第24話 お目当ての抹茶ケーキ

 昼は、図書館の隣にあるデパートへ向かった。

 一階のパーラーへ。


 オレはアイスカフェオレと、オススメのカツサンドを頼む。


 実代の方は、和風御膳だ。純喫茶なのに。


「あーうまいっす」


 ミニ天ぷらそばとミニカツ丼を、実代はあっという間に平らげる。


 で、デザートが来た。ほうじ茶ラテと抹茶のロールケーキである。


「これっす。抹茶ケーキ! これが食べたくて、図書館を選んだっす」


 どうも、セットのケーキが目当てだったらしい。


「デザートに、ケーキとあんみつが選べるんす。あんみつの方が形がカワイくてバズるらしいんすけど、抹茶ケーキは普通にうまくて好きっすね」


 たしかにあんみつを選んでいる人は、まず写真を撮ってから食べている。


「あー、このほのかな苦味が最高っす。あ、あげないっすよ。これはさすがに好物なので」

「いいよ。好きなだけ食えって」


 動いていないからか、オレは割ともう満腹だ。


「それにしても、すげえ時間管理術だな」

「親の影響で、色々教わったっす」

「そういう時間管理が行き届いているから、執筆してもバテねえんだろうな」

「かもしれないっす」


 言いながら、実代は抹茶ケーキをうれしそうに食う。


「オレはフィーリングでバーッとやっちゃうから、息切れがヤバイ」

「あたしは逆に、フィーリングだとなかなが進まないっす。ある程度プロットができてないと」


 意外である。コイツこそ、感覚でズババッと書いてしまえるやつだと。


「あたしが意外だと思ったのが、紺太こんたセンパイが執筆をガマンできているとこっすかね?」

「どういう意味だ?」

「ほら、小説書く人って、家だと書けないから外で書くって人、多いじゃないっすか。センパイも同じタイプだと思っていたんすけどね」


 抹茶ケーキを咀嚼しながら、実代はまくしたてる。


「あーオレは逆に、ひとりきりじゃないと書けないんだ。ニヤニヤしちまう」

「なるほど。人前で書ける顔じゃなくなるんすね?」


 そういうことだ。


 オレは小説を書くとき、必要以上に入り込んでしまう。楽しいシーンだとゲラゲラ笑い、悲しい場面だと涙ぐむ。


 家族にさえ心配されるくらいだ。


 なので、家でしか書かない。


「ネットカフェで超展開を思いつき、奇声を発した時点で気づいたな。オレは外では書けないって」

「苦労してるんすね」

「そうでもない。隣に家が立つんだけど、工事中でも平気で書いてるぞ」


 家で書く、と決心した当たりから、雑踏は気にならなくなった。


「お前はどうなんだ?」

「あたしも家派っすね」


 実代の場合、家に資料が満載なので、資料のない外だと気が散ってしょうがないという。イヤホンをして書くため、没頭しすぎてしまうという。


「一度執筆モードになると、ポモドーロもなにもないっすね。書ききらないと気持ち悪くなっちゃって、眠れないこともあるくらいっす」


 実代の方が重症だな。


「かっちりプロット立てる方なんだろ? 中断しても書けるはずじゃんか」

「そう思っていたんすけどね。キャラがプロットに逆らうんすよ」

「あーわかる。作り込んだ分、独り歩きするんだろ?」

「そうっす! あれはやばいっすね! 制御できないっす」


 抹茶の粉がオレにかかるくらいに、実代は饒舌になった。

「すんません」と、オレの肩についた抹茶の粉を拭く。


「なので、ある程度気の済むまで物語の中で歩かせるんすよ。プロットへ修正していくか、このまま突っ走ったほうがいいかは、後から考えるっす」

「めんどくせえなぁ」


 聞いているだけで、大変な作業だとわかる。


「だから、格ゲーが面白いのかもしれないっすね? 人が相手だと、先が見えないんで」

「そうか。なるほどな」


 こいつがゲームにドハマリする理由が、なんとなくわかった気がした。ただの気分転換だけじゃないんだな。

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