第13話 スカートが短すぎる後輩に、格闘技の専門知識を教えた結果……

 日曜日は、格ゲーを遊びつつ小説の感想会だ。

 オレは総合格闘家を選択し、実代は女性カンフー使いを選んだ。


紺太こんたセンパイ、さっそく小説を読ませてもらったんすよ。けど、よくわかんなかったっす」


 バッサリと、実代みよからダメ出しを食らう。


「ああ。格闘ものだからなぁ」


 ストーリーは、貧乏格闘家成り上がり物語だ。主人公を追い詰めるスポンサーを撃退して独立するといった、ざまぁ要素もある。


 いつものスタイルを変える前の作品だから、アラも多い。

 しかし、テーマ的に読者を選ぶと思ったため、人間ドラマ主体にした。


「流行りというか、読者の好みに乗せた意欲は買うっす」

「おう。ありがとうな」

「ただ、アクションや格闘技の専門知識がないと門が狭いっすね。入って行きづらいっす」


 そこは、オレも納得せざるを得ない。


「勢いのままに、説明しないで書いたからな」

「可能な限りアクションで見せて解説しようという努力は垣間見れたっす。しかし、それに読者全員が付き合ってくれるかというと……」


 痛いところを突かれる。

 なるべく説明をしたくなかったので、動きだけで表現するつもりだった。

 しかし、用語が専門的すぎたか。


「お前でも、苦しかったと」

「はいっす。こんな風に格ゲーのビジュアルを見せてくれたら、一発で理解できるっすけど」


 なるほど。


「ただ、女のコがさらわれている中で本気を出せずに戦っている図式は、ハラハラしたっす」


 今度は、褒めてくれた。


「主人公の親友が機転を利かせてヒロインを助けに行ったのがよかったっす。しかも、アドバイスをしたのが対戦相手とか、かっこいいっす。『主人公と本気で戦いたくて上司を裏切る』対戦相手の姿は、シビレたっすね!」

「そうか。いい点もあるんだな?」

「はいっす。人間ドラマとしては完璧っす。ホントに格闘技知識にうといと、何をやっているのかわからないだけで」

「そこかー」


 オーソドックスな武侠物にするても考えていたのだ。ヘタに格闘技にこだわらず、武侠路線で行ってもいいかも知れない。


「関節技主体にしたのが、まずかったな。アルティメットという不利な状況下で戦うプロレスラーって構成が好きだから」

「それっすよ!」


 実代が唐突に叫びだした。


 同時に、実代の使っているキャラから手痛い一撃を食らう。


「あのですね、ぶっちゃけ、『バーリトゥード』と『アルティメット』の違いとか、マーシャル・アーツとかジークンドーとか、よくわかんないんすよ」


 そこからかぁ。


「他にも『ルチャ系』レスラーやら『カポエラ』使いやらが出てきて、脳がパニクったっす」


 ダメだ。完全にやらかした。読者を信じすぎたらしい。作品が、独りよがりになっている。


「バーリトゥードってのは、ポルトガル語で『なんでもあり』という意味だ。アルティメット、総合格闘技などとと同じ意味だと思っていいだろう。」

「ホームズの『バリツ』とは違うんすね?」

「あれは造語だってよ」


 架空の格闘技らしい。


「ジークンドーは中国の俳優が開発した武術だ。その中に、マーシャル・アーツが含まれている」


 説明に集中していると、オレのキャラがリングアウトする。


『あなたには、カンフーが足りないわ』

「これも、よくわからないっす」


 オレに勝った実代が、疑問を投げかけた。


「えっとな。カンフーってのは鍛錬って意味なんだってよ」 


 他にも、ルチャやカポエラの技を教える。動きを見せたほうが早いので、動画サイトを巡回した。


「えっと、こうっすね?」


 こたつテーブルをどけて、実代が格闘家の動きをマネする。


「おい、スカートだからムリすんな」


 オレが指摘すると、実代が動きを小さくした。


「そうそう。ブラジリアンキックって、なんすか?」

「これだな」


 足首を捻って撃ち込む、ハイキックである。


「なるほど。こうっすね?」


 実代が、足を高く持ち上げた。ヨガ講師である親譲りなのか、体操選手ばりに足がピンと伸びている。


「スカートォ!」

「はっ! ひゃあああああああ!」


 オレのアゴに、実代のブラジリアンキックが炸裂した。

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