第10話 影響受けすぎ
例のごとく、昼食をいただく。
ハンバーグと、味噌汁だ。
ただ、ハンバーグは昨日の残り物だという。
味噌汁は朝食で作ったばかりだそうだ。
付け合せに、卵焼きも追加した。
「うんっま。最高だ」
「ホントっすか?」
「大好きだ」
「あ、そうっすか」
デヘヘと、実代が変な笑い方をする。
「ハンバーグな、好物なんだよ」
「……はい」
急に、実代が真顔になった。
ハンバーグは柔らかく、それでいて程よい弾力もある。
「これは、お前の手作り?」
「はいっす」
「味付け、ホントにケチャップソースだけか?」
「そうっすよ」
じゃあ肉汁の味なんだな、これは。
「マジモンのうまさだ。ありがとうな」
「うっす」
なんか、反応がそっけなくなったな。
「いや、マジでお前料理上手だな。ウチの姉貴にも教えてやりたいぜ」
「そうなんすか?」
「ああ。姉貴なんて、レトルトも焦がすくらいだからな。温めながら酒飲んで寝ちまって、お湯がカラッカラになってた」
「あはは……」
実代が、苦笑いを浮かべる。
まあ、あんな姉だから、料理を教えるだけムダだろう。
キッチンドランカーになるのがオチだ。
「でも、お前の料理はウマイ。オレな、ホントは甘い卵焼きって苦手だったんだよ。でも、お前のなら食える。毎日いける」
「わあい、ありがとうっす!」
パチパチと、実代が拍手をした。
「それより、手は大丈夫っすか?」
食器をかたしながら、実代が聞いてくる。
実代は、オレの指を気にしてくれているみたいだ。昨日ちょっとだけ切ってしまったから。
「平気平気。アロエ塗って寝たら、すっかり治ったぜ」
オレは、実代に指を見せる。
キズは残っているが、血は完全に止まっていた。
「ごちそうさま。じゃあ、今度こそ洗い物するからな」
ちゃんと、洗い物をさせてもらう。
食事が済んだら、次はゲームの続きだ。
勝負は五分五分である。やはり、慣れないキャラがいると勝敗が分かれるな。
このゲームはやや上級者向けなところがあって、どのキャラもやたらとクセが強い。
「なあ実代」
「はい……」
「したい」
オレが言うと、唐突に後ろへ下がった。こたつテーブルの足に指をぶつける。
「いやいやちょっと……、そう頼まれるのは読んでいましたが!」
「だからぁ、小説の読み合いだっての! バカかお前は! いい加減覚えろや!」
「聞き方が、意味深すぎるんすよ!」
実代に逆ギレされた。
「じゃあ、感想へ行くっすよ。ファンタジーものだったっすけど、ちょっとこの作品の影響受けすぎじゃないっすか?」
「あー、わかっちゃうか」
「わかるっす。世界観とか似ているので。それでも、オリジナリティまで捨てちゃってたなと」
オレは、実代の意見を素直に受け止める。
「こういった世界が好きなのは、読んでいて理解できるっす。ただ、全体的に独りよがりっすね。読者は設定資料が読みたいわけじゃないっす。それはラノベを書く基本っすよね? センパイがドツボにはまってどうするんすか、と」
手厳しい意見だ。
しかし、こういう指摘をくらわないと、オレは軌道修正ができない。
好きな世界を思う存分垂れ流し、読者を置き去りにしてしまう。
それは、下手をすると快感へ発展するのだ。
「わかる人にだけわかればいい」という、思考の魔物に取り憑かれてしまう。
できあがるのは、ただ好みの作品をパクっただけの自己中な劣化コピーだ。
「あと、ひとこといいっすか?」
「どうぞ」
「オッサン主人公は、ラノベじゃウケないっす」
「だよなー」
オレはうなだれる。
同時に、オレの持ちキャラも負けた。彼も、オッサンなキャラである。
「ネット小説ならいざしらず、ラノベは思春期のキッズが読むものと思って書いたほうがいいかもっすね」
「重厚な世界って、評判は悪いか?」
「そもそも、キッズが書く重厚な世界に、キッズは興味を持ってくれないかと」
過去一で辛辣な意見をもらって、オレは心が折れた。
「ありがとうございます」
オレも、敬語になる。
「いえ、いいすぎたっす」
「いいんだ。逆に励みになる」
時間になり、オレは家へ帰った。
実代に言われた要素を全部削ぎ落として、読者を意識した作品に書き換える。
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