川谷&古巻視点

第136話  5月25日 花との約束


 学校からの帰り道、美香ちゃんの言葉を思い出しながら、家まで歩いて帰っていた。


 学校から家までは歩いて45分以上はかかる。


 いつもならやらないこの帰り方―――だが、今日は進んでこの帰り方を選んでいた。




(…………謝りたいのはあなたが楽になりたいだけじゃん!)


(…………自分から離れていったくせに)


(…………あなたはお兄ちゃんがどれほど悲しんだか知ってる?)


(…………美香は家族として、妹として、お兄ちゃんが大好きな人としてあそこまで落ち込む姿は見ていて辛かった)



 美香ちゃんに言われた言葉が頭の中で反芻する。


 思えば、ここまで私がしてしまったことに対してこんなに言ってくる人はいなかった。


 予想だが、翔斗がこうならないようにしてくれていたんだと思う。

 実際、理由はどうあれ、先程も美香ちゃんのことを止めようとしていたのだし。


 だから、と言うわけではないが私は今まで気がつく事ができなかった。


 私がやってしまったことで傷ついた人が翔斗だけではないことに……。


 普通なら―――普通の人なら、すぐに気がつくことなんだと思う。


 それに気がつかないくらい、とことん私は自分勝手だったのだ。


 自分勝手な自分を無くそうと努力をしているが、結局今も尚、私は自分勝手なのだろう。


 なぜなら、翔斗と友達に戻りたいと本気で思っているのだから。


 そして、あれだけ言われたにも関わらず、私の想いは少しも揺らいではいなかったのだから……。




 ―――――――――




 あれは川谷花とお兄ちゃんが付き合い初めて1か月が経ったくらいのことだったと思う。

 どうしてもお兄ちゃんと付き合う川谷花が許せなかった美香は、直接川谷花に会いにいったことがあったのだ。


 お兄ちゃんを思う気持ちに対しての対抗心やらお兄ちゃんと仲良くしていることへの嫉妬心やらが混ざってしまって、納得がいかなかったのだろう。


 だから美香は単刀直入に言った。


「お兄ちゃんのことを想う気持ちは美香の方が上。だから、お兄ちゃんと付き合うのはやめて」と、そう言った。


 だが、川谷花はそれに首を振り、美香に言ったのだ。


「私、美香ちゃんよりも翔斗のことを想っている自身あるよ。だから、我慢させてしまうかもだけど見ていてほしい」


 そんなの口だけならなんとも言えると思った。

 だから条件をつけることにした。


「だったら、美香の分もお兄ちゃんをずっと好きで居てみてよ。これから先お兄ちゃんよりもいい人が見つかるかもしれないけど、それも全て諦めてお兄ちゃんとずっと居てよ。それなら美香も仕方なく許すよ。その代わり一度でもお兄ちゃんを裏切るようなことをしたら、即別れてそれからは関わらないと約束して」と。


 対する川谷花は「望むところ」と返してきた。


 それから美香は二人の関係について何も言わなくなった。




「と、言うのが美香と川谷花が約束したこと」


 川谷花が美香達のところから立ち去った後、こうなってしまった原因を3人から問い詰められた。


 流石に、元カノに対して妹が怒っていると言う理由だけでは納得してくれなかったのだ。


「また、僕の知らないところで話が進んで……」


「なるほど……確かにそれだと怒っても仕方がないのかな?」


「私ならもっと言っちゃったと思うよ?翔くんが止めたにしろ、約束を破った上に更に破るのは我慢できないもん」


 3人それぞれが美香の話を聞いた感想を述べていく。


 怒ること自体を責められなくてよかったと少しだけ美香は思った。


「でも、また来るみたいなこと言ってたよね?今回はたまたま放課後で人が少なかったけど、そうじゃない時美香ちゃんはまた同じように怒るつもりなの?」


 そう質問してきたのは凪さんだった。


「いや……それはあまりしたくないかもです」


「それなら、そうならないように次はしないとね!」


「そうですね、気をつけます」


 正直言って、人前だから自分の気持ちを抑えられるのかと言われたら抑えられると言えるほど美香は大人ではない。

 美香が周りからなんと思われ、言われようとこの3人が理解をしてくれるのならそれでいい。


 だが、次に話すときが来たとしても、今日のように怒れるかと言われたらそうではないと思った。


 久しぶりに見た川谷花はどうも昔とは違っているように見えたからだ。


 それはお兄ちゃんも気が付いているのだと思う。


 だからこそ、美香がある程度言った後に止めに入ったのだ。



 お兄ちゃんは川谷花とどうなりたいんだろう。

 好きになることも復縁をすることも、ないことは断言できる。

 だけど、友達になら戻ってもいいと思っているのではないだろうか。


 確かに川谷花は美香との約束を破っている。

 その事について、許すつもりもないし、甘くするつもりもない。

 けど、最終的にどのような関係になるのかを決めるのはお兄ちゃんと川谷花であることを美香は忘れないようにしなくてはいけないと思った。



 だけど、我儘を言わせてもらうと、二人がまた仲良くしている姿はどうにも見たくないと思ってしまう美香がいるのであった。


___________________________________________

136話読んで頂きありがとうございます!


更新遅くなり申し訳ありません。

もう少し花の話は続くと思いますのでよろしくお願いします。


いつも応援、コメントありがとうございます!

よかったら小説のフォロー、レビューしていってください!



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る