第18話 定番、カラオケデート
食後の運動がてら、モールを少し歩く。
「次はどこへ行く? ショッピングか、映画か」
「どこも混んでるっすねぇ」
洋服は、たいして欲しいものはないという。
二人共、見たい映画はなかった。
というか、お互いに「ネットで見られるまで待つ派」である。
ゲームや小説にお金を使うので、出費は抑えたい。
今日はデートだから、映画という案が出ただけだ。
「映画なら『オレ、ネットフリーク入ってっから韓流ドラマ見れまくりだけど、来ない? 一緒に「シカゲーム」、見よっ』って誘えるっすからね」
親指でどこかを差しながら、実代がドヤ顔で誘ってくる。
「どこの韓流ドラマ好きが食いつくんだよ? ていうか、韓流好きでも食いつかん」
「……シカゲーム、見よ?」
いやいや、そんなドヤ顔されても。
「モールは、もうめぼしいものはないっすねぇ」
「出よう」
モールを出て、外へ。
やはり、カップルだらけ。
うーん、このまま行ったら、またゲーセン巡りになりそうだ。
「あっ、アレがいいっす! アレ!」
実代がハシャギながら指をさすのは、さっき入りそこねた六階建てのゲーセンである。
「あそこは混んでるじゃねえか」
まだ、ゲームをしたりないのか?
「違うっす。隣のビルっす」
「なるほど」
実代が入ろうと言っているのは、隣のアミューズメントビルだった。
「カラオケあるっすよ。あそこなら、二人きりになれるっす」
「おお、なるほど。いいなそれ」
人混みを避けられるし、他人の視線も気にならない。
「カラオケは、デートの定番っすよ!」
「平成時代の、な」
「そうっすけどぉ!」
とはいえ、ナイスアイデアだ。今のカラオケは、ゲームもできるしな。
「ちょうど二人席が空いてるってよ。入るか」
「うっす! センパイの歌声って初めて聴くからドキドキっす」
「やめろよ。期待すんな」
とにかく、選曲用のタブレットを手に入室した。
事前に、ドリンクバーでジュースを。
「入れろよ。オレは曲を探すから」
「はいっす」
タブレットを受け取って、実代はすぐパネルを操作する。
「センパイ、採点で勝負っすよ」
「いいよオレは」
「ノリ悪いっすよ、センパイ。一曲だけでもいいので」
「しょうがねえな。一曲だけな」
もう曲のイントロが流れてきた。
早いな。いつのまにリモコンを操作したのか。
「~♪」
実代の歌は、ボカロ曲だなぁ。
それにしても、うまい。
乱暴な歌い方ながら、的確にメロディを追いかけている。
流行りを抑えつつ、独自性もあった。いい選曲じゃないか。
「八六点! まあいい感じっすね! じゃあ次センパイっす」
「期待するなって」
タンバリンを持って、実代は盛り上げる準備万端だ。
「すまん。オレの選曲、バラードなんよ」
イントロが流れた瞬間、実代がタンバリンを椅子に下ろす。
「~♫」
あまり声で情感なんて出せないので、しっかりと曲の音階を取る。
うわ、キーが高いなここ。全然ダメだ。
曲はスキなんだが、歌えるかどうかと言えば、別問題である。
それでも、諦めずに歌いきった。
ふーと、オレはため息をつく。
「いやあ、すまん実代。お前の勝ちだ、な……?」
「センパイの、勝ちっす」
「え?」
実代の頬に、ひとつぶの涙がこぼれていた。
「おいおいおいどうした実代!? 腹でも痛えのか!?」
「いや、ちょっと泣けてきちゃって」
「だよな。下手くそすぎるよな」
「違うっす。たしかに、あんまりうまくはなかったっすけど、一生懸命歌っている姿に、シビレたっす」
ハンカチで涙を拭きながら、実代はムリに笑顔を作る。
「でも、点数はお前の勝ちだぜ」
「いいんす。センパイが勝ったっす。なんかしてあげるっすよ。何がいいっすか?」
オレは、しばらく考え込む。
「じゃあ……デュエットしてくれ」
タブレットを手にして、オレはデュエット曲を選ぶ。オヤジたちの世代の曲だが、実代なら余裕で知っているだろう。
「そんなんでいいんすか?」
「デートっぽいだろ?」
「しかたないっすねえ」
ようやく、元の実代らしくなってきた。
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