第14話 バーチャル? リアル?
「……はっ」
モチモチふわふわの感触の上で、目を覚ます。
冷たい感触が、額から落ちた。濡れタオルだ。
「センパイ、大丈夫っすか?」
実代がオレを心配そうに見つめている。
「問題ない。けど」
起きようとすると、実代がオレの胸を手で軽く押し込む。
「しばらく動かないほうがいいっす。頭を打ったかもしれないっすから」
だが、正直心もとない。オレは今、実代に膝枕されている状態だ。
後輩にベッドで、膝枕で眠らされている。
実代は大事な後輩だが、それ以上の関係だと思ったことがない。ただ、どうしようもなく意識してしまう。
これはバーチャル? 夢の続き? それとも、本当にリアルなのか?
「も、もう、大丈夫だ。悪い」
どうしようもなくなったオレは、ムリやり身体を起こす。いつまでも、コイツの好意に甘えるわけにはいかない。
「オレはどうなったんだ?」
「あたしの蹴りを食らって失神したんす」
そのときの衝撃は、今でも思い出す。アゴにクリーンヒットして、気がついたら夢の中にいた。
「ずっと歯磨きしてる夢を見てた。あるだろ? 白と青のストライプになったタイプの歯磨き粉……」
「それ以上いけないっす」
夢の話をしたら、実代に止められる。
「前のめりに倒れた人間って、初めて見たっす」
ベッドの上に落ちたのが、幸いだったと。
「床に倒れていたら、首をやってたかもっす」
それは、危険な状態になっていただろう。
「ごめんなさいっす」
「いいんだいいんだ。オレは、どれくらい寝てた?」
「一時間っす。ちょうど今一三時っすね」
告げると同時に、実代は腹を鳴らした。
メシの時間をカットして、看病してくれたのか。
「よし。台所を借りるぞ。今日はオレが作る」
「悪いっすよセンパイ」
「でも、どうだろう? 人に台所を使われるのは好かんとか?」
「問題なしっす。でも、ケガをさせたのはあたしなので」
「いや。元はオレの責任だ。作らせてくれ」
「そこまで言うなら、ごちっす」
昼食は、チャーハンにした。
ハムと玉ねぎを刻み、卵を投下しただけ。味付けは塩コショウのみ。お好みでウスターソースを。
「うまいっす!」
ひとくち食べて、実代が食い気味に返事をした。
「ありがとう」
オレも食ってみる。ハムがウマい。
「これは、いいトコロのハムなのでは?」
「わかんないっす。食材は全部、母に任せてるんで。あたしは作るだけっす」
ハムや鶏肉は、会員制の倉庫みたいなスーパーで買うらしい。
「ああ、あそこか。一度行ってみたいんだよなぁ」
オレたち一家は、そこの会員ではない。しかし、我々庶民が行っても持て余すかも。
「ところで紺太センパイ、鍋を振らないんすね?」
「ああ。家庭の火だと、熱が足りないんだってよ。そのせいで、鍋をふるとパラパラにならないらしい」
「たしかに、パリッパリっす。おいしいっす」
「うん。ありがとう」
そうそう、忘れるところだった。
「なあ、オレも感想を言わせてもらっていいか?」
「はいっす」
「現代劇だったよな……なんか、ファンタジーだなぁって思った」
「あうう」
実代が、肩を落とす。
「デート経験がないやつが書いたデートムービだな、って思った」
主人公の女のコも、相手役の少年も、なんかマンガチックすぎる。『こんなヤツいねーよ』と秒で思えてしまって、萎えるのだ。
「ぬわー。チャレンジ失敗っす!」
髪をかきむしりながら、実代が吠える。
「あ、そうだ!」
何を思い出したのか、実代が突然我に返った。
「再来週なんすけど、格ゲーできないじゃないっすか」
「ああ。中間始まるしな」
GWが明けたら、中間試験が待っている。同時に、部活もしない。
あるとすれば、ラノベ新人賞くらいか。どれだけ書けるかなっと、シミュレーションしていたところである。
「だから、デートしましょう! 来週!」
「う、お」
「センパイ、付き合ってくださいっす」
「ぬう!?」
「……あっ、取材にっす取材!」
取材か。だったらいいかな。
「うし、いいぜ。どこ行く?」
「やった!」
実代は手を広げて喜ぶ。
「じゃあ、駅前に公園あるじゃないっすか。あそこでカップルでもウォッチングしましょう!」
あの公園はカップル多数スポットだから、いい取材になりそうだ。
「というわけで、デートっす」
「いや、デートするのはオレたちじゃねえからな」
取材の約束をかわし、オレは帰宅する。
新人賞があるから、少し書き溜めておくか。
ノートを開き、小説を書いていたところ、ピコンとメッセが。
母親の弟からだ。オレに色々と教えてくれたっけ。
久々に対戦のお誘いか。ちょうどいい。実代との対戦で、血が騒いでいたところである。
オレはコントローラーを握って、対戦に燃えた。
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