんなんだよ、コイツら。ツッコミ不在の恐怖ってこのことか!」


 どっちもボケキャラだから、展開がエスカレートしすぎて天井を知らない。


「こいつらやべえな。間接キスがイヤだからって、家族全員に箸を舐めさせてロシアン間接キスさせるとか。頭が悪すぎる」

「バカバカしいホームコメディにしたくてやってみたら、変なテンションになっちゃって」

「いやあ、倫理的にどうよって思う場面もあったよ。でも、なんかコイツらなら仕方ないっていう諦観めいた感覚に襲われるんだよ」


『ああ、コイツらはこうやってしか生きていけねえんだな』って、エモさも伺える。


「コメディとしては行き過ぎだが、ホームドラマとしては一〇〇点満点じゃねえか?」

「ありがとうっす」

「よし。もう今日はこれで打ち切ろうぜ。あとはゲーム三昧と行くか」

「うっす!」


 その前に、昼メシを食おうとなった。


「カレーは、思ってたほど余ってないっすね。よし」


 余ったカレーを使って、実代はカレーうどんにするという。


「OKだ。じゃあ手伝おう」

「ありがとうっす」


 二人でキッチンへ。


「いただきます。ああ、うまい」

「センパイ、ありがとうっす」

「いや、ほんとにウマイよ。ダシの風味が最高」


 あっさりめのダシなのに、カレーに負けていない。このバランスはマネしたいが、一朝一夕では難しかろう。


「センパイ、ロシアン間接キスすす、するっす」

「お前さっき、噛んだろ?」

「噛んでないっす」


 実代が自分で言って、吹きかける。


「第一、二人だけなのになんでロシアンが成立すると思ってやがるんだよ、お前は」

「わかんないっすよ?」


 いやいやわかります。


「カレーの味を堪能してる時点で、お前とキスしてる感じだぜ」

「センパイ、もうセンパイそういうとこ!」


 オレが絶賛すると、実代が興奮しだした。なんだってんだ?


「とにかく、ごちそうさま。ありがとうな、いつも」

「おそまつさまっす」


 二人で洗い物をして、自室でゲームをやりに行く


「今日は、いつもと違うゲームでもやるか。これだ」


 現代ファンタジRPGが原作の、格闘ゲームだ。ロールプレイングが原作なのに、この格闘ゲームは「続編」の立ち位置なのである。


「珍しいっすよね。こういう展開って」

「だから、それだけこのシリーズが愛されてるってことだな。この作品も、ホームコメディ要素が強い」

「ああ、妹ちゃん最高っすよね! プレイアブルじゃないのがもったいないっす」


 プレイアブル化されたら、このコを殴らないといけない。だからいいや。


「さっそくやろうぜ」

「いくっすよ。あたしは主人公の『総長』で」

「いいな。オレは表のラスボスで」


 この二人はコンパチ、いわゆる同キャラの性能違いだ。


 表のラスボスは、主人公のいわば影の部分である。タガが外れている分攻撃力は高い。反面、装甲は紙なので受けるダメージも一.五割増になっている。


「だーっ! 負けたーっ!」

「卑屈なキャラは、自分を乗り越えないと芽が出ないんすよ!」


 実代が、力こぶを作った。


 その後も、二時間くらいゲームで遊び、疲れてくる。 


「出前を取ろうと思っていたんだが、どうしたい?」

「おやつっすか。ピザをお願いしてもいいっすか?」

「おう、わかった。でもお前、部屋から出てくるなよ」


 もし、出前のバイトが知り合いとかだったら、変なウワサが立つかもしれない。


「うっす。任せてくださいっす」


 二〇分後、出前が来た。


「ちわーピザ屋っす」

「どうもー」


 知り合いじゃない。よかったぁ。


 出前の受け取りを終えると、またチャイムが。


「ごめんくださーい。城浦しろうらいるかい?」


 この声は。


「おっす、片山かたやまか。いるぞ」


 オレは、玄関で片山と話す。


 片山とは、このマンションに越してきた際に知り合った。


「なんの用だ?」

「お隣が明日から出張するんだって。準備をするから、今日のお片付けがなくなったんだよ。でさ、せっかくだし一緒に遊ばないかって思ってさぁ」


 優しいな、コイツは。


「悪い。客が来てるんだよ」

「うん。女のコだよね?」

「いやいやいやいや、男だぜオトコ」

「女物の靴が一足多いよ」

「スー……」


 片山の視線は、玄関の足元に写っていた。


 敏い。コイツはミステリ好きの主婦並みにカンが冴える。

 コイツが世話をしているOLさんが、ミステリ好きなんだよな。

 時間を忘れたくて、電車の中でじっくりミステリを読むという。


「なんか悪かったね。お邪魔さま」

「すまん。また今度遊ぼうぜ」

「ありがとう。じゃあ明日学校で」


 どうにか、まいたか。

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