第35話 脱稿!

「できたっす。じゃあ紺太こんたセンパイ、あたしは推敲してるっす」


 完成したのか、実代みよは書き直しにかかった。


「おう。オレも、もうちょっとでできるからよ」

「楽しみにしてるっす」


 三〇分かけて、キーボードを叩き終える。


 オレもできあがったので、見直す。誤字脱字の修正を入れて、サイトへアップ、と。


「お絵かきサイトからお題を拾ってきて各パターンだが、結構勉強になるな」


 今回は、いつもと趣向を変えてみた。

 いつもは頭からひねり出すのだが、ネットにたくさんあるお題サイトを巡ってお題を引っ張り出し、ショートショートを書くというものである。


 役に立つのかと半信半疑だった。

 しかし、やってみると案外どの作家にも似ない。


「そうなんすよ。苦手なジャンルで書くと、よりいいっす。弱点がわかるんで」


 あまり意識していないテーマで書くと、自分の作品を客観視できる。これは発見だった。


「自分の弱点って、案外見えないもんだよな」

「だから、センパイの存在って貴重なんすよ。すごくちゃんと見てくれるんで」

「それはどうも。でも、ズケズケ言われてイヤじゃねえか?」

「別に。意見を受け入れるかどうかは、あたし次第なんで」


 ドライだなぁ。


 たしかに、実代はチャレンジャーだ。人の意見も受け入れるときもあれば、言うとおりに書き直さないときも。でも、柔軟性は実代の方が上かもしれない。


 文芸サークルにいる事自体、オレは苦手にしている。

 だからオレは、自分の得意や苦手に気づけなかったんだろう。


「得意なことだけ書いていればいい」って考えも、もちろんある。が、創作の幅を広げいたいときには、苦手に挑むのは最適だ。思わぬ反応があったりと、意外な発見があったりする。これだから、小説はやめられない。


 サイトに掲載されている、他の小説も読んでみた。


「うわあ、みんな気合入ってるなあ」

「どれも、コンテストの応募作っすからね」


 現在、一万文字以内のコンテストが開催中である。一〇〇〇文字だけのものであったり、一万文字ギリギリまで書いていたりと様々だ。


「一万文字以内に納めろってコンテストだと、九〇〇〇文字とか考える人とかいるな。詰めっ詰めになって、読むほうがしんどいときがあるんだ」


 オレが読書苦手なのか、とすら思ってしまう時がある。


「そうっすね。でもお話のバランスからして意味がないなら、別にギリギリ攻めなくても、と思うっすね」


 コンテストによって最適な文字数ってのは、たしかにあるみたいだ。


「作品サイトでの評価も、まあまあっす。GWだから、ヒマを持て余してるんすかね?」


 どの人も、行楽にでかけているわけじゃない。家でマッタリ過ごしたい人だっている。オレたちのような。


「じゃあ、作品を見ていいっすか?」

「どうぞどうぞ。コーヒー淹れてくる」


 コーヒーのおかわりを用意して、部屋に戻った。


「どうだった?」

「へー。ミステリっすか」


 ミステリといっていいかわからんが、「美少女JKの二人が、日常の謎を説く話」にしてみた。ぶっちゃけ、人気はヒロインたち頼みである。


「ヒロインのかわいさでゴリ押ししてるっすね」

「だろ? あんまり頭がいいほうじゃねえから、ミステリって苦手なんだよ」

「でも、こんなもんじゃないっすかねぇ? あんまり難しすぎても、『なんでこんなアタマのネジが飛んでるやつに、論理的思考ができるんだよ?』ってツッコまれるんで」


 言われると思ったので、思考パターンやヒラメキのクセなどで工夫してみたのだ。


「ヒロインAが直感型天然っ娘で、Bが論理的なコだけど世間知らず、と」


 自分の身の回りもロクに整理できないBを、家庭的でただのサスペンスドラマ好きのAが相棒として支えるのだ。


「ああ。これでいいのかわからんが」

「キャラ配置って、これでいいんすよ。大事なのは、お話なので」


 登場人物に関して、特に意見はなかった。キャラとして立っていて、論理の幅にムリもないという。JKらしさも出ていたとか。


「ていうか、センパイの書くJK、大好きなんすよ」

「おお、ありがとうな」


 コーヒーを飲みながら、オレは胸を落ち着かせた。意外な評価を受けて、ドキドキしている。


「ほんとは、おなじ高校に通うギャルを怪盗Cに仕立て上げて、捕物にするって手も考えていたんだ」

「それは別案で行くっす」


 実代から、即答された。


「アイデアとしては、なかなかっす、でも、詰め込み過ぎかもしれないっす。怪盗と探偵、どっちを活躍させるか決まってないうちから対決パターンは、どっちかの個性が死ぬっす」

「だよなあ」


 怪盗モノは、別で話を考えてみるか。


「キャラを足してコントロールできるなら、文句は言わないっす。けど、読者がついてきてくれるかは謎っすね。ただでさえ、ネット小説でミステリって難しいので」


 速攻で犯人当てる人とか、いるからな。こっちは必死で考えているのに、すぐに直感で当てられてしまう。


「その直感型のコが側にいるのが、バランスいいのかもしれないっすね」

「そっか。参考になった」


 では、実代の作品を。


「ホームコメディだな」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る