第26話 ノウハウコレクター
「最初は、三点リーダの付け方を探していたんだよ」
見つけたはいいものの、「カギカッコの上は空白をあけるのかどうか」が気になりだし、手当たりしだいに答えを探し求めた。
行為は、だんだんとエスカレートしていく。
小説投稿サイトで書いてはいけないジャンル、投稿の時間帯、客層の分析など、様々なノウハウを吸収していった。
最初こそ、閲覧数はみるみる伸びていく。
だが、ある一定まで達すると、伸び悩むように。
「ああ。『プラトー』、いわゆる停滞期っすね。成長が横ばいになる状態っす」
ここであきらめるか乗り越えるかで、その人は成長できるかどうか決まる。そういわれている現象だったっけ?
「
やっぱ、勉強しているやつは違う。
「そのプラトーにぶち当たって、オレはようやくノウハウコレクターになってるなって気づいた。もっと小説そのものと向き合うべきだなって思えたんだ」
一旦ノウハウは忘れて、ノビノビと書いてみる。
その結果かどうかわからないが、ようやく伸びていく。以前より読者も増えていた。
「まあ、今はまたプラトーが来て、伸び悩んでいるがな」
「そうでもないっす。
「ありがとうな。つまりだ。いつものやり方で停滞したら、違う方法も試してみろってこった。変に成功すると、一つのやり方に固執してしまう。だったら、一度ぶっ壊してみろ。今は、恋愛ものショートショートで挑んでみたらどうだ? 評価も高いじゃん」
「そうっすね。やってみるっす」
実代が落ち着いたところで、オレの感想へ。
「現代ファンタジーバトルものっすけど、よかったんすよねぇ。ヒロインがめちゃくちゃかわいいっす」
「おう、そうか。ありがとうな」
「その分、読んでてむちゃ恥ずかしかったっす。やたらヒロインに感情移入しちゃって」
「できるだけ、『その辺にいる女の子』にしてみたかったんだ。等身大の少女が書きたくなってな」
いわゆる、ラノベモノの美少女からは性質を遠ざけた。そのため、萌えを期待している読者からは反応がない。しかし、女性読者からはそれなりの評価を受けている。
「セオリー外す手段としては、決して悪くないっす。このままやるか、やっぱラノベヒロインかわええ、って思うかは、センパイが決めたらいいっす。上から目線っすけど」
「いや、ありがとう。参考にする」
これは武器として、取っておこう。女性読者向けを書くときに、このバランス感覚は使えそうだ。文学系を試すのもいいな。
「お互い、ちょっと今までと違うスタイルでやってみたわけだが、いい感じに成功しているようだな」
「そうっすね。あたしたちもまだまだ上を目指せるっすよ」
その後、気分転換にゲーセンへ寄った。場所はまた、アミューズメント系のビルだ。
「また、夕方から試合をやるみたいだから、パパっとやって切り上げるか」
「そうっすね。レトロゲームが空いてるっす!」
見たこともないグラフィックのマイナーゲームがあった。3Dの武器系格闘ゲームだ。
「技表までないっす。かなりのマイナーゲーっすよ。でも、ファンタジックな雰囲気は最高っすね」
「何事もチャレンジだな。やってみるぞ」
オレたちは、未知の格闘ゲームに触れる。
「なんか、もっさりしてるっす!」
「ホントだな! 格ゲーのセオリーが通じねえ!」
とはいえ、適当にレバガチャしながら技を探す手順は、嫌いじゃない。こういうゲームが当てもいいじゃないか。
「なんか楽しかったっすね」
「最後まで、ワケわかんなかったゲームだけどな」
今日はひとまず、この辺でお開きにするか。
実代を、家の前まで送る。
だが、実代はオレの服の背中を引っ張った。
「こ、紺太センパイ!」
「どうした? やけに改まって」
実代はオレの服を引いたまま、うつむいている。
「……今晩、泊まるっすか?」
この誘いをどうればいいのか、オレはノウハウを持ち合わせていなかった。
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