第9話 百合の世界は深い
先日、小説をお互いに提出して、感想会の日を迎える。
まずは一息つくために、昨日もやったファンタジー格闘ゲームをプレイした。
「あれからも、ゲーム自主練したっす」
「小説の勉強をしなさいっ」
しかし、オレの一撃を実代はジャストガードで防ぐ。どうやら、ガチで練習したようだ。
「といっても、音がバレてはいけないのでジャストガードだけっすが」
それでも、充実した日だったという。
しかも、ちゃんとオレの動きに適応できているではないか。
鍛錬の成果は、出ているようだ。
「ちゃんとオレの作品、読んだのか? オレはちゃんと、お前の作品を読んだぜ」
「マジマジと聞かれると、恥ずかしいっすね」
「じゃあ、オレからな。細かい文章のツッコミとかは赤を引いたので、確認してくれ」
赤の入った原稿を、カバンから出す。
「うっす」
「まず感想だが、オレにはよくわからんかった」
「あーそうっすかー」
コントローラーを投げ出し、実代は頭を抱える。
「ぶっちゃけ賭けでしたー。あー、やっぱだめかー」
「ていうか、オレに百合がわかると思ったのか?」
「ムリっすよねー、センパイに女同士のイチャイチャとか、求めるんじゃなかったっすねー」
大げさに、実代はうなだれた。
ちなみに、オレたちが使っているキャラも女性キャラ同士である。オレが身体よりでかいアンカーを振り回すグラマーな海賊で、実代はチビのロリサムライだ。
「あれは、オレには採点不可だな。あの作風を許してくれそうな環境の、小説サイトに投稿してみるんだな。何かしら、反応は返ってくるだろう」
「やったんすよ」
「おう。どうだった?」
「二人共、男臭いと……」
お、おう……。
返す言葉もない。
「だから、センパイならわかってもらえるかなーって思ったんすよ!」
それなら、いい方法はある。
「ブロマンスにしてしまったらどうだ?」
「なんすか、それ?」
「いわゆるバディものだ」
男性同士の衝突とそこからの友情を描く話を、ブロマンスという。
「女子がダメなら、男同士の友情話にするんだよ。ホームズとワトソンとかの。この話はスポーツだから、バッテリー、つまりピッチャーとキャッチャーの関係なんていいぞ」
「あー、パスで」
せっかく提案してみたのに、秒で拒否られた。
「なんでだよ?」
一番、この作風が活きるジャンルだと思うのだが?
「あたしは、女のコが書きたくてラノベを書いてるっす。センパイだって、そう話してくれたじゃないっすか! そもそも、何が悲しくてムサいオッサンしか出てこないラノベなんて書かなきゃいけないんすか!」
「そ、そう、だな」
オレは視線をそらした。不自然さが目立つ。
「ああ? もしかしてセンパイ、書いたことあるっすね? オヤジばっかりのラノベ」
「な、なんの話だ?」
「とぼけちゃってぇ。だいたい、男子ならみんな通る道なんすよ。『美少女に媚びた主人公なんて書けるかい!』ってときが!」
必殺技のコマンドをミスって、オレは実代に反撃される。
「あるんすね」
「ああ」
誰にだって中二病のときと、硬派に目覚める高二病の時期はあるものだ。
「だいたい、女子ってそんなにキラキラしてないんすよ! どれだけ着飾っていても、裏ではおっさんなんすからぁ!」
せっかく勝ったのに、実代はコントローラーを投げ出してしまった。
「わかる。オレの姉貴もオバンだから」
「姉さんいるんすか?」
「大学生のな。しょっちゅう酔って帰ってくる。よく女友だちに車で送ってもらうんだ」
その人は姉と中学からの同級生で、学科も同じらしい。
グデングデンになって帰ってくる姉の姿は、まさしくオッサンだ。
「女同士の話が書きたいなら、聞くか?」
「ぜひぜひ」
ゲームで遊びながら、姉の女友だちの話をしてやった。
「一人だけ、運転手って。酒好きなのに飲めないのはツライっすね」
「だから、その人はウチで飲むんだよ。で、我が家に泊まっていく。あとは、二人だけのパジャマパーティだ」
話を聞きながら、「うはあ」「んほお」とか、変な声を出す。
「百合とか、難しいっすね」
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