第16話 結局ゲーセンへ

 実代みよが動かなくなったので、デート取材は打ち切りに。


「ぷはあ。ありがとうっす、紺太こんたセンパイ」


 オレが買ってきたペットボトルのカフェオレを、実代は一気にあおる。


「もうしんどいっす。我々の知識が、まったく活かされないっす」

「だよなあ」


 かくいうオレも、ギャルゲーは数えるくらいしか遊んだことがなかった。教えられる知識があるわけもなく。


「そもそも、恋愛につながるプロセスを求めに来たんすよ。なのに、付き合った後の人たちばっかなんすもん。まるで参考にならないっす」


 まったくだ。それで恋愛小説が書けるなら、親を観察している方がよっぽどマシである。


「もっと甘酸っぱい展開とかないんすかねぇ? どっかに転がっていたら、隅々まで舐め取るっすよ」

「おいやめろ」


 とうとう、収拾がつかなくなってきた。


「気分転換に、ゲーセンでも行くか」

「そうっすね。変に悩んだまま立ち止まっても、何も生まれないっす」


 仕方なく、ゲーセンへ向かう。オレたちは、こんな平和すぎる場所で日向ぼっこなんてする柄じゃない。


 六階建ての、アミューズメントビルに到着した。ここは、三階まではプリクラやクレーンゲームばかりである。


 巨大筐体のカードゲームフロアや、音ゲーコーナーもスルーした。


 さっそく、格ゲーのコーナーへ。


 しかし、ゲーセンも戦場となっていた。


「うわぁ!」


 店内は、黒山の人だかりができている。


 ほとんどの台が、びっしり埋まっていた。


 ゲームしないで、台に座り込むマナーの悪い奴らも。まあ、そういう奴らは店員に注意を受けてさっさと退散するが。


 おかしい。いつもなら、すんなり対戦台に入れるはずなのに。


「しまった!」


 異変の原因は、すぐにわかった。


 ゲーセンの店長自らが、マイクを握って対戦台の実況をしているではないか。


「格ゲーの大会してるっす!」


 人気格ゲーシリーズの大会が、行われているのである。しかも、ネットで中継されているようだ。


「そうか! 今、GWじゃん!」


 そりゃあ、大会だってするか。


 まいったな。平日と勘違いしていた。


「退散だ。ここはもうダメだな」


 オレたちは、場所を移動する。


 たどり着いたのは、レトロゲームばかりの店だ。


 中は、随分と閑散としていた。さっきまでの雑踏はなんだったのか。


 人もまばらである。シューティングゲームが主体だからだろう。


 オレも、シューティングは見てもわからない。

 そういう次元まで、シューティングは進化してしまった。

 もはや、パチスロより攻略は困難だろう。


 それでも対戦台は、外国人の観光客が大勢集まっている。


「お、これは」


 二人並んで座るタイプの、対戦台を見つけた。ゲームを選んで遊ぶタイプで、ゲームに酔っては二人プレイのアクションも可能である。


「他の台は埋まってるっす。向かい合うタイプの対戦台もないっすね」

「仕方ない。これにしよう」


 古いタイプの対戦ゲーを遊ぶことに。


「スキな方に座っていいぞ」

「じゃあ、遠慮なく」


 実代は左座席を選択し、オレは右に座った。


「待ってくださいっす。まず技表を見るっす」


 筐体に貼られた「技コマンドの表」を見ながら、実代がレバーでシミュレートする。


「超必殺技のコマンド……バッチっす。行くっすよ!」


 レディー、ゴーッ!


「しまった。レバーの向き間違えた!」

「うっしゃーこれでえ!」


 技を完全に把握した実代が、優位に立つ。


 しかし、オレは昔のゲームの特色をよく知っていた。


「はあ!? なんすか、このダメージ量は!」


 そう、「レトロゲームは、通常攻撃の攻撃力がやたら高い」のである。


 攻撃三発だけ浴びて、実代のキャラクターが沈んだ。


「マジっすか。必殺技より通常攻撃のほうが強いとか!」

「これがレトロゲーの洗礼だよ」

「はい。完全に理解したっす。これからが、本番っすよ!」


 いつの間にか、二人のレバガチャ音だけが店内に鳴り響いていた。

 

 あれ? オレら、なにしに来たんだっけ?

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