第20話 リズムゲーで、押し倒す

 実代みよとふたり、スナックをつまみながら談笑し、喉の調子がよくなったら歌う。


 だが、共にレパートリーが少なくなってきた。


「ゲーム好きあるあるっすね、紺太こんたセンパイ」

「ああ。いっつもBGMばっかり聴いているから、歌ものに弱い」


 リミットまであと二時間と迫る。

 その状態で、歌のネタが尽きた。

 うーむ、どうするか。


 そう考えながら、タブレットをいじる。


「おっ、麻雀ゲーがあるぜ」


 ネット対戦可能な、四人打ち麻雀ゲームが、カラオケに内蔵されていた。


「今のカラオケボックスって、便利だな。カラオケの領域じゃねえ。ゲームまでできるなんて」

「コメントがおっさんっすね」


 ほっとけ。


「麻雀とか、わかんないっすよぉ」

「役くらいなら、教えられるからやってみろ」

「はいっす。あ、コントローラーが汚れそうなんで、餌付け役を頼むっす」

「おう。任せとけやお嬢様。ジュースもいかがっすか?」

「じゃあ、ブドウの炭酸を」


 ホンマに頼むんかい。


「ほらよ」

「ありがとうっす」


 ソファにあぐらをかいて、ゲームスタート。


「対戦とか、ドキドキっすね」


 画面に目を凝らしながら、実代が牌を切っていく。


 ポテチやチョコクッキーを実代の口へ運びながら、オレは戦局を見守った。


 なかなか、実代は筋がいい。あと一つ揃うとテンパイになる。


「うわ、どれ切ったらいいっすか?」

「緑色の三があぶれているから、切っていい」

「はいっす。おっ、いけたっすね」


 あっという間に、相手からロンを奪った。


「一〇〇〇点っす。これって高いんすか?」

「ぶっちゃけ安い。でも勝ったからいいじゃねえか」


 安い手で上がることは、相手の親を蹴ることにも通じる。

 結果オーライとしよう。


 しかし、次に親になったヤツがやばかった。


「三万点差がついたっす! どうするっすか?」


 実代は一人前に、手に汗をかいている。


「初心者のお前では、どうしようもねえ」


 普通ならベタオリだが。


「ここは勝負を仕掛けるっす」

「いいのか? 勝てないかもしれんぞ」

「どうせ、一期一会の仲っす。ブチかましても死にはしないっす」


 そうだな。そういった勝負のカンなんて、久しく忘れていた。

 ただ、うまく立ち回ることだけ考えて。


 オレのアドバイスを待たず、実代は直感で牌を切った。

 通っている。リーチを仕掛けた。


 相手からロンすれば、逆転のチャンスがあるが。


「ツモっす……」


 そうそう、うまくいくわけがない。


 結局、ヤバイ親がトップで逃げ切った。実代は二位である。


「はー。でも楽しかったっす。見ず知らずの人と戦うのって、楽しさがあるっすね」


 コミュニケーションが麻雀だけのやりとりなら、こいつでも対処できるのかも。


「交代っす。今度は、あたしが餌付けやるっす」

「頼む」

「あーん」


 ポテチが、実代の手で運ばれてきた。


「あーん、と。あんがと」


 バリボリとスナックを食いながら、オレは牌を切っていく。


 待てよ。このやりとりって、超カップルっぽくね? オレは、とうとう気づいてしまう。


 今の状態こそ、カップルとしてのあるべき姿なのでは。


 オレの頭が、そんな思考で埋め尽くされる。


 だが、オレは三位で終わった。

 実代とのやりとりが尊すぎて、もう集中力が切れている。


 頭がパンクしそうだ。別のゲームにしよう。


「次は、これをやりたいっす」

「リズムゲームか」


 大画面に出てくるマークを、リズムに合わせて触るゲームだ。


 頭を使ったから、今度は身体を使いたくなったらしい。


「やるっすよ」

「負けねえからな」


 両者とも、リズムゲーム用のコントローラーを用意した。


 よっ、ほっ、はっ、と、手を振ってマークを消していく。


 だが、実代の手がオレの顔面に当たりそうに。


 二人席でやるゲームではなかったか!


「紺太センパイ、狭いっす!」

「うるせえ。お前もどけ。うわ!」

「ひゃあ!」


 オレは、実代をソファに押し倒してしまった。

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