第6話 ゲームも感想会も、容赦なし!
「こんなもんすかね? すんません。容赦なくて」
「いや、ありがとう。自分だとわからないんだ。こういった調整ってやつは」
オレもネットでも感想をもらうが、「いいですね!」とかスタンプだけが多い。
幸いなことにオレは厳しい意見はもらってことはないが、建設的な批判意見も聞けないことが多かった。
逆にオレのフォロワーは、相手が見えないから必要以上にキツイ言葉の応酬があったりする。そんなやりとりに、お互いのリスペクトなどはない。
オレは「ネットの向こう側も人間」と考えているので、あまり厳しい意見をしないし求めない。だから、当たり障りのない意見が来るのだろう。
「オレは、生がいい」
そう伝えると、実代が「え!?」と大声を上げた。
「センパイ、今の発言は少々センシティブすぎでは? 場所が場所なら削除対象っすよ?」
変な誤解をするな!
「……じゃなくて! 生の声が聞きたいのって意味だよっ! ちゃんと面と向かって意見が、ほしいんだって!」
「そういうことっすか。なんだ」
「ったく」
何を考えてんだ? 実代のほうが、よっぽどムッツリではないか。
オレ自らが、生の声が欲しいと思っている。
正面からできるだけ、なんでも意見を聞ける相手がほしい。
リスペクトしつつ、治せるところを直したいのだ。
「だから、お前みたいな存在は、マジで貴重なんだよ。オレみたいな一匹狼には」
「あたしには、せんぱいは『寂しくて死にそうなウサギ』に見えるっす」
かわいくねえウサギだな。誰にも甘えられない。
「そういうお前は、孤高のオオカミかトラに見えるが」
「あたし、そこまで神経が強くないっすよ?」
実代は謙遜する。
「見た目からして、お前はもっとあけっぴろげな性格に見えるんだけどな」
「そうでもないっす。あーでも、陰キャは隠せていないんすよ。ある意味では、あけっぴろげなのかもっすね」
お茶を飲み干して、実代は虚空を見上げた。
関わってくるなオーラを、周囲に発して生活しているという。
かといってオタク全開にして、仲間を増やす気もないと。
「友だちを作るつもりも、ないんだな?」
「オタだからって、オタなら誰でもいいってわけじゃないんで。野球やサッカーのマニアだって、一人ひとり好きなチームが違うっしょ? オタも同じじゃないっすか。好きな作家も漫画家も違うっしょ。ゲームハードの好みで、ネット内で戦争するくらいっすから」
言われてみれば、たしかにそうだ。
オレだって、オタク同士でつるむならオタク系研究会へ入るだろう。
しかし、オレは文芸に最も興味があった。
窮屈この上ないが。
「センパイと一緒に過ごせないなら、いらないっす。あたし、センパイ目当てでここに入学したんで」
「オレを? なんでまた」
「会誌っす。去年の文化祭の」
「ああ……思い出したぁ」
あれ、初めて本格的に文芸部とケンカしたんだよなぁ。
オレは自作ラノベを、文芸部には見せていない。
あちらは、ややお固めの青春者しか受け付けなかった。
ラノベなんてもってのほか。まして、ネット新人賞なんて小説とも認めていないだろう。
オレにとってはどっちも読み物だ。差別しない。
面白かったら、オレは何でも読んだ。なんでも吸収していく。
ビジネス書だろうが、自己啓発本だろうが、なんでもいいだろうが。
小説だけしか認めない視野の狭い作家になんか、オレはなりたくなかった。
特に女子部長の
「ゲーム世界なんて、小説の舞台としてありえない」だとぉ?
テレビゲームから飛び出したロボットだっているんだぞ!
それに異世界に行く系の話は、たいていロボットものだったんだからな!
ゲームみたいな世界があってもいいじゃねえか。
まあ、そんなことを文芸部に言えば、プッと吹かれるか無視されるかだろう。
向こうが聞く耳を持たないなら、こっちだって。
しかし、オレが彼らを心のなかで排斥すれば、オレも奴らと同じになる気がした。
オレも彼らから、学ぶことだってあるはず。
困難な状況に、身を置くべきだと思っている。
青春系文芸少年に擬態しつつ、部員たちからは距離を置いていた。
そんな中で過ごして今年、オレに理解者が現れる。
一年下の、相川 実代だ。
「部長はラブコメに理解がないっすからね」
オレは実代にだけ、ラノベ好きでネット小説好きなのをカミングアウトしている。
アイツの持っているネット原作の小説に、ついつい反応してしまったから。
それ以来、オレたちはこっそりオタク話に花を咲かせている。
秘密を握ったと思っているのか、実代の方も「下の名前で呼んでくれっす」と注文をつけてきた。
「思ったんすよ。こんな硬派な文芸部に、あんなバトル系ラブコメぶつけてくるこの人はホンモノだって」
「それで、オレの通っている高校を選んだと?」
「はいっす。だから、この出会いは運命っす」
また、実代はコントローラーを握る。
「さあ、休憩は終わりっす。もう一戦勝負っすよ!」
「望むところだ。あと、今日は早めに帰る。できれば、今日中に指摘された部分を修正してしまいたい」
「お時間は取らせないっす!」
こうして、一六時位までじっくり対戦をした。
充実した時間を過ごしたとは思う。
「オレのポリシーもあるが、ホントに手加減しなくてよかったのか?」
「いいっす! 次は全力で叩き潰すんで!」
実代は、闘志に燃えていた。
その野心と熱意を、小説にも向けてほしいのだが。
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