小次郎vs武蔵vs田中
@maxyamada
第1話
テレビリポーターの電報屋正孝(でんぽうやまさたか)64歳はある日テレビ局の階段を転がり落ち、慶長17年にタイムリープしてしまった。
にわかには信じられない出来事だが眼前に広がるは江戸の風景。
受け入れる他なかった。
慶應大学を卒業し公共放送のSXE(えすえくすいー)に42年間勤務し、あらゆる芸能人のスキャンダルをすっぱ抜いてきた敏腕のレポーターだった。
博学でもある電報屋は慶長17年4月に後世の誰もが知るビッグイベント、武蔵vs小次郎の巌流島決戦が行われることを知っていた。
江戸の町でも新聞屋として著名となった電報屋は現代人がついぞ知ることのない決戦前の武蔵、小次郎の心境を記事にすべくそれぞれの拠点に赴いた。
当初は敵の間者として疑われた電報屋であったが武器の所持が無いことを全裸になることで示し、全裸のまま取材をすると言う条件で両名から取材の許可を得ることに成功する。
決戦の1週間前、4月6日のことだった。
小次郎側ー
決戦前の現在の心境をお聞かせください
あうあうあー、あううー
当日の作戦などはあるのか?
あうぅぅあー
ありがとうございました
このとき電報屋は驚いた。
バガボンドの設定ってホントだったのかと
そして手話もないこの時代では小次郎の意図はまるっきり不明なため、記事にするにあたっては適当にそれっぽく書き茶を濁すことにした
武蔵側ー
いよいよ決戦が迫りましたね
今の心境を聞かせてください
水は何処へ行こうと考えたりはしない。完全に自由だ
それこそが勝機になるだろう
つまり自然体でいると言うことか?
その通り
迷い、恐れ、人だけの毒
水や土には毒はない
最後にファンの皆様にメッセージをお願いします
武蔵です。パッと行こうぜライオンズ、パッと行こうぜ文化放送
ありがとうございました
電報屋は武蔵がなぜか文化放送ライオンズナイターの決め台詞を知っていたことに違和感を覚えたが、自分がタイムリープしたことによって歴史が変わったのだろうと思うことにした
家に帰ってさっそく新聞の作成に取り掛かかろうと帰路につきかけたそのとき。
物陰から電報屋を呼ぶ声がした
新聞屋さん…新聞屋さん…
おや?あなたはどなたですか?
オイラは武蔵の付き人の田中だよ
あんたと同じタイムリーパーだ
電報屋 (!!??)
恐らくあんたとオレは近しい時代から飛んできてる
あんたの新聞の手法は文春とそっくりだからな
合ってるだろう?
ニタっと笑ったその顔はシバターにそっくりで思わず殴り殺そうかと思うほどにいやらしい薄笑いだった
そして同時に武蔵が文化放送の決め台詞をなぜ知っていたかの謎も解けた
あの台詞を武蔵に教えたのは君だったのか
絶対西武ファンだろ
それで君はそんなことを私に話してどうする気なんだ?
電報屋は思わず聞き返した
しばしの沈黙の後、田中はおもむろにこう宣言した。
オレは…武蔵を殺す…
電報屋 (!!??)
さっき一人称オイラじゃなかったか?
と疑問に思ったがもはやそんなことはどうでもよかった
武蔵を殺すだって??
アンタは付き人じゃないのか?
ああ、付き人さ
しかし武蔵はビックネームだ
オレは有名になりたいんだよ!!
ゲスな理由ではあるが人間心理としては至極真っ当である
私はこの男に話を聞いてみることにした
武蔵の戦闘力はブラフではない
映像は無いが吉岡70人斬りの歴史も事実だ
勝機はあるのか?
まともにぶつかっては勝てない
武蔵と小次郎が闘い、勝ち残り疲弊している方をオレが殺す
そうすればオレが日本一だ!
歴史は勝者が作る!
作戦の内容も理にかなっている
私は思わず胸が高鳴った
決戦当日ー
約束の時刻をとうに過ぎた夕刻
水平線の彼方からギッチラギッチラと船を漕ぎ、武蔵は巌流島に降り立った
あうあうあーー!!!
言葉は無くとも遅刻にお怒りな様子の小次郎
刀を抜き鞘を砂浜に放り投げたのを合図に武蔵が斬りかかる
小次郎敗れたり!!!
勝利宣言と同時に武蔵は隣にいた田中をいきなり斬り捨てた
ギャアアアアアアアーーーーー
突然の出来事にあっけに取られる小次郎に勢いそのまま襲い掛かり、二撃、三撃の打撃音のあとあっけなく小次郎は敗れた
すでに絶命している小次郎に対し、わずかに息がある田中が運命を受け入れるかのように電報屋に最期の言葉を残す
さすが武蔵…オレの企みに気づいていたか…
一発逆転したかったなぁ…
そう言い終えると田中は息を引き取った
武蔵が真っ先に田中を殺したのは恐らく私が密告したからだろう
闘いに勝利した武蔵のヒーローインタビューが始まる…
放送席放送席、見事なツーkillで勝利しました武蔵選手です
勝ててよかったですーーー
私の長い一日が終わった
私も田中と同じなのかも知れない
一発当てるべく今日も筆を走らせているのだから…
ー終劇
小次郎vs武蔵vs田中 @maxyamada
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