第31話 スウェットを勝手に着られた
全然、あったまった感覚がない。明日、あいつが帰ったら入り直そう。
それにしても、やけに今日の実代は積極的だ。
オレ、そこまで慕われる要素あったっけ?
何も想像がつかない。
でも、オレとあいつの接点は、やはり衣笠先輩の存在が大きいだろう。
あのラノベ嫌いに噛み付いた、もうひとりの部員というのが、オレと実代の共通点だ。
まあ、そのせいで文芸部で居場所はほぼないが。
「おフロ、いただきましたぁ」
上にスウェットを着ただけの実代が、タオルで髪を拭きながらキッチンに来た。
「ああ、冷蔵庫にアイスあるから、勝手に食……ってお前!?」
「なんすか、
棒アイスをくわえたまま、実代は首をかしげる。
「何を当たり前のように、オレのスウェット使ってんだよ!?」
「安心するっす。下は自前なんで」
実代が、スウェットをめくった。
下は、ピッチリとしたショートスパッツである。
ヨガなどの運動できるようなタイプだ。
「じゃなくって、上だよ! なんでオレのスウェット使ってんだって!」
「そこにあったんで」
「洗ったばっかのやつじゃん! 臭くねえのかよ?」
「別に気にしないっす。やっぱ男の人の家に入ったら、スウェットか裸Yシャツっすよね」
変なラブコメマンガの影響を受けすぎだろ! どんだけピンク脳なんだよこいつは!
「それはそうと、お部屋に案内するっすよ。今日は寝かさないっすからね」
いかがわいい言い方は、やめなさい。
「今夜はどんなテクで、あたしを翻弄してくれるんすか?」
言い方ぁ!
「ああ。ちょっと待ってろ。お菓子用意するから」
「手伝うっす」
アイスを食い終わり、手ぶらになった実代がお菓子を大量に持ってくれた。
オレは重いお茶とジュースのデカイボトルを持つ。
「ここだ。開けるから待ってろ」
「うっす。うわああ……」
実代が、ため息をつく。
「ベッド以外、なにもないっす」
「集中するスペースにしたくてな。家具は最低限にしている」
本は基本的に電子で、PCか端末で読む。
「ゲームはここだ。用意するから待っとけ」
TVの下にある棚から、ゲーム機を引っ張り出す。
その間、実代はオレのゴミ箱をチェックしていた。
「なにもないぞ」
ちゃんと、その都度後片付けをしている。
だが、実代はゴミ箱の配置が気になる模様だ。
「なるほど、こうやってポイッってすればいいから……ふむふむ」
男子の嗜みを、シミュレートするなよ。
「いいから、ゲームを始めるぞ」
「はいっす。今日はどんなゲームをするっすか?」
「いつも遊んでいるゲームだ」
もうフロも入ってしまって、眠い。軽めに遊んで、明日に備えて寝るつもりだ。
「寝るんすか? こんな美少女を置いて?」
ポテチをかじって、実代が身を寄せてくる。
「美少女は余計だ。オレは寝る」
「もっとGWらしいことしましょうよ。一緒に怖い映画見たり、朝まで双六したり」
ダダをこねる実代に、オレは何度も袖を引っ張られた。
「それは非情にそそられる内容だ」
「だったら」
「でも、ダメだ」
できれば、最終日こそ充実させたいんだよ。
「あと、お前を呼んだのは明日のためだ」
格ゲーをしながら、実代と会話する。
「なんのことっすか?」
「お前、ノートPCもってこいって行ったよな?」
「はいっす。忘れてないっす」
実代が、リュックを引き寄せた。
「明日は、二人で執筆会にしようかと思っている」
「なるほど。いいっすね! GWの最終日にぴったりっす」
オレも、文芸部らしくていいと考えている。
「だから、事故りたくないんだよ」
「わかったっす。じゃあ、今日はめいっぱい遊ぶっす」
「眠くなるまで、つきあってやんよ」
方針が決まり、対戦に熱が入り始めた。
「それはそうとセンパイ?」
「なんだよ」
「あたしは今日、どこで眠ればよいので?」
聞かれた瞬間、オレの使っていたキャラが場外に落ちて負けに。
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