第135話 5月25日 美香の思い
「話?美香に?美香はあなたと話すことなんて一つもないけど」
「あ……いや、でも」
これは、美香の我慢できる範囲を超えている。
委員会の時はしょうがないと見て見ぬふりをした。
だけど、今は違う。
「謝りたいってなに?」
「それは……あの時、美香ちゃんとした約束のことで」
「別に最初から守れるなんて思ってないからいい」
「それでも……」
「あ〜もう、うるさい!謝りたいのってただあなたが楽になりたいだけじゃん。そんなことに美香を利用しようとしないで。それに、どんなに謝られても美香は許す気ないから。そんなに反省してるって言うなら今後一切お兄ちゃんや美香たちと関わらないでよ。自分から離れていって癖に今更なんなの本当に!」
これぐらい言えば流石に帰ってくれだろう――美香はそう思った。
だが……
「それは本当にごめんなさい……でも、関わらないことはできない。私は、翔斗とまた仲良かった時のようになりたいと思ってるから」
その言葉を聞いて、美香の中で何かが切れる感覚があった。
どこまでもこの人は自分勝手なのだろう。
そう、美香の中で結論付けられる。
お兄ちゃんが止めに入ろうとしているがそんなことどうでもいい。
教室のドアが開いた音がした――多分2人が美香の声を聞いて出てきたのだろう。
でも、どうでもいい。
今まで我慢してきたことを全てぶち撒けてしまおう――そう思ったのだ。
「もう本当に呆れる……」
「え……」
「あなたはお兄ちゃんがどれほど悲しんだのか知ってるの? どれほど落ち込んだのか知ってるの? どれほど泣いたのか知ってるの? ねぇ……どうなの?当時は大好きだったわけだよ。そんな相手に裏切られたんだよ?」
「そうだね……」
「結局答えを決めるのはお兄ちゃんだけれども、家族として、妹として、お兄ちゃんのことを大好きな人として、あそこまで落ち込んでいるのは見てて辛かった……本当に辛かった。だからこそ、美香は今の幸せそうなお兄ちゃんを守りたいと思う。その輪の中に川谷花という人物は存在しないの。もうあなたが入る隙間なんて存在しないの。だからこれ以上関わろうとするのはやめて」
美香も、とことんわがままであり、お兄ちゃんからしたら余計なお世話なのかもしれない。
だけど、美香だって辛かったのだ。
あの時は美香が支えてあげなくてはいけなかったから顔には出さないようにしてたけど、お兄ちゃんの辛いところを見て美香が辛くないわけなくて、夜な夜な隣から聞こえてくる啜り泣く声にとても悔しい思いと、やっぱり川谷花なんかにお兄ちゃんを任せなければ良かったと後悔したのだ。
「美香、もうそれぐらいにしときな」
肩で息をするぐらい呼吸を荒げている美香に対して、お兄ちゃんが背中をさすってくれる。
それでも、目の前にいる川谷花が帰ろうとしないから、美香はやめるつもりがない。
そう思っていると、
「その通りだと思います。それもこれも全部私がいけないのはわかっています。今日はもうこれ以上いない方がいいと思うし帰ります。でも、一つだけ……あの時の約束を守れなかったこと、美香ちゃんの大事な人であり、家族である翔斗のことを悲しませてしまったこと本当に申し訳ないと思っています。ごめんなさい」
そう言って、深々と3秒ほど頭を下げた川谷花は、その後、何も言わずに逆の方向へと歩いていった。
その背中を見ながら、美香は認めざる負えないことがあった。
それは……川谷花が本気で変わろうとしているということだった。
少なからず、美香が知っている川谷花はあんな風に謝ることなんてできなかったのだ。
だが、気に食わないし、許す気なんて起きない。自分勝手と言うのは何一つ変わっていないのだから……。
「すぅっ…………はぁ〜」
深呼吸をして自分の気持ちを落ち着ける。
ずっと溜まっていたことが言えて少しだけ心が楽になった気がする。
誰かにあそこまで言うのは、いくらお兄ちゃんに酷いことをした人であっても心に来るものがあった。
でも、これっぽっちも後悔はしていない。
お兄ちゃんが悲しんでいたことは本当だし、美香だって辛かったのは本当だったから。
少しでも、美香の気持ちが、あの人に伝わってくれてればいいなと思った。
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135話読んで頂きありがとうございます!
花の前に立ち塞がる壁がどんどん大きくなっていく。頑張ってくれ、、、
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