第21話 からまったコードから脱出するだけなのに

 オレたちは、音ゲーのコードに絡まったまま動けなくなっている。

 コールを呼びたくても、電話は向かい側にあって届かない。


「大丈夫か? 頭を打ってないか?」


 実代みよの顔が、すぐ近くにあった。近いのは、顔だけではない。豊満な胸も密着していた。


「へ、平気っす、紺太こんたセンパイ。ソファが柔らかくて無事っすよ」


 すぐさま、オレは身体をどけようとする。


 しかし、コードが絡まって動けない。今どき、コードレスではないとは! よく見ると、かなりタイプの古い音ゲーだった。どうりで配線が必要なわけだ。


「待ってろ。足をどけて、と。実代、お前も足を上げてくれ」

「はいっす」


 実代が、太ももをあげかけた。


「待ったぁ! 今はマズイ」


 実代の足から、オレは後ろのミラーから顔をそらす。


 ミラーには、ミヨの下半身が映っていた。


 あやうく、実代のスカートの中身が全開になるところだったのである。


 実代も気づいたのか、顔を赤らめてそっと足をどけた。


 これで第一ミッションは終了である。


「いいぞ」

「すんません、気を使わせちゃって」


 実代の息が、オレの耳にかかった。


「う、う~ふう」


 ダメだ。オレは耳が弱い。わかっていても、悶てしまう。


「変な声、出さないでほしいっす」

「す、すまん。耳に息がかかって」

「これが弱いんすか?」


 また、実代がふーっとオレに息を吹きかけてきた。


「はあう。やめろっての」


 耳がくすぐったくなって、体をねじる。


「あっ、センパイ。もうちょいっすね?」


 なんと、そのおかげでコードがゆるくなってきた。


「単に、体重をお前に乗せていたのがマズかったみたいだな」


 そうとわかれば、あとは早い。オレは横に移動する。


「実代、身体をねじってみてくれ」

「こうっすね」


 言われたとおりに、実代は身体を動かす。


 オレの読みは当たり、脱出に成功した。


「よし。やったぜ」

「やったっすね」


 ふう、一時はどうなるかと。


「店員に怪しまれてねえよな?」


 監視カメラで、イチャイチャされていると思われているのでは?


「ごまかすっす。またデュエットしておきましょう」


 二人で歌うタイプのボカロ曲をチョイスして、ミュージックスタート。


 なぜか、実代がオレのすぐ横に移動し、腕を組んでくる。どうしたんだろう? やけにスキンシップが過剰だ。


「♫~んはあ!?」


 あろうことか、実代がオレの耳に息をふきかけてきた。


 オレのあえぎ声が、大音量で部屋に鳴り響く。


「やめんか、実代」

「勝負っすよ。先輩が耐えられるかどうか」

「もうやめなさい。マジで追い出されっから」

「ふ~っ」

「はあん!」


 耐えるのだが、不意打ちにやられてしまう。


「ムリだ。オレの負けでいいから!」


 今度こそ、部屋から追い出されかねない。オレは歌を中断した。


「え~。つまんないっすよ~」

「いいんだよ。あと一時間だろ? 夕メシ食って帰ろう」


 気を取り直して、夕食をオーダーした。


 オレはちゃんぽん麺を。実代はミックスフライとエビドリアである。


 店員は、怪訝そうな顔をして注文の品を持ってきた。


 オレたちは平静を装い、作り笑いで応対する。


「あれだけの油モノを食ったのに、追い油とか。若いな」


 可能な限り、オレは野菜を取ろうとしていた。ラーメンの塩分で台無しだとしても。


「センパイがヒョロなだけっすよ」


 実代は、付け合せのパセリから食う。前回のピーマンといい、どうも苦い野菜は平気のようだ。


「ぐう」


 しかし、さすがの実代も追い油の洗礼を受けているようである。そうそう、油って急に来るんだよ。


「エビフライ一匹どうっすか?」

「おう、サンキュ」


 エビフライを「あーん」してもらう。


「おいしいっすか?」

「うん。ありがとな。ていうかお前、スキあらばあーん攻撃してくるな?」

「好きっすから」

「あん?」

「あっ……あーんが好きなんすよ! 誤解しちゃダメっすからね!」

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