古巻視点

第134話  5月25日 花は踏み抜く


 5時間目が始まった時、担任の先生がくじ引きを持って入ってきた。


 なんだろうと思っていると、体育祭の実行委員を決めるためのクジだそうだ。


 さらに先生は言う。


「今年から全クラス、くじ引きになったのよね」


 その言葉を聞いて美香は確信した。



 ―――お兄ちゃんは絶対当たりを引くだろ、と。






 案の定、体育祭実行員が行われるクラスへ行くと少し経ってからお兄ちゃんが部屋に入ってきた。


 ちなみに、こうして美香が実行員になれているのは、

 当たりを引いた子とクジを交換したからである。


 と言うか、美香のお兄ちゃんへの愛が凄すぎる!!


 自分の確信が本当に確信であったことと単純に一緒になれたことが嬉しくて、すぐさま美香はお兄ちゃんのところに駆け寄った。


「あれ?お兄ちゃんも体育祭実行委員だったんだ!!やったー!一緒だ!」


 そう言って人目も気にせず抱きつくと、お兄ちゃんの後ろである人物が立っていることに気がついた。


 ……そう言えば、あの人もくじの運は悪かったな。


 なんてことを思っていると、


「お、おい、美香ここ学校だぞ。やめてくれ」


「なら、家ならいいってこと?美香は妹だよ?」


「そんな訳ないだろ。とりあえず自分の席に戻れ!」


「はーい」


 美香は仕方なく、お兄ちゃんの言うことを聞き自分の席に戻る。


 その際一瞬だけ後ろに立っている、お兄ちゃんを散々傷つけた人物を見る―――すると、その人物はとても気まずそうに俯いたのであった。




 お兄ちゃんからは話を聞いている―――凪さんと美月さんを交えて四人で話したことを……。


 お兄ちゃんが出した答えもしっかり聞いた。



 だから、美香があの人に何も言うことはない。




 いや、ないだろう……お兄ちゃんとの距離をこれ以上縮めようとしなければ。


 ―――――――――


 まさか実行委員に美香がいるとは。


 入った瞬間、後ろ姿ですぐにわかった。

 そして、不味いことになったなと僕は心の中で思う。



 なぜなら、美香だけは未だに花のことをよく思っていないからだ。


 別に僕と別れてからとかではない。

 そもそも小さい頃から、美香は花のことが好きではなかった。


 あの時は僕が花を好きであったがため、衝突してこなかっただけで、付き合い始めた当初は毎日のように「なんで美香じゃないの〜なんであの人なの〜」と言っていたぐらいだった。


 ……でもいつから言わなくなったんだっけ?確か気がついた時には花のことについて美香は言わなくなっていた。


 花が浮気をしていたと美香が知った時は、僕が落ち込んでいたこともあったが、花の家に行こうとする美香を止めるのが大変だった。


 その時美香が言っていたのは、「あの人は嘘ついた。絶対に許さない」だった。


 どう言う意味だったのだろうか……今となっては知る必要もないので考えないようにしている。




 話が脱線したが、美香と花の鉢合わせを避けてきた僕はこの状況は少し肝が冷える思いであった……と考えていた時もあったが、どうやら杞憂に終わったらしい。


 実行委員と言うことを理解してくれているのか、必要な会話をしている分には、美香が怒ったりする様子はない。


 それに対して僕が安堵のため息を吐くと、


「やっぱり美香ちゃんあの時のこと覚えてるよね……」


 歯切れの悪そうに花が呟いた。


「あの時のこと?」


 僕が首を傾げて尋ねる。


「いや、なんでもない。気にしないで」


 そう言われると逆に気になるのだが……。


 追求するつもりはなかったので、僕は仕方なく花の話を流すことにした。






 その後の委員の活動としては、当日に体育祭実行委員が行う内容とこれから実行委員として集まる日にち、その各日にちの内容だけ伝えられて終わった。


 普通の体育祭と違ってクラス合同の種目がないため、クラス全員で何かを練習するということはない。


 だからか、実行委員と言っても実際仕事があるのは当日のスケジュールがスムーズに進むために必要なことだけをする簡単なものであった。





 何事もなく委員会が終わり、僕は美香と一緒に教室で待ってくれている二人の元へ向かっていた。


 途中、美香が待っている二人を置いてデートでも行こうとかふざけて言ってきたので軽く頭にチョップをお見舞い。




 そして、二人が待っている教室まであと少しの時だった。


 美香は僕よりも少し前を歩き、いち早く二人のところに向かおうとしている。


 多分だが、美香だけお兄ちゃんと一緒!とか自慢したいのだろう。


 それを言われた時、二人はどのような反応をするのかと想像していると後ろから声がかけられた。



「美香ちゃん、謝りたいことがあるの……」



 声を聞いた瞬間、すぐさま僕は振り向く。


 声の主は花であった。


 花であることを確認した僕は逆の方……美香がいる方に顔を向けた。


 花に「話はまた今度にしてくれ」とお願いする暇もないからである。


 一刻も早く、前にいる美香を止めなくていけない。


 なぜなら、美香は怒ると歯止めが効かなくなる。

 滅多に怒ることのない美香だからこそ、怒る時はとことん怒るのだ。


 これが俗に言う―――怒らない人程怒らせてはいけない―――である。


 だが、すぐさま美香を止めることなんて、この距離でできるわけなく……


「はぁ?」


 一言、いつもの美香からは想像できないような声を出しながら、数年ぶりに見る激昂した美香がゆっくりとこちらを振り向いたのであった。



 …………これが最近よく聞く、地雷を踏み抜くと言うことなのだろう。


 いやいや、そんなこと言っている余裕ないから!!

 なんで、回避しようとしていることが起きるかな〜


 僕は、頭の中でも実際の行動でも頭を抱えるのであった。


___________________________________________

134話読んで頂きありがとうございます!


美香もはぁ?とか言うことあるんですね。

やっぱりメスと言う生き物は怒らせてはいけないのかも知れません。

肝に銘じて生きなければ、、


応援、コメント、いつもありがとうございます!

よかったら、小説のフォロー、レビューしていってください!

よろしくお願いします!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る