第150話  6月29日 美香の思い

「本当の兄弟じゃない?」

 とお兄ちゃんはいう。


 静寂を破ったのはやっぱりお兄ちゃんだった。


「そうだ」


 一言で話を終わらせるお父さんに少しだけイラッとした。


 お兄ちゃんが頑張って聞いてくれたんだから、もっと答え方があるでしょうよ!


「でも、ずっと小さい頃から一緒にいたよな?僕にすら記憶にないってことある?」


「まぁ、覚えてないのも仕方ないんじゃないか?あの時の翔斗は一歳だったし。俺もお母さんも子供ができたばかりの頃に色々あったんだ」


「そうなんだ……」


 またもや4人の間に静寂が生まれる。

 私たちが黙るのはまだしも、なんで2人が黙っているのかわからなかった。


「おっと……こんな話をしている時に悪いんだが、俺たちもういかなきゃいけないんだ。大事な仕事全部後回しにして帰って来てるから」


「え?もう?」


「ごめんな。俺は美香のことも娘だと思ってるし、お母さんだって翔斗のことを息子だと思ってる。だからこのことを伝えたとしても離れ離れになるわけじゃないから」


「美香、翔斗ごめんなさいね。隠していたつもりはなかったの」


「大丈夫だよお母さん」


「うん、美香も大丈夫だよ」


「それならよかった。こんな時に2人だけで考えさせて申し訳ないとは思ってる。それでも2人の仲の良さをみてたら大丈夫かなって思ってる私もいるの。もし、万が一にもお互いが一緒にいることを苦痛に思うようになってしまったなら、私たちはどんなことでもするから。気軽に相談ってわけにもいかないけど相談して欲しい。電話でもなんでも」


「いや、僕が美香と一緒にいて苦痛になることはないよ。僕にとって美香は家族であり、大切なたった1人のだから」


「美香も……大丈夫だと思う」


 心にチクリと痛みを感じながら美香はいう。

 美香たちの言葉を聞いて安心したのか、お兄ちゃんに誕生日おめでとうとだけ言って、2人は家から出て行った。




 2人だけのリビング。

 美香とお兄ちゃんの間に会話はない。


「少しだけ、1人で考えたい」

 と美香はお兄ちゃんにいう。


「そうだよな。昼ごはんは俺作るから、食べたい時に出てきな」


 こんな時でもお兄ちゃんは優しくて、お兄ちゃんだった。





 部屋に入り、飛び込むように美香はベットに潜る。

 少し考えたいとお兄ちゃんに言ったのは、決してお兄ちゃんと気まずいからとかそんなことではない。


 叶うことがないと思っていた美香の夢が叶うものになったしまったことに美香は動揺していた。


 今まではこの気持ちを抑えて生活して来たから……。

 溜まりに溜まった時は、お兄ちゃんが深く眠った時に襲う……いや、これは考えるのをやめよう。


 あれは頭がおかしくなってる第二の美香の仕業なのだ。


 まぁ、だから、素直に喜べない美香がいる。


 美香たちを思ってのことだから文句は言えないけど、もう少しだけ、もう少しだけ早く知りたかった。

 強いていうなら軽井沢の前あたり……。

 せめてあの時だったらと美香は思う。


 気持ちを抑え込むことに慣れた時に言われてもそれはそれで困るのだ。


 なら、このままの関係でいるのか……。


 否、否、否。


 それだけはありえない!


 だって蓋をしたはずの気持ちがもう溢れ出て来ているから。

 溢れてきている?元々溢れ出てはいたか。

 ならこの言い方は適切ではない――兄妹ではないと言われた瞬間から美香の気持ちを抑える蓋は元々なかったかのように外れたのだ。


 既に、戸惑いはない。

 戸惑いなんてなかったのかもしれない。


 喧嘩になり、謝られたけど、こっちの怒りは収まらずどこに怒りをぶつけていいのかわからないのと一緒で、美香は抑えつけていた今までをどこにぶつければいいのかわからなかっただけ。


 最初から、兄妹じゃないとわかった時から美香の答えは一つ。


 お兄ちゃんを美香のものにする。


 もちろん、凪ちゃんや美月ちゃんから奪うとかそんなことではない。

 ゆっくりゆっくり進んでいる2人をサッと追い越して、美香はお兄ちゃんの一番になりたい。

 それぐらいしないとこの気持ちは収まらない。


 それならまず――と美香は作戦を練り始めた。


___________________________________________150話読んで頂きありがとうございます!


美香の言葉って説得力ありますよね。

怖くて魅力的な妹だ。あ、義理の妹だ。


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