第7話 ファンタジー格ゲー
あれから、一週間が過ぎた。また、後輩と格ゲーをする土曜日が始まる。
今日遊ぶ格闘ゲームは、ファンタジー世界が舞台だ。
二〇年前に初代が作成されて、今だに最新作がリリースされるというロングシリーズである。
別の作品世界ともコラボしていて、そちらも人気だという。
ややマッチョ目で、言動も挙動もイカツい。
オレはサブ主人公の「サーベル使いの天界騎士」を使う。
いわゆる天使だ。
『覚悟はいいか?』
ゲームキャラになりきって、実代が主人公のセリフを吐く。
「渋くねえ」
「こういうのは雰囲気っすよ。かくごはいいかぁ?」
また、実代が主人公のマネをした。
「同キャラで戦ってもいいんだぞ」
「それは勘弁っす。絶対勝てないっす」
戦闘が始まる。
実代のキャラは基本的に大振りなのだが、一発がでかい。
それでいて、コンパクトなコンボを噛ましてくる。
まさしく、「読み合い」が物を言う。
「読み合い」なら、小説でお願いしたいのに。
『あぅおらあ!』
剣の切り払いと思わせて、凶悪なフックをかましてきた。
「あぅおらあ! あぅおらあ!」
実代も調子に乗って、キャラの声マネをする。
こちらは正統派主人公ユニットながら、アドリブに弱い。扱いやすい分だけ攻撃力が弱いので、基本はコンボ頼みだ。
「わーわーっ! 最新作でもやり込んでるっすね!」
オレにコンボをかまされ、実代が必殺技を撃てずにワタワタする。
「オレが小説を書こうと思った、理想的な作品だからなぁ」
飛び上がった実代を、オレは対空で撃ち落としてKOした。
「あーわかるっす。初期のセンパイの作品って、イカツめのファンタジーばっか書いてたっすよね」
オレはこのゲームをやってから、サイバーパンク系ファンタジーをやたら書いていた。
回収する気のないムダにデカい設定や、複雑すぎる家系図を思わせる人物相関、裏設定の裏など。
もはや、今となっては黒歴史とかしている。
「こういう自分を浄化したくて、文芸部に入ったんだよ」
「なるほど把握っす。でも、そういう黒歴史って、案外逃げるとドツボにハマるっすよね」
実代の正論パンチが、オレの胸をドスンと貫く。
「ああっ」とオレがうなだれると、自キャラがKOされた。
「自分の推しとかスキを否定し始めると、最終的に何がスキかわからなくなってくるっていうジレンマが」
「ぐはああ!?」
「結果的に、相手の推しや好きも『それって応募作としてどうよ?』とかって批判し始めるんすよ。そこに待っているのは、インターネット老人会!」
「うわあああああ!」
キャラより先に、オレがKOされる。
「まだだ。まだワンチャンある。オレはまだ高校生だ! いくらでも巻き返せるぜ」
「そうやって、人は老いていくっす」
トドメの一撃を食らって、オレは完敗した。
やっぱり主人公は強え。
「まいったな。さすが現役だ」
「でも、やり込みが足りていないっす。センパイだって、そのキャラあんまり使い込んでないっしょ?」
「ああ。主人公ばっかり使ってる。ていうか主人公の声が聞きたくて遊んでるなぁ」
でもいいのだ。このゲームのよさをわかってくれる実代がいる。
正直言って、このゲームは「同じように遊んでくれる相手」は非常に貴重だ。
オレの友人でさえ、ゲームの存在すら知らないとかもザラだ。
ロングランシリーズながら、アニメ化もされていないしな。
コラボ先の方がアニメ化したが。
ゲーム自体も、かなり難しい。
コンボどころかルールを覚えることが大変だ。
どのキャラにも特殊な扱い方があり、全キャラをとりあえず触る必要がある。
「だから、理解者であるお前と遊ぶの好きだよ」
「好きっすか……はい」
おいおい、なんで黙り込む? マジで。この空気なんとかしろよ。
「ささ、ゴハンにするっす。用意するんで待っててほしいっす」
「あ、うん。いただきます」
そうそう。今日はメシを抜いてきたのだ。
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