第158話  7月2日 今も尚、ドキドキ

「最近、美月って変わったよね」


「え?何が?」


「何か大人びて見えるっていうか、何というか……」


「そんなことないと思うけどな〜」



 ローテーション2日目、今日は美月の日。


 帰り道、僕は最近美月に対して思っていたことを口にしていた。


「そうかな?なんか前までは凪がお姉ちゃんで美月が妹みたいなイメージだったんだけどさ、」


「なによ、そのイメージ」


「ごめんごめん……だけど、最近は凪が妹で美月がお姉ちゃんに見える時があるんだよ」


 これは決して悪いわけではないし、高校生の間に精神年齢も大きく成長するわけだから、当たり前と言ったら当たり前なのかなって思う。


 それでも、気になるところではあった。


 今の美月は今の美月で魅力的だが、何か変化が起きると少し敏感になってしまうところが僕にはあるから。


 変化に気が付けず……僕は花と別れたわけだし。


「ん〜わたしはそんなつもりはないんだよ?だけど言葉に表すとするなら、今の気持ちの在り方だと思うんだよね」


「在り方?」


「うん。ついこの間、翔くんと初めてキスをしたでしょ」


「うん。そうだね」


「その時に、言葉にして言ってもらえたからとかもあるけど、翔くんならわたしのことをどんな環境であっても幸せにしてくれると思ったんだ。それほど翔くんの顔には覚悟?みたいなものが見えたの。だからわたしは心に余裕ができた。心配しなくてはいけないことが一つ減ったから」


「なるほど……それで言うと凪はまだ安心できてないってことかな?」


「それはないと思うよ?最近までそうだったかもしれないけど、今週に入ってからは少しずつ心に余裕ができ始めてる。というか、昨日一緒にいた翔くんなら気がついてるんじゃないの?」


「まぁ、昨日は一緒にいても不安そうには見えなかっけど……これからも2人のこと、いや、3人のことを幸せにできるように頑張って行くよ」


「うん、そうしてください。というか、今日はわたしの日なんだからわたしのことだけを考えてよ?」


 そう言って、笑顔を向けてくれる美月。


 不覚にもその笑顔を僕は見入ってしまった。

 彼女になった今でも僕は美月に対してドキドキしているのだ。


 心に余裕ができただけと言っていたけど、美月は確実に変わっている。

 それは心配する様な変化ではなく、前よりも確実に可愛くなっているという嬉しい変化である。




 家につき、一緒にご飯を作ろうかと聞いたところ、1人で作ったものを食べて欲しいと言われたので、言われた通り料理は手伝わなかった。


 途中、キッチンの方から悲鳴に似たものが聞こえてきたりしたが、何事もなく美月の1人クッキングは終わる。


 なんだかんだ言って、美月の料理を食べるのはこれが初めてかもしれない――手作りお菓子は食べたことあるけど……。


 美月も一から全て夜ご飯を作ったのはこれが初めてだったらしく、すごく緊張している。

 その緊張が伝わってきて僕も緊張してしまったが、食べたらとても美味しかった。

 料理をするからこそわかるけど、美月はとても努力をしてここまでできるようになったのだろう。


 僕は美月のこうして影で我慢しているところが好きだ。


 だから僕も正面から美月の料理を……美月の結果を褒める。


「とても美味しいよ、美月」


「本当?結構頑張ったんだよね。嬉しいな〜」


 そして、毎回褒められると見せる美月の嬉しそうで、安心した顔も好きだ――見てると、僕も嬉しくなり安心する。



 美月は凪とは違って話さなくてもわかるなんてことはない。

 でも、それでいいと僕は思っている。

 僕は美月に対してずっとドキドキしていたい。

 言い方を変えればずっと好きを更新して行きたいのだ。

 そのためには、コミュニケーションは必要不可欠で、今よりももっと美月のことを知っていかなくてはいけない。


 だが、僕にとってそれは少しも苦ではなく、むしろ喜んでやるぐらいのつもりなので、上手くいかないということはないだろう。


「それでさ、翔くん」


「ん?どうした?」


 早速美月とコミュニケーションをとる時間だ。


「わたしより先に美香ちゃんとやっちゃダメだよ?特に明日とか。一層の事今日やっちゃうかな?どうしようかな?」

 と美月は本気の顔で言ってきた。


 その瞬間、コミュニケーションを取ることをやめる。


 結局こうなるのかと思いながら、僕は必死にそうならない様に頑張ると美月に伝えた。




 夜、とても危ない格好で僕のベットに美月が入ってきたが、どうにか言葉だけの愛情表現で美月との時間を過ごすのであった。


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158話読んで頂きありがとうございます!


もう少し書いても良かったのですが、それだと翔斗のことを襲っていたかもしれない、だからやめときました。

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