第17話 100年以上生きている一匹の名もない黒兎

私は名もない黒兎。

けど、一つだけ他の兎たちと違うところがある。

私は今、10歳なんだ。

本当ならいつ死んでもおかしくはない年齢。

でも、私はいつまで経っても年を取らないんだ。不思議だよね?

自分でも不思議に思うんだけど、私自身もどうしてこんなに生きているのかは分からないんだ。

私は元々、綺麗な海岸近くの草原で暮らしていたんだけどね、2年くらい前に海でおぼれて、気が付いたらこの島に居たんだ。

ここの島の人たちは優しくて、たまに僕に草を持ってきて食べさせてくれた。

そんなある日のこと。

「ん?おっ、君かな?噂の黒兎ちゃんは?」

一人の男の人が私に駆け寄って、手に持っていた草を私の目の前に置いてくれた。

私はすぐに無我夢中で食べだした。

「ははっ、いい食いっぷりだな!よしよし」

そう言って男の人は私の事を丁寧に撫でてくれた。

温かくてとても優しい手だった。

「たくさん食べて大きくなりなさい。まだ、草はたくさんあるからな。」

それからは毎日、その男の人は私に草を与えてくれた。たまに大根の葉っぱのようなものも私にくれた。そして、あーだこーだとお仕事の愚痴を言ったりしていた。

「君は本当にこんな話をよく腹を立てずに聞いてくれるね。おっと、兎だからか、ハハハ。あーでも、君のおかげで俺も仕事をしっかりと頑張れそうだ。絶対にまた来てやるから、大人しくいい子にしてくれよな?」

そんな日々が私にとってとても愛おしかった。

でも、最近島はどんどんいろんなコンクリートの建物が増えていった。

変な煙も時々島に漂うようになった。

そして、

あの男の人はある日突然来なくなった。

いつものように「絶対また来る」と言ってくれた翌日の事だった。

それ以来、私は同胞が多くなったその島で、今でもあなたを待っています。

あなたに言われた通りに大人しく、いい子で待っています。

もうその日から90年が経ちました。

私は100歳になりました。

だけど、いつまでもあなたを待ち続けます。

その時はまた、たくさんの草を持って来てください。

私は元気に食べますから、、、、

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