第参話 染みない、味


 後になって、どうしてその選択をしてしまったのかと悶々とすることがある。


 唐突ではあるが、小学校の修学旅行時に自分がどんな服装をしていたか覚えておられるだろうか。忘れたというのならば、幸いである。

 私ははっきり覚えている。気に入っていた紺色の水玉模様のツーピース(スカートとボレロ)──ではない。たんなるTシャツとキュロット(最近〝キュロット〟ってゆうのかしら)。なぜだか私はその水玉模様を選択肢に入れておらず、修学旅行が終わった後になって、なぜここぞという晴れ舞台(?)に着なかった!? ともうウン十年も後悔しているのだ。結局、その後も水玉模様を着た記憶はなく、いつの間にか手放してしまった。おそらくサイズアウトで処分したのだろう。


 さて、第三回。ホットクック襲来から初めて迎える休日のこと。その週は日曜が出勤になってしまい、呪ってみたり、吠えてみたりしたが、工事立ち会いがなくなるわけでもなく。貴重な、たった一日の休みに何を作るか、週の半ばから思案していた。


 考えて、考えて、考えて・・・・・・・・・・・・GOMOKUMAME。ゴモクマメ、ごもくまめ、五目豆。

 

 地味である。主菜じゃないし。なぜ、五目豆をチョイスしたのか。

 いやまあ、付属のメニュー集に載っていたから、でも他に、肉料理も汁物もあったはずなのに、どうしてどうして五目豆。

 わかっている、薄々は気付いていた、そうじゃないかと思っていた。


 要は修学旅行と同じ、妙な自意識・・・のせいである。


 三日目でいきなり肉料理とかどうなの、ひとりで突っ走り過ぎ、はしゃぎ過ぎ、がっつき過ぎ、ださいってゆーか、いたいってゆーか、ブスイってゆーか。。。

 しょっぱなから全力出さないクールナ俺カッコイイヘルシー私ローカロリーエライミンナトチガウノヨ思春期回路に今も電流が流れており私を突き動かしているわけである。賢治先生の言うところの〝仮定された有機交流電燈のひとつの青い照明〟なのである、多分(ところで私は中学時代、男女混合で映画を観に行こうと誘われ、ワタシ洋画しか観ないからナ~★とかのたまったあんぽんたんであり、思い出すだに胸が苦しい)。


 ともかく、五目豆を作ったのである。大雑把にゆえば、大豆とごぼう、にんじん、れんこん、こんにゃく、もどした干し椎茸(五目)などを賽の目に切り、砂糖醤油で煮たもの、しばしばお惣菜としてスーパーに並んでいよう。


 ちなみに前日から乾燥大豆を水に一晩浸けておかねばならない上、当日はホットクックで3時間という長丁場。大豆とだし汁と調味料でまず2時間、途中、放置もとい報知音が鳴ったら、上記の五目を入れてさらに1時間煮る。なかなかめんどうくさいな、ホットくクックのくせに。いや、煮時間が長いからこそホットクックの本領が発揮されるはず!


 気を直して取りかかり、台所でレシピを読み直し・・・・・・愕然とした。


 大豆は前夜からもどしておく。だが水ではなく、だし汁と調味料につけておくことと明記されていたのだ。そんなの、いまさら、ゆわれても・・・・・・

 すでに大豆は水で戻っている。覆水盆に返らず。大豆乾燥に戻らず。なれど、こぼれたミルクを見て嘆いていてもしょうがない。三時間煮るんだし、それだけ調味料と煮込めば十分でしょう。

 内鍋に水を計量して、ほんだし入れて、調味料入れて・・・・・・ちょっと待て、水嵩やたら高くないか、うわ間違えて倍量入れてる、掬い出せ掻き出せ、調味料足さな! と、一度失敗してからはもうぐだぐだであった。蓋を閉めて五目を追加するまでの2時間、病院に行って余裕で帰ってこれるとふんでいたが、遅刻してホットクックを待たせる始末。でもまあ、ホットクック、一時停止で待っててくれた、優しい。

 五目を投入して一時間。なんだかんだでできあがる。ふっくらつやつや滋味あふれるお惣菜、おふくろの味、玄人好み。さてお味は──


 ぼけてる。薄い。良く言えば、素材の味が強い。


 食べれないことはない。お弁当の隅っこにあれば食べないこたない。でも長靴いっぱい食べたい(byアスベル)かとゆーと、うん、まあ、ご遠慮申し上げる。

 そもそも、と気付く。私は今まで五目豆なぞ作ったことないし、意識して食べたこともなく、好物というわけでもない・・・・・・つまり、正解を知らないのだ。だからこの五目豆が成功なのか失敗なのかもわからない。

 正解はわからねど、これはそういうものではなく、やっぱり味が薄いのだろう。昨晩から浸してなかったのと、水加減を間違えて掬った分の調味料が足したもののまだ足りなかったか。つやがないのは砂糖が足りない証左。存在しない調味料は、当然染みない。


 教訓として、食べたことない料理はやめておけと掲げようとしたけれど、やめておく。食において私は保守派だが、チャレンジはすべきだ。出し惜しみもいけない。水玉模様は着倒すべきで、修学旅行を後悔でいっぱいにしてはいけない。鹿の糞を踏んだのを隠し通せたという良い思い出もあるのだから。

 ところで諸処の理由で修学旅行に行けなかった方、あるいは悲しい思いをした方がいたなら、明日にでもちょっとお高い美味しいものを食べると良いと思う。

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