第11話 3D格闘

 今日は、部の月刊誌に載せる小説の発表会だ。


 オレだって、一応仕事はしている。


 とはいえ、衣笠きぬがさ部長のチェックは厳しい。


 実代みよも、珍しくムーッとうなっている。


「では、城浦しろうらくんの作品から感想を伝えます」


 黒髪ロングをかきあげ、衣笠部長がオレの小説に視線を向けた。氷のような瞳で原稿に目を通す。


「なかなかですね」


 感想といえば、それだけだった。


「あの、具体的になにかないんすか?」


 実代が、衣笠部長に噛み付く。


「こ……城浦センパイだって、一生懸命書いてるんすから」

「私は、他の部員たちにもちゃんと感想をお伝えしているはずです」

「ホントっすか? なんか城浦センパイにだけ冷たいような」

「そうでもありません。本当に直すところがない場合は、私も特に言うことがないだけです」


 部長の言っていることは正しい。衣笠先輩は、修正点だけを指摘するのである。


「できていないところだけ指導って、それで部員のスキルが伸びるんすか?」

「おい、やめろ」


 オレは、実代を座らせようとした。


 しかし、頑として実代は譲らない。


「たしかに、今の文芸やサブカルチャーは、褒めて伸ばすのが主流です。それは私だって指揮しています」

「だったら!」

「ですが、私はあくまでも『欠点がないか』だけで作品を見させていただいています。矛盾点、ムリがある点などですね」


 実代は言い返そうとしたが、衣笠部長に遮られる。


「なぜっすか?」

「相手が気づいていないだろうという部分に、重点を置いているからです」


 衣笠部長にとっては、いい点は自分が知っていればいいとのこと。部長は相手のセールスポイントには、なるべく踏み込まないようにしているとか。


「個性は、どうしても出てしまいます。書き方を変えようが同じテーマで書こうが、結局個性は浮き上がります。その個性を消す行為は、なるべく避けているつもりですが?」

「うう」


 つまり、当たり障りのない感想しか言えないってわけだ。


 他の部員の感想は、構成などの指摘を受けている。


 実代の作品も、「キャラはイキイキしているが、話の流れがメチャクチャ」と言われていた。


「日常物を意識したのでしょうが、ムダが多いですね」 

「何が起きるのかわからないってのが、日常ってものだと思ったっす」

「それでも、読み物としてはもっとバランスがほしいです。読者を意識してください」


 ちげえねえ。それがオレの感想である。


 あとは、キャラはこのままでOKと一応褒められていた。




「まったく、衣笠部長ってしんどいっすね」


 コンビニのイートインで、実代は甘いカフェオレを飲んでいる。


「でも、オレは衣笠先輩の指摘も合っているって思った」

「部長の肩を持つんすか?」

「違うって。日常ものでも読み物だから、読者は気にしろ」


 ただでさえ、日常系は事件が少なくて読みづらい。いかに興味を持たせるかがポイントとなる。


「もうちょい似たような作品をインプットしてみて、上位勢がどうやっているかチェックしてみな」

「うっす」


 反省会は、ここでお開きに。



 ~~~~ ~~~~ ~~~~ ~~~~ ~~~~


 

 また、土曜日がやってきた。

 今回遊ぶのは、3D格闘である。

 で、今日持ってきた小説は、現代を舞台にしたファンタジーだ。ちょうど、この格闘ゲームのような世界設定である。

「3Dは2Dと勝手が違うので、緊張するっす」

 といいつつ、実代は自信満々だ。


紺太こんたセンパイ、準備はいいっつすか?」

「もちろん。レディ、ゴーッ!」


 気がつけば、オレもノリノリで対戦する。


 オレは中国拳法使いのジジイ、実代は相撲取りだ。投げキャラか。


 しかし、実代は技を繰り出すこともできず、あっさり一本目を失う。


「こいつって、強かったっけ?」

「強いと思ってたんす。過去に大会で、優勝をもぎ取ったキャラだったんで」


