第10話_カイトの昔話2

(カイトの昔話、後半です)

茂みから例の黒い服を着た魔道士風の男が出てきて、ニタニタと気持ち悪い笑みを浮かべながら、皇女様と貴族令息に『これから一言も喋るな、服従せよ』と命令した。


貴族令息はクッキーに入れた“おまじない”がそんな効能があるとは思ってもいなかったので、激しく後悔したが、命令をされてしまったのでもう反撃することは叶わなかった。


皇女様は『家に帰ったら、このクッキーをみんなに食べて欲しいと言って配れ。それに関する内容だけは話しても良い』と命令され、王宮内の皆にクッキーを配ってしまった。


命令をできるのは、魔法薬の製作者とクッキーの所有者のみ。誰も身体の異変に気づかぬまま、魔法薬に侵された王宮関係者は右肩上がりに増えていった。

離宮に住んでいた嫌われの第2皇子とその忠臣を除いて。


ある夜、魔道士は王宮関係者に毒薬を撒き散らして自害するように命じた。

そうして王宮に住まうものは陛下や王妃を含めて皆死亡した。

その後、フェアリナイトは敵国に侵略されてしまったのであった。


離宮に住んでいた第2皇子とその忠臣は命からがら逃げ延びた。

そして平民の演劇団として各地で路銀を風日ながら逃げているところを、隣国でのあるこの国の貴族に助けられる。


それがセシリオ様の実のご両親のご両親だった。

助けられた第2皇子と忠臣らは屋敷で匿われ、平民の使用人と偽って雇ってもらうことになった。


しかしセシリオ様が3歳の時にご両親は亡くなられ、シルフィー様のご両親に養子に迎えられたセシリオ様について助けられた者たちも平民の使用人として雇い入れられたのです。


「長い昔話をお聞きくださいまして、ありがとうございます。お嬢様。」

世を儚むような深いため息とともに、カイトは顔を上げた。


その寂しそうな目をシルフィーはしばらく見つめていた。


カイトの話を聞く限り、屋敷に元第二皇子様がいるということ?お父様にはきっとバレていないのね。もしかして?


「もしかして、カイトが元第二王子様なの?」


カイトは力なく微笑み、首を縦に振った。

「私は王族だったとはいえ、愛人の子供だということで兄弟や王妃には疎まれて生きてきました。なので、もう国に帰るつもりはありません。

それなのに王族再興派閥は。。。」


「もしかして追われているの?」


「まぁそうですね。でも魔法で変装しているので大丈夫ですよ。」

カイトは頬を掻きながら苦笑した。


「私ったら、事情も知らずにこんなことに付き合わせてしまってごめんなさい。」

シルフィは本当に申し訳ないと思って頭を下げると、カイトの大きな手が頭を撫でる。

驚いて顔を上げると、カイトは優しくシルフィを抱きしめた。


「ちょうど潮時ですのでいいですよ。疎ましく思っていたこの血ももしかしたら活かし方があるかもしれません。平民のままではあなたには手が届かないですしね。」

そう耳元で囁かれたシルフィ。


これってそういうことかしら?勘違いだったら恥ずかしいし、どうしましょう?でも素直に嬉しいですし。でも・・・

ぐるぐる考えを巡らせていると、疲労と湯あたりもあって、視界がぐるぐるしてきた。


「もう遅いので寝ましょうか。」

お姫様抱っこで布団に運ばれたシルフィは、意識を失うように眠りに落ちたのであった。

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婚約破棄された伯爵令嬢は、シスコン兄と門番に溺愛される〜借金のかたに側妻なんて嫌!〜 Nekoyama @kaerukko

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