夜光視点

第147話  6月27日 翔斗の誕生日(美月)


「お待たせ、」

 美月早いね、と翔くんがわたしの元にやってきた。


「翔くんより一本早く出たからね」

 と私は笑顔で答える。



 昨日無事に、みんなで翔くんの誕生日をお祝いすることができた。

 今日は個人でお祝いする日、1日目――その1日目が私となっていた。




「じゃー行こう!!」

 ほら早く、と翔くんの腕に自分の腕を絡みながら引っ張る私。


 既に行くところは決まっており、スケジュールもバッチリ。

 引っ張られながらも、「今日もかわいいね」と翔くんは言ってくれた。

 翔くんの服装も、私が好きなファッションでとても似合っているしカッコいい。


「ありがとう、翔くんもね」と照れながらいい、私は目的地までを歩いた。






 今日私と翔くんが来たのは、家から少し離れたところにあるショッピングモール。


 家の近くにもショッピングモールはあるのだが、わざわざここを選んだのにはいくつか理由があった。


 早速、一つ目の理由がやってきた。


「まずはここに行こう!」


 そう言って入ったのはワニのマークが特徴的なお店で、靴や洋服など様々な物を取り扱っている。


「見たことはあるな、」

 入ったのは初めてだ、と翔くんは感想を述べる。


 ここで私はお揃いの靴を買いたいと思っている。

 ちょうど先月あたりに、翔くんが靴買おうかなと言っていたのを覚えていたから。


「私からの誕プレとしてお揃いの靴、買おうと思って」

 どうかな?、と恐る恐る私はいう。


「え!靴欲しいと思ってたんだ!」

 やった嬉しいよ!、と翔くんはとても喜んでくれた。


 ホッとする気持ちを抑えつつ、どの形にするか、どの色にするか、色々試着をしながら2人で決めていく。


 本が間接的にも関係してこない翔くんとのデートは何気にこれが初めてな気がした。


 そして、これが翔くんの彼女になると言うことなんだと心から理解して、私はとても嬉しくなる。



 その後、30分も掛け私はお揃いの靴を買い、翔くんにプレゼントした。



 ――――



 お昼ご飯を食べ、今日のメインである映画館へとやってきた。

 これこそがここのショッピングモールを選んだ大きな理由。


 ……そう、ここはカップルシートしかないスクリーンが存在するのだ。



 これを見つけた時は、これだ!!と思った。


 そして、実際入ってみると思った以上にカップルシートだった。


 前以外の全ての方向に仕切りがされており、座席も座るものではなく足を伸ばして寝転がれるようになっている。

 よく見ると仕切りの内側にスピーカーが付いているのか、仕切りのせいで音が聞こえないと言う問題まで事前に解決されている。


 スクリーンの方を見ても他のカップル席が見えないことから配置までも計算されているのだろう。


「な、なんかすごい映画館だね、」

 初めて見た……、と若干引き気味で翔くんがいう。


「いや、だった?」

 今からでもやめれるけど、と私はいう。


「いや、この映画見たかったし大丈夫だよ」

 美月がせっかく取ってくれたんだし、と翔くんは言ってくれた。


 実際、私も少し引いていた。

 だって……これだと映画見ながらイチャイチャしてくださいといっているみたいなもんだったから。

 仕切りの内側にスピーカーが付いているのも、言い方を変えれば他のところに音も漏れませんよと言っているようなもの。


 そんな場所を私が選んだとなれば翔くんとそのようなことをしたいと言っているみたいなもんなのだ。


 とは言え、見ようと翔くんが言ってくれた為予定通りここで映画を見ようと思う。

 そして、計画通りにいくことを願いつつ私はスクリーンに目を向けるのであった。




 映画が始まり少しして、私は翔くんに話しかける。


「改めてお誕生日おめでとう」

 大好き、と耳元で私はいう。


「僕も大好きだよありがとう!」

 靴も嬉しかった、と翔くんは笑って返してくれた。


 すでに私たちは先ほど買ったお揃いの靴を履いている。

 嬉しくて私は翔くんとの距離を短くする。


 翔くんに近づくに連れて、私の気持ちはどんどん大きくなる。

 それは好きだけではない色々な気持ち。


 付き合ってそろそろ2ヶ月になる。

 体育祭やらなんやらであまり彼女らしいことはできなかった。


 だから、どんどん翔くんとしたいことを想像するようになり、そのしたいことを凪ちゃんよりも先に……と考えるようになった。


 それは、想像の中だけでは得られないものがあるからだと私は思う。


 実際に当日というものを迎えてしまうとそんなのはどうでもよかった……今、目の前にいる大好きな人に私は何がしたいのかを気にするようになっていたから。


 翔くんの彼女になってしたいこと――その中でも今一番したいことを私は翔くんにしようと思う。


 翔くんと付き合ったら絶対しようと思って、ずっと、ずっと楽しみにしてきたこと。


「ねーねー翔くん」


 短くした距離をさらに短くして私はささやく。


「ん…………?!?!」


 スクリーンから目を離しこちらに顔を向けた瞬間、翔くんの唇に私の唇を重ねる。


 緊張からなのか私の唇はすごい震えていて、翔くんにも伝わってしまっていることだろう。


 だけど、唇と唇を合わせるだけの行為が私にはとても心地よいもので、心一杯に幸せが溢れた。


 5秒くらいで私は一旦唇を離す。


 翔くんは、まさかこのタイミングで来るとは思っていなかったのか驚いた顔をしている。


「ごめんね、急にやっちゃって」

 したかったの、と私はいう。


 対して翔くんは、首を振り優しく微笑みながら、

「うんん、嬉しかったよ」

 ありがとう、と言ってくれた。


 そんな翔くんを見て、私は自分を抑えることはできなかった。


 寝転がりながら見れるシートを最大限に活かし、翔くんの首に巻き付くような腕を回し、私は2度目を試みる。


 今度は待っているだけではなく、翔くんも少しだけ顔を上げ私を迎えに来てくれた。


 私の2度目は1度目よりも少しだけ熱いものになったのであった。



 ――――


 映画が終わり、家に帰ると途中。


 朝、そして映画を見る前よりも確実に私たちの距離は近づいている。


 早くこの気持ちを凪ちゃんと共有したいなと私は心から思った。


___________________________________________

147話読んで頂きありがとうございます!


最近溜まりに溜まったラノベを消化しているのですが、読むたびに私もこんなふうにうまく物語を書きたいなと思ってしまいます。


ということで応援、コメントお待ちしております。



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