 格闘ゲームの世界大会の様子を映した動画を見て、研究したらしい。


「ああ。それな、トリックがあるんだ」

「なんすか?」

「誰も対策していなかったんだ」


 実装されたばかりで使用率の低いキャラは、対策が不十分だったりする。そのため、まさかの「わからん殺し」が発動したりするのだ。


「たしかに。基本的に格ゲーって、だいたい全キャラ触るっすからね」

「ああ。よっぽど数が多いゲームでもない限りは」


 そうは言うが、オレもそんな全キャラとかまでは触らない。


「自分でキャラを使うと、いざ自分が使用した経験のあるキャラと当たったときに対策できるだろ? 新キャラが開いてだと、その見極めが甘いんだよ」


 なので「わからん殺し」、つまり、「相手の得意な攻撃がわからないまま死ぬ」という減少が起きる。


「こんなふうに」


 オレはさも当然のように、二本めを取った。


「うわー。弱いっすね、あたし」

「いや、経験値が少ないだけだ。今度は同キャラで行くか」

「うっす」


 続いて二戦目を始める。


 うーん、わからん。張り手張り手で崩して投げ、か。


「あ、すかし投げって手段もあるか」


 実代が、こちらの張り手をスウェーした。

 そのまま、流すように投げを繰り出す。

 威力は低いが、何をされるかわからない一手としては有効では?


「よっしゃ。一ラウンド取ったっす」


 はしゃぎながら、実代が力こぶを作る。


 この勢いのまま、試合は実代の勝利に終わった。


「やっぱ張り手で押し切るキャラだな、コイツは」

「かもしれないっす。そのせいで、他の打撃系に当たるとキツイっすね」


 マーシャルアーツ使いと対戦すると、相撲取りは厳しい。まるで対応できなかった。対戦台だと飽きるくらいに当たるから、対策は万全と思っていたのに。


 格ゲーは、デカさや筋肉の付き具合で耐久値が上下するわけじゃない。相撲取りといえど、頑丈ではないのだ。まして3Dだと打たれ強さは顕著である。


「さすがに、対戦で当たりまくっているキャラが相手だから、対応できているって感じだな」

「なんか、強くなった気がするっす」

「それは初心者をボコっているだけだな」

「勝てばよかろうっす」


 また、負けた。慣れるまで大変だな。


「ちょっとコイツを使い込むわ。相手を頼む?」

「えっ? いいんすかボコって」


 そういいつつ、顔はニヤついている。


「ボコってくれたほうが、強くなるからな」

「うっす。ではお任せを」


 その後、オレはひたすら負け続けた。


 ただ、この相撲キャラは面白い。使えば使うほど、考えもつかなかった戦略が見えてくる。


「交代してくれるか? 今度はお前が、相撲キャラな」

「はいっす。うお!?」


 実代が、何もできずに負ける。有効だったスウェー投げも、同じポイントに方向キーを押してやるとかわせた。


「どうだ。これが対策なんだ」

「ほほーお。やるっすね。使い込んだ分、されたくない攻撃を潰しにかかるとは」

「そういうこった。覚えてみろ」

「やってみるっす」


 その後、実代も相撲キャラの魅力に惹かれたらしい。


「あっ、てめ」

「へへーん」


 オレより飲み込みが早いぞ。


 こちらが得意とする攻撃を、実代の相撲キャラは的確に潰していく。


「んにゃろ」

「えいえーい」


 結局、一ラウンドも取れなかった。


「ざっとこんなもんっすよ」

「なんとなく、この相撲キャラの特徴はわかってきたな」

 

 この相撲ヤロウは、いわゆるカウンター系だ。


 攻撃手段は張り手による押し出しか、密着しての投げが主体である。

 しかし、この相撲キャラが本領を発揮するのは、相手が攻撃してきたときだった。


 バックドロップまでしてきやがる。


「そりゃあ、わからん殺しが決まるわけだ」


 何事にも、得意や不得意があるものだ。

 

 しかし、実際に触ってみないとわからない。

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