第29話 初めての共同作業?
「ほええ。これが
高層マンションを見上げながら、
「ただの安マンションだ。ちなみに賃貸だぜ」
「でも、なんか居心地がよさそうっす」
オレの真上は、例の汚部屋OLが住んでいる。
その隣にいるのが、クラスメイトだ。
「例の、お友だちさんが通い妻をされているという」
「お前、それ絶対クラスメイトの前で言うなよっ。気にしてるんだからな」
だから、オレの部屋に呼ぶのは怖かったのである。
ニアミスの危険があるから。
「うっす。じゃあ、お邪魔しまっす」
友人と鉢合わせないように、こっそりと中へ入れる。
「風呂とかどうする?」
「いいんすか?」
「いいんだよ。今日は自分の家だと思ってくれ」
「ありがとうっす。でも、先に食べちゃいましょうよ。あとでゆっくりお風呂いただきます」
実代が具材を切っている間、オレは米を炊くことに。
「ぬ、スー……」
だが、炊飯器を開けて愕然とした。
ゴハンが固くなっていたのである。
しかも大量に残っていた。
まるまる、二人分はあろう。
「スマン。炊けていたのを忘れて、放置しちまった」
外食が多かったから、ライスの存在を意識していなかった。
「よし。夕飯は、オムカレーにするぞ」
実代が、目を輝かせる。
「初めての、共同作業っすね!」
オレは、胸がドキッとした。
「や、やめろ。マジで。脳に来る」
「あ、あはは。自分でも言っていて、ドキドキしたっす」
カレー粉の箱で、実代は自分の顔を隠す。
気を取り直して、料理再開だ。
カレー鍋をかき混ぜている実代の姿に、また緊張が走る。
「なあ実代」
「なんすか?」
エプロン姿で、実代は振り返った。
「うちのおふくろでさえ、エプロンはしないんだよ」
「そうなんすね」
「いや、普通女の人って、家で料理するときエプロンってしねえからな。少なくとも、ウチはやらない」
あんなシチュエーションは、フィクションの中だけだろ。普通は。
だいたい、エプロンなんて服が汚れたり油がはねたりするのを防止するためにある。
しかし、ズボラさんや無防備な人は、エプロンが必要ない服を着るものだ。
「そういえば、そうっすね」
「しかもお前、それ持参だろ?」
「そうっす。これを持ってきたかったんすよ。かわいいっしょ」
「うん。めっちゃ似合う」
ストレートに感想を言うと、実代がボッと顔を朱に染めた。
「うおお。すごい破壊力っすね。センパイって、誰もいないとそんな態度になるんすね」
「ホントに似合うんだって。お前、普段はちょいボーイッシュだろ? ギャップがヤバイ」
「なるほど。作家の資料敵価値としてドンピシャだったと」
なんかガッカリさせてしまったか?
「いや。ずっと憧れていた風景だからな」
「誰かに作ってもらったこと、ないんすか?」
「ないよ」
幼馴染とかいないし。女の人っつっても、おふくろか姉貴くらいだ。
「姉貴なんて、カップラーメンですら焦がすんだぜ」
「カップ麺を焦がすなんて、どういう状況なんすか?」
「全然わからない。ヤツは雰囲気で料理しているからな。だから、厨房に立たせてもらえないんだ。食べ歩きは好きで、うまい店とかはめちゃ知っているんだがな」
お友だちが料理できる人でよかった。
「このオムカレーも、姉貴が連れてってくれた店で知ったんだ」
オムレツを、ケチャップ抜きの焼き飯カレーの上に乗せる。その後、上を切った。トロットロの卵が、カレーを包み込む。
「うわああ」
完成したオムカレーを向かい合って食べる。
「最高っす!」
「オムライスの実物は、もっとうまいけどな。カレーは、実代のが好きかも」
「あわわあ。ありがとうっす」
「礼を言うのはこっちだよ。ホントにうまい。ありがとうな」
食べ終わった直後、風呂が沸いたというアナウンスが。
「この勢いで、一緒に入るっすよセンパイ」
「調子に乗んなっ」
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