古巻&川谷視点
第133話 5月25日 お互いの変化
「では、5分ほど時間とりますので、出たい種目を考えてください」
僕の一言でクラスのみんなが相談を始める。
この高校の体育祭は、一般的な高校で行われている体育祭とは少し違う。
言い換えるならスポーツ大会というところだろうか。
高校3年間の体育で行うスポーツを種目として取り入れ、必ず一人一回いずれかのスポーツに出なくてはならない。
選べるスポーツは、水泳・テニス・バドミントン・剣道・柔道・バレーボール・バスケ・陸上(100m.200m.400m.800m.1500m)となっていた。
ちなみに一年生の時は、正樹に誘われたのでバスケに出ている。
今年はやっぱりかっこいいところを見せたいし柔道にしようと思う。
「なんか、ごめんね……」
そんなことを考えていると、僕だけにしか聞こえない声で隣にいる花が呟いた。
「謝ることでは無いでしょ。お互い運が悪かっただけなんだし」
「そうだよね……」
少し冷たくしすぎてしまっただろうか。
この間も思ったが、花は変わろうとしている。
目に見える形として現れていることから、僕が思っている以上に変わろうとしているのかもしれない。
その証拠として、前までだったらこんな素直に謝ってきたりはしないだろう。
そもそもこのように変わろうとしている理由は僕にある……そう思ったら、先程の返答に対して罪悪感というものを僕は感じた。
そして、その罪悪感は僕にとって許容できるものではなかった。
だから…………
「何にするか決めてるの?」
僕は前を向きながらポツリとつぶやいた。
別に凪や美月に聞かれたくなかったわけではない。
心が小さいと感じるが、これが今僕にできる最大限の話のかけた方だったのだ。
僕の質問に対して、花はびっくりしたのか一度こちらに顔を向け、すぐさま元の位置に戻した。
「……私は剣道かな。昔からやってたし」
そう答えた花の声は先程よりも嬉しそうな声であった。
これで先程の冷たい態度へのお返しはできただろう……。
「そっか」
「うん」
丁度良いタイミングで伝えていた5分が経ったため、それぞれが出たい種目について聞き始める。
花が変わろうとしていることは正直良いことだと思う。
だが、変わろうと努力しているというだけで、あの時のことを綺麗さっぱり忘れられるかと言われたらそうではない。
僕から仲を良くするという意味ではないが、花との関係に対してどうありたいのかをもう一度考えなくては行けないのかもしれない。
そんなことを思いながら、剣道に出場するメンバー欄に川谷花と僕は書くのであった。
――――――
翔斗の方から話しかけてくれた。
あの時から数えて、これで2回目だ。
たったの2回、だけど私にはとても意味のある2回だった。
翔斗と少しの会話をした後、クラス全員がどの種目に出場するのか決めた。
今年で2年目ということもあってか、長引くこともなく授業の終わりと共に終わることができた。
「僕はこの後、委員会があるけど二人はどうする?」
クラスのみんなが帰っていく中、朝露さんと夜光さん、2人と話す翔斗の声が聞こえて来る。
先に委員会を行う場所に向かってもよかったのだが、生憎私にはどこでやるのかわからない。
先程、先生が翔斗だけに場所を伝えて行ってしまったのだ。
話が終わったのか、翔斗がこちらに向かって来る。
2人は帰ろうとしないため、翔斗が終わるのを待つのだろう。
…………私は翔斗のことをあの2人みたいに待ったことはなかったな。また一つ見つかっちゃったな。
自分を変えようと決意を決めた時から、私自身何が足りていないのかを探すことにした。
その探す先を翔斗の恋人である2人にして。
結果、今のように私には足りていないものが多くあった。多く見つかった。
特に、私に足りていなかったのは、相手のことを考えていなかったことだと思う。
言い方が違うか。私は自己中心的だったのだ。
それこそが今のこの状況を引き起こした一番の原因であり要因である。
だからこそ、翔斗のためを思って行動しているあの2人なら、私にないものがよりわかるのではないかと思ったのだ。
そして少しずつだが、私は変われてきているのだろう。
翔斗が話しかけてくれること、それが大きな証拠だと思う。
私がやっていることは、間違いではないのだ。
卒業までに翔斗と友達してまたやり直す。
この目標に向かって、私はさらに頑張ろうと決めた。
そして、折角同じ委員会になれたのだから少しでも、変わろうとしているところを見せられたらと思う。
頑張ろう!
…………と思っていたのだが、
「あれ?お兄ちゃんも体育祭実行委員だったんだ!!やったー!一緒だ!」
まさか、美香ちゃんも同じ委員会とは……。
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