第4話 日曜日も、ゲーム三昧

 翌日、オレはまた実代の家でゲームに興じていた。


「お前の小説読んだぜ」

「いよいよ、読み合いらしくなってきたっすね」


 コントローラーを握る実代の手に、気合が入る。


「……それが本来の読み合いだからな」


 ちなみに、今は同性能のキャラで対戦していた。

 同じ主人公格のキャラである。

 飛び道具、対空、突進という「三種の神器」を持ったキャラだ。


 それだけに「読み合い」が重要になってくる。


「で、どうっすか?」


 ちなみに、実代が用意していた小説の内容は、甲子園を目指す男子を追いかけるヒロインの短編だ。

 文芸部の会誌へ提出する用の原稿である。



「フレッシュさ爆発だった」


 実代キャラの突進が、オレのキャラにクリーンヒットした。


「そうっすか。よかったぁ」

「なんかこう、ヒロインがバッターボックスに立つ想い人に込めた気持ちを、球場の金網を掴むシーンだけで表現するってなかなか難しかったんじゃねえのか?」


 実代が、超必殺技を出してくる。実に、わかりやすい。


 オレはされるがままに、先制ポイントを取られた。


「わっかりますかぁ。わかっちゃいますかぁ。あの表現は気に入っているんすよぉ」

「だが、そこまでだった」


 二本目、いきなり実代のキャラが先制パンチを食らう。


「構成が雑すぎる。特にヒロインが男子を好きになる理由とか、真面目に考えたのかと。ホントにあのシーンだけ、全力を注いだなって思った。絵だけ思い浮かべて簡単だろうなぁと」


 今度は実代が、ラウンドを落とすことに。


「もっとキャラの気持ちになって考えてみろ。どうして彼じゃないといけないのか。どうしてこんなにも胸が苦しいのかってのをもっと伝えてきてほしい」

「はい。ありがとうっす」


 三本目に至っては、パーフェクト負けを喫する。


 これは、身が入っていないなと思って、休憩にした。


「ゴハンどうっすか? なんなら作るっすよ」


 実代が立ち上がる。


「いいよ。そこまでしてもらうわけにはいかない」


 さすがに、首を横に振った。


 オレだって、ちゃんと昼メシ後にここへ来ている。

 

 後輩にメシを作らせるわけにはいかない。

 そこまで図々しくはないのだ。


「じゃあ、あたしだけ食べていいっすか? 遅くまで起きていたんで、今頃腹が減ってきたっす」

「マジかよ、もう三時じゃん」


 なんと、朝食が一〇時過ぎだったとか。

 考えられない。

 いくら休みの日でも怠惰すぎる。


「いや、センパイの小説面白くって」

「そ、そうか」


 個人的に、うれしい感想だ。


「でも、日頃のルーティンも考えようぜ。作家って、どっちかっていうと規則正しい生活をしている人の方が生産性は高い」

「うっす。肝に銘じるっす」


 執筆に必要なスキルは、気力や意志の力ではない。習慣化である。


 一夜漬けでバババーと書ける人なんて、ほんの一握りだ。

 休日にまとめて書いてしまおうと思っても、家族が病気になったり急な用事ができたりする。


 それよりも、コンスタントに書ける環境を作るほうが、習慣化できて効率がいい。


「それでも、遅くまで引き込まれたってのはうれしい。ありがとうな」

「は、はい。センパイ」


 うっとりした顔で、実代が呆けている。


「じ、じゃあ、ゴハン取ってくるっす」


 作りおきの食事があるそうだ。


「おまちどうさまっす」


 実代が、カレー皿を持って戻ってきた。


「いただきまーす。うん、一日置いたカレーは、やっぱうまいっすね」


 おいしそうに、実代はカレーを頬張る。


 見ているだけでも、すごくうまそうだ。


「ほしいっすか?」

「あ、いや。すまん。物欲しそうにしていたか。悪かった」

「んもう。ほしいならほしいっていいなさいっす」


 また、実代が食う作業に戻る。 


「これは、おふくろさんの手作りか?」

「いや。あたしが作ったっす」

「マジで?」

「オカンは休日仕事なので、休日だけは、あたしが料理するっす」

「そういえば、ご家族の方は?」


 この家から、人の気配がしない。


「今日もいないっす。遅くまで帰らないっすよ?」


 日曜日なのに……。


「いつもはリモートなんで、一日中家にいるっす。土日だけ仕事内容の確認するために、家にいないんすよ」


 土日が忙しい業種らしく、美夜の家族は平日に休んでいるらしい。


「気になるっすか? 父が学習塾っす。母はホットヨガのインストラクターっす」


 なるほど。土日が休めないわけだ。


「内容を撮影して、生放送で配信するっす」


 ほうほう。ちゃんと密にならないように気をつけていると。


「センパイ?」

「どうした?」

「やっぱり一口、どうっすか?」


 カレーの乗ったスプーンを、実代がオレに向けてきた。

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