第159話 7月3日 妹から彼女へ
美香の日となった。
帰り道、美香が少しだけ出かけたいと言ったので、最寄駅では降りず、よく行くショッピングモールへと向かった。
行くことについては何も思わないし、美香のしたい様にさせてあげたい。
だけど、こういう時に出かけることを選ぶ美香はやっぱり2人より余裕があるのかなって思ってしまった。
「ショッピングモールで何するんだ?」
歩きながら隣にいる美香に質問を投げる。
「ウィンドウショッピング」
「買わなくていいの?」
「今日は……って買ってもいいの?」
「ものによるとは思うけど、買えるじゃないか?」
「あ、じゃあ買うかも」
とだけ言って2人の間に会話はなくなる。
黙っている美香を見て、緊張してるのか?――なんてことを思う。
美香と2人で何かをするという時、大抵僕たちの会話は途切れない。
まぁ、話していなくても何ともないのだが、大抵は美香が僕に甘えたり……僕が甘やかしたり……ってなんか思い返してみると僕たちって元々あまり兄妹の距離ではなかったのか?
「ねぇ、お兄ちゃん」
「ん?どうした?」
「手、繋いじゃダメ?」
美香の質問に僕は思わず笑みがこぼれる。
「ちょっと何で笑うの?」
「いや、だっていつも繋いでただろ。それにいつも美香から勝手に。聞いたことなんてなかったじゃないか」
美香は僕に手を繋いでいいかなんて聞いたことがない。
聞いたとしても、事後報告が毎度。
やっぱり緊張してるんだなと思い、笑ってしまった。
「だってさ……前は兄妹という関係だったじゃん……」
と美香は下を見ながら不貞腐れた様にいう。
美香は恋人としてだと奥手になるのか?
いやいや、それはおかしいだろって自分で思ったことに僕は突っ込んだ。
奥手になるなら、何で義兄妹とわかった次の日に僕たちは付き合っているのさ。
まぁ、それを言ったところで僕たちに何のいいこともない。
ここは僕の方から手を繋いで挙げればいいのだ。
美香もそうして欲しいのだと長年の経験から思う。
「ま、そうかもね。ほれ、」
と言って僕は美香の手を取る。
少しだけ肩を上げた美香に対して、僕は手を繋いでから気がつく。
確かに前とは違うなと――この間までは手と手を合わせる形の手の繋ぎ方だったのに対して、今は指を絡めた手の継ぎ方、いわゆる恋人を繋ぎをしているのだから。
繋いでから恥ずかしくなった僕だが、気にせず行こうと思う。
これは慣れていけばいい話だから。
「うん……それでいいの。ありがとう」
美香はとても嬉しそうな顔で笑った。
その顔を見てとても可愛いと思った。
妹としてではなく彼女として。
そして、そのタイミングで僕は気がつく――2人よりも余裕があるのかなと思ったけど、そうじゃないんだと。
美香は余裕があるからデートを選んだわけではないのだ、美香に取ってはこれが僕との時間で大切だと思ったから選んだのだ。
だってそうだろ、凪と美月にとってはどこかへ出かけるよりも普通に家に帰り、同じ時間を過ごし、一緒に寝る事が一番僕としたことがないことで、一番したいと思う事なのだから。
逆に美香は、僕と放課後出かけるということをあまりしてこなかった。
もちろん土日に出かけることはあったとしても、学校帰りに出かけるのは大体、凪が美月。
何でそんなことも気が付いてあげられなかったんだろう、と僕は思う。
もう美香は妹でもあり彼女なのだ。
美香のやり方は少し強引だったのかもしれないけど、最終的に美香を選んだのは僕であり、それは美香のことが本当に好きであったから。
だからこそ僕はもっと気をつけなければいけなかったのだ。
もう美香との関係に妹としては通用しない。
通用するのは美香が妹であろうとした時だけなのだ。
今は彼女としていようとしている。
それなら僕も彼女として美香と接しなければいけないだろう。
と言っても、急に彼女としてしか見ないのは無理なのだから、ゆっくり、ゆっくり美香との関係は妹から彼女としてシフトしていけばいい。
「いいえ!ほら早く行こうよ。遅くなっちゃうぞ」
「うん!もう買うもの決めたから今日はそこに直行しよう!」
「わかった!ならすぐに行こう」
2人で笑い合いながらショッピングモールを目指す。
これは美香との初デート。
何度も来ていたこのショッピングモールは妹である美香と来ていたものだからノーカウント。
ここから新しく僕と美香の関係はスタートしていくのだ。
その思いも込めて、少しだけ握る手に力を入れる。
妹として、家族として、そして彼女として、この手を離さない様に……と。
「それでどこの店行くの?」
「ん?ランジェリーショップ」
「絶対に行くか!!」
心に決めてからわずか1秒にして、僕は美香の手を振り解いた。
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