第19話 カップルらしいこととは一体……

 カラオケは楽しかった……のも、最初の一時間まで。


 先に異変を告げたのは、実代みよからだった。


「ゼ、ゼンバイ」


 八百屋のおばちゃんみたいな声で、実代がノドの不調を訴える。


「お、オレもちょうど、ノドが痛えなと思っていたんだ」


 咳き込みながら、カラオケを中断した。


「ジュース取ってくる」


 空になったカップを持って、オレは立ち上がる。


「そうだ。もういっそここに留まろうぜ。フリータイムの間、ずっとさ」


 今はちょうど、おやつ時だ。しかし、どうせどこも混んでいるだろう。


 ならば、ここで全部済ませてしまおうか、と提案する。


「いいっすね」

「お前さ、スナック頼んでおいてくれ」

「すんません、じゃあ、あたしがジュースの方に行くっす」

「わかった」


 コミュ力ゼロの実代では、電話応対もできないらしい。


 フライドポテトとチキンナゲット、野菜ポテチ、揚げパスタ、あとは適当にクッキーにするか。


「センパイ、期間限定ストロベリーパフェくださいっす」


 オーダーを終える直前に、実代がリクエストしてきた。


 ご希望のストロベリーパフェをオーダーして、注文を終える。


 注文のおやつが来た。思っていたより豪勢だな。

 まあいい。今日はデートだ。盛大に行こうじゃないか。


「やっぱり、大声を出す習慣がないと、カラオケも続かないっすね」


 ノドを冷やすかのように、実代はストロベリーパフェを飲み込む。


「お前さ、友だちとカラオケに行ったりとかしねえの?」


 餌付けするような感じで、オレは実代にフライドポテトを食わせた。


「あたしに、それを聞くっすか?」

「すまん」


 そうだ。コイツは見た目に反して超ぼっち体質だったんだっけ。


「センパイも似たようなもんじゃないっすか。あたしとゲームで遊ぶ暇があるってことは、友だちゼロ人ってことっすよね?」


 実代がパフェを「あーん」してきたので、オレも応じる。


「まあ、そうなるかな」


 話し相手になってくれる友人はいるが、休みの日に遊びに行くほど親しくはない。


「なんでっすか? 男同士の友情って、もっと海より深い、と思っていたんすが?」

「そんな幻想を抱かれてもなあ」


 チキンナゲットを、実代に餌付けする。


「カノジョ持ちなんだよ、ソイツ」

「ふわああ」


 オレと違ってアウトドア好きで、オレのオタ趣味にも寛容である。

 しかし、プライベートはカノジョ中心だ。


「意外っすね? そんな人がいるなら、恋愛モノラノベの参考に――」

「年上と付き合ってるんだよ。ソイツは」


 また実代に、「あーん」してもらう。


「大学生っすか? お相手は?」

「社会人。来年で三〇だってよ」


 課長クラスのバリキャリと、部屋が隣同士ということで交際している。

 おふくろさんが作った煮物を分けてやった縁で、交際が始まったらしい。


「といっても、デートはもっぱら室内だってさ」


 実代が、生唾を飲む。


「違う違うっ。その人の部屋を片付けるらしい。ゴミ屋敷なんだってよ」


 友人本人も、片付けが好きで充実しているのだとか。


「でも、部屋に少年を連れ込んでいるんでしょ? やっぱり何も起きないはずが……」

「ないない。あいつに限って。もしそうだったら、もっとツヤッツヤしてるはずだ。スッキリって感じで」

「たとえが、エロいっすね」

「ほっとけよ。とにかく、変なことにはなってないらしい」


 おふくろさん公認の、清い交際だという。


「ほへええ。オトナの階段を何段抜かししたら、そんな関係を築けるんすかねえ」


 実代は、呆気にとられていた。


「でも、参考にならないっすね」

「だろ?」

「あたしも似たようなもんっす。話を合わせてくれる友人はいるっすけど、『二人組みを作ってくれる』相手程度の仲っすね」


 お互いに、処世術で付き合っているのか。オレと同じだな。


 カラオケの店員が、おやつを食わせ合っているオレたちと目が合う。


「なあ、実代? オレらって、どう見られているんだろうな?」

「兄と妹では?」


 カップルとはいったい。謎だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る