第25話 ゲキ甘な感想会

 その後、午後の勉強会を早々と打ち切って、おやつタイムに。


 ポモドーロ・テクニックが板についてきたのか、後半はすごくはかどった。この調子で中間も乗り切れればいいのだが。


 オレと実代みよは、図書館を出た。場所を、ハンバーガーショップに移す。


「お前、よく食えるな」

「勉強は、身体が資本っすから」


 チーズバーガーとポテトを食いながら、実代はシェイクとぶどう味炭酸を口へ流し込む。


「んじゃ、感想会にするか」

「待ってました!」


 オレは、タブレットを用意した。


 実代もポーチから、スマホを出す。


 今回の作品は、どちらもネットにアップした作品だからである。


「どっちから、やるんだ? オレからか、それとも」

「あたしからでいいっす」


 手を上げながら、実代は伝えてきた。手早くダメージを負っておきたいのだろう。


「お前が昨日アップした作品、読ませてもらった。正直言うが、いいな」

「ありがとうっす!」

「短編というより、ショートショートだな。お前に向いているんじゃないか?」

「そうっすかね? 作り込んだお話じゃなくて、フィーリングでババっと書いただけなんすよ」


 自信なさげに、実代は顔をそらした。


「オレとのデート体験が活きたと?」


 当時の体験記と似たようなシーンが満載で、もっとエッチになっていた。

 といっても、中高生向けの際どいものでとどまっているが。


「下品っすかね、やっぱり?」

「いや、自信を持っていい。小説ってのは、本人の好きと他人の好きがマッチしないことが多いんだ」


 これは小説に限らず、どのエンタメにも言えることである。


 エラそうに言うが、オレ自身もできているかどうかわからん。できていたら、とっくにデビューできているだろうし。


「お前の言うとおり、センシティブなシーンが目立って、ファンが付いただけかもしれない。それでも評価は評価だ。オレだってドキドキしたし、先が見えない展開は面白かった」

「ドキドキしたっすか、紺太こんたセンパイ?」

「し、した、ぞ」


 目をそらしながら、コーラを飲む。


「ありがとうっす。でも、ショートショートの醍醐味ってのは、切れ味なんすよね?」


 たしかに、ショートショートはコンパクトであるがゆえの意外性が求められたりする。


「でも、日常を切り取ったタイプのショートショートって、短編集として書籍化できそうな作品を募集していたりする。そっちを狙うのもありじゃねえか? その上で、長編も書けますってのは武器になる」

「そんなもんっすかねぇ?」


 まだ実代は、自分の価値に気がついていないようだ。


「これはこれ。ラブコメ長編は長編。頭切り替えていこうぜ」

「うっす。これは高評価として、受け止めるっす」

「それでいいんだよ」


 人間、何が求められているかわからない。他者からの評価自体が、自分で受け入れられるものかもわからないものだ。


「どの辺がっすか?」


 実代が、顔をじっくりと近づけてきた。ニヤニヤした顔がムカつく。


「それは、自分で考えろ!」


 オレはどうにか、話をはぐらかす。


「えー、教えてほしいっす。でないとわかんないっすよ」


 なおも、実代は駄々をこねた。


「自分で考えるんだ、実代。オレが全部教えたら、なんでも理解できた気になって、つまんないだろ?」

「たしかに言えてるっすねぇ」


 一度は、実代は引く。しかし、「でも」と、まだ食い下がってきた。


「おおかたのパターンを理解できたほうが、再現性も高まると思うんすよねぇ」

「そうやってなんでもかんでも教えてもらっていたら、そのうち自分で何も書けない作家になるぞ」


 腕を組んで、拒絶の態度を見せる。



 こいつには、オレと同じ経験を持ってほしくない。



「まるで、経験してきたみたいな言い草っすね?」

「経験したんだよ」


 中学当時、オレはありとあらゆる小説指南書やサイトを覗きまくっていた。



 いわゆる、「ノウハウコレクター」になり下がっていたのである。

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