第30話 後輩が、水着で風呂に乱入してきた

 風呂に入る順番を決めることになったが、実代みよは「お先にどうぞ、紺太こんたセンパイ」と言って聞かない。


 そこまでいうならと、オレが一番風呂をいただく。


 女性に受けそうな、バスボムを放り込む。これも、姉貴が買ってきたものだ。オレはほとんど使わないが、実代にはウケそうである。


「ふう」


 まさか、こんなことになるとは。


 後輩の女子を家に上げて、一緒に飯を作って、食って、おまけに風呂かぁ。


 充実しすぎているではないか? 


 しかも、ソレ以前から、デートばっかりしている。


 唐突に、風呂場の扉が開く。


「なんだよ実代。トイレはこっちじゃね――」

「センパーイ。お背中流しに来たっすよー」

「わあああああ!?」



 オレの目の前に、白ビキニを来た実代が立っている。



「お前ちょっと待て! なにやってんだ!?」


 慌てて湯船に深く身体を沈めた。これって本来は、ラノベでいうと女子のポジションじゃねえか!


「なにって、よくあるラノベシチュの再現っすよ」

「再現しすぎだろうが! 何を考えてんだ!」


 まったく、実代は何をしでかすかわかったもんじゃない。


「いや、でも、女子がお泊りするならお約束かなーと思ったんすよねぇ」

「待て待て。そんな義理立てなんてせんでもいい!」


 オレが退席を促すと、実代は少し寂しそうな顔になった。


「あたし、魅力ないっすかねぇ」


 ビキニの肩ヒモを引っ張りながら、実代は口を尖らせる。


 目のやり場に困った。


 コイツ、出るとこは出て引っ込んでいるところは引っ込んでいるからなぁ。セも高すぎず低すぎず、ちょうどいい。


「魅力がありすぎるの! お前、その、結構男子からも人気あるだろ?」

「ないっすよ。性格悪いっすもん」

「いや、お前は愛想が悪いだけで、嫌われてはいない」

「そうなんすか? 避けられていると思ってたっす」


 断じて違う。実代は高嶺の花過ぎて、話すのを遠慮してしまうらしい。以前、実代と同じ学年の男子に聞いてみた。


「お前さ、マジで自分の身体を大事にしろ。頼むから」

「じゃあ、寒いんでご一緒するっす」


 コイツ、湯船に入ってきやがった!


「わわわわ! オレが出るから! お前は温まっていなさい!」


 オレは慌てて、出ようとする。


「いえいえ。遠慮なさらず」


 実代は、オレの方に腕を回してきた。


 浴槽が狭い!


「一緒に入ったら、経済的じゃないっすか」

「そんなに大差ねえよ! 風呂代一人分くらいで!」

「じゃあまあ、背中だけ流させてほしいっす。これも資料なんで」

「小説のか?」

「うっす。ハダカの男の背中ってのを観察しておきたいんすよ」


 どんなシチュエーションなんだ?


「でも、センパイのリアクションで、だいたい男性がラッキースケベに遭うとどんな反応をするかわかったっすけど」


 ラブコメかよ。任侠モノでも書くのかと思ったぜ。


「わかったよ。今日はモルモットになってやる」

「やった」

「ただし背中だけな」


 腰にタオルを巻き、オレは覚悟を決める。


「ゴシゴシ」

「う、うおおお」


 変な声が出た。


「どうっすか? すぐ後ろに半裸の少女がいるって状況は」

「想像以上に、背徳的だな」


 生ツバを、飲み込みそうになる。


「お前、よく平気だな?」

「だってセンパイですもん。他の男子だったら、誘われた段階で逃げてるっす」


 実代が脇の下に手を入れて、オレの脇腹をなぞった。


「じゃあお前、今まで誰とも?」

「異性と付き合ったことなんて、ないっす」


 反対側の脇腹も、実代は撫でるように洗う。程よい力加減で、心地よい。


「にしては手慣れてねえ?」

「参考書は、ラノベだけっす」


 お湯で洗い流し、至福の時間は終わった。


「ありがとうな。後はごゆっくり」


 オレは風呂を出る。


「じゃあ、お風呂お借りするっすね」


 実代が唐突に、肩ヒモを外す。


 白い肩が、湯船の中であらわになった。


 オレは急いで退散する。

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