第32話 どこで眠らせるか

「……ゲームしてから、考えようぜ」

「そうっすね」

「候補は、頭の中でシミュレートしているから、待ってろ」


 実代みよが、「うっす」と返してくる。


 お互いに風呂上がりで頭がボーッとしているのか、面白いように技が入った。しかし、大技のコマンドに何度も失敗する。寝ぼけているのだろう。


「うわ。想像以上にきてるっす。慣れているはずなのに、全然コマンドが決まらないっす」

「俺もだ。ちくしょう。あー負けた」

「勝ったあ。ふわああ」


 実代の方も、目をこすり始めた。コイツも限界なのだ。




 ジュースで覚醒を試みる。

 しかし、付け焼き刃に過ぎない。

 コーヒーにしておくべきだったか。しかし、寝る前のカフェインはトイレに行きたくなるからなあ。


 実代も同じことを考えているのか、ポテチの消費がやたら早い。


「おい」

「はっ。寝てないっす」


 食いながら寝そうになっている。


「ちょっとハシャギすぎたっすね。すんません紺太こんたセンパイ。困るようなら、リビングで寝るっすよ」


 少しさみしげに、実代はつぶやく。


「オレが両親の部屋で寝る。お前は、ここで寝ろ」


 女の子一人、リビングで眠らせるわけにもいかない。

 こいつなら、変なことはしないと思えるし。


 PCもロックしてあるから、大丈夫だ。


 断じて、触られて困ることはない。


「いや、あたしセンパイの部屋で寝て理性を保てるかわかんないっす」


 目をグルグルと回しながら、実代は反論した。


「なんでだよ? オレに変な感情なんて、持ってないだろ?」


 自慢ではないが、オレはマジでモテない。

 だから、どうして実代がこんなに懐いているのかわからないのだ。


「一緒には寝れないぞ。シングルベッドだし。女のコを床で眠らせるわけにはいかねえ」


 かといって、姉貴の部屋はもっとダメだ。

 あいつは敏い。女を連れ込んだと、すぐにバレるだろう。

 ベッドを使われたら、余計に変な印象を持たれる。


「床でいいっすよ!」

「ダメだ。ここフローリングだしな。痛い」

「いいのに」


 俺たちの問答に比例して、対戦もヒートアップしていた。


「やべ。もう限界だ。終わる」


 頭がフラフラして、コントローラーを床に置く。

 今になって、フロの効果が出たか。


「仕方ないっすね。今夜は『紺太センパイのお部屋侵入二四時』を、堪能したかったんすけどね」


 誰も見ねえよ。そんな番組は。


「ダメだっての」


 最後の力を振り絞って、俺は部屋を片付け終わった。

 滞在時間は、だいたい小一時間くらいか。結構散らかしたな。


「とにかく、お前はそこで寝るんだ。いいな。じゃあな」


 実代を一人残して、俺はキッチンへ。

 空になったジュースのボトルを捨てる。


「さて、明日に備えて寝ますかね」


 余ったお茶は冷蔵庫に戻して、ソファに。

 こういうとき、ベッドにできるタイプのソファって便利だな。

 買ってよかったぜ。


「おっと?」


 俺は、柔らかい感触に包まれた。


 実代の太ももに、俺は眠らされている。


「こうやったら、一緒に寝れるっすかね」

「だめだってぇ」


 いかん、ここで寝てしまったら、何をされるか。


 俺は、実代を払いのけようとした。しかし、手に力が入らない。


 実代が、手を重ねてきた。

 片方の手で、俺の肩をポンポンとしてくる。

 子どもをあやすみたいに。


「おやすみなさいセンパイ。一緒に寝てあげるっすからね」


 ヤバイ。本格的に眠くなってきた。


「センパイ、実代の隣、開いてるっすよ」


 身体をソファに横たえながら、実代が誘惑してくる。


「そういうのいいからっ、早く部屋に行けよ」

「ここにいるっす。センパイの寝顔を見ながら寝るっすよ」

「バッカお前……」


 言い返そうと思ったら、実代は眠ってしまった。


 さっさとこいつを部屋へ。くっそ。こいつ、手を握りながら寝てやがる。


「……やめやめ。寝る」


 もうダメだ。まぶたに力が入らない。

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