第17話 せめて、デートらしく

 腹の虫が鳴り、ようやくオレは本来の目的を思い出す。


「そうだ実代みよ! 今日はお前のデート取材じゃねえか!」


 のんきに、レトロ格ゲーなんてやっている場合じゃねえ!


「そうだったっす、紺太こんたセンパイ。すっかり手段と目的が隔離していたっす!」


 現在は、一三時だ。急いでメシ屋を探す。人混みをかき分けて、お店へ向かった。


「ちょうどいい感じのランチがあったら、デートっぽくなるはずだ」

「そうっすね。探すっす」


 幸い駅前のモールは、その手の店が多い。


 しかし、オシャレなカフェはどこもカップルで埋まっていた。もしくは、カップルになり損なった『女子会』という名の怨念で埋め尽くされている。


「ダメだ。シャレた店とかチェーン店は、軒並み行列ができてやがる」

「……あたし、いっそフードコートでいいっす」


 実代が、弱音を吐く。


 たしかに、食うのには困らない。席の空きもすぐにできる。並んでいようが、たかが知れていた。


 とはいえ、今の時間では。


 案の定、フードコートは子どもがギャーギャーわめいている。


 そんな場所でカップルで食べて、うまいのだろうか?


「いいのか、そんな店で? もっといい場所を探したほうが」

「本当に仲のいいカップルなら、場所なんてどうでもいいのではないっすかね?」


 声を大にして、実代が発言する。


 オレは、妙に納得した。


「いわれてみれば、そうかもしれん」


 二人だけの世界全開でいけば、フードコートだろうがカウンターの焼肉店だろうが余裕かもしれない。


「気心の知れた同士なら、そうかもしれん。じゃあいいか?」

「はいっす。このままいったら、ゴハンにもありつけずにデート終了になりそうっす」

「だな! 入るかっ!」


 フードコートに決定した。迷うなら、メニューで迷おう。


「うわ、このチャンポンうまそうだなぁ」


 ボリューミーでありつつ、値段も手頃だ。


 しかし、デートという雰囲気ではない。却下。


「大丈夫っす。あたしもこってりなラーメンに行きそうだったっす。よく言ってくれたっす」


 よだれを垂らしながら、名残惜しそうに実代もラーメンコーナーを去る。


「これだ! 唐揚げご膳! これをシェアする!」

「あたしは、コーンスープ付きのオムライスにしたっす! これで、また『あーん』するっすよっ!」


 プランも確定した。


 注文の品を取ったら、あとはデート実演だ。逃げられないぞ。


「よし、いくぞ……」


 オレは、唐揚げを挟んだ箸を実代へ近づける。


「はいっす。あーん」


 実代が、オレに顔を近づけて口を開いた。


「熱いから、気をつけろ」

「は、はいっす。ああーむ。んふふ……」


 ニヤニヤしながら、実代が唐揚げを頬張る。


「熱いっす! はふはふほ。でも、おいひいっす」


 あまりの熱で眉間にシワを寄せながらも、実代はうまそうに唐揚げを食らう。


「うまいか? よかった」

「ありがとうっす、紺太センパイ。次はあたしっすね。はい。あーん」


 唐揚げを飲み込んだ実代が、オレにオムライスを乗せたスプーンを寄せてきた。


「よ、よし。あーん」


 オムライスをこぼさないように、オレはスプーンを一口で口へ含む。


「うん。うまい! ありがとな実代!」

「もう一口行くっす!」


 なんだ、今日の実代は大胆だな。取材が板についてきたのか?


「わかったわかった。いくぞ、せーの。あー……ああああ」


 オレたちに、やたらと視線が集まっていた。


 周りを見ると、キッズ共がオレたちの光景を見てニヤニヤ笑っているではないか。


 口を開けたまま、オレは目を見開く。


 実代の方も、持ち上げてしまったスプーンを泳がせていた。


「よしなさい!」と、母親らしき女性に腕を惹かれて退散していく。


 それでも、一度冷え切ってしまった熱は、戻ってくるわけでもない。


「しれっと食うっす。しれっと」

「だな。早く済ませよう」


 オレたちは、黙々と食事を終えた。 

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