第128話 5月9日 少しの気付き
付き合ってから始めてとなるデートを美月とする―――という約束の元、ようやく美月の怒りは治った。
約束をした瞬間には笑顔になり、凪に自慢をしていたことからそこまで怒ってはいなかったのだと思う。
だとしても、人の口から飲み物をかけられると言うのは決して良い思いはしないだろう。
だから、どんなお願いであれ、聞くべきつもりでいた。
―――――――――
お昼になった。
朝の時間が嘘だったかのように誰も僕たちに絡んでくることはなかった。
高橋くんに関しては、1時間目の授業から体調不良で早退をしている。
なんとなく申し訳ないことをしたかなと思いつつも、美月を譲る気もない僕からしたら、このことに関しては気にしないという結論に至った。
結果的には自爆という形で高橋くんの本性?があらわになったわけだけど、高橋くん自身これからどう周りと接していくのか。高橋くんの周りにいた人たちは今後高橋くんとどう接していくのか。少し気になるところだった。
気になる理由としては、何か一つのことが原因で崩れる関係があったことを僕は知っているから。
知っているというか、体験したから。
その時僕が出した答えというのは、一切関わりを持たないということ。
この答えが間違っているとは思っていないし、後悔なんてするつもりもないけど、僕に出せる答えがそれしかなかったというのも実のところあると思っている。だから、他の人が出す答えが僕は気になった。
それに、今日僕はその相手である花に助けられた。
いや、僕と凪、それに美月が助けられたのだ。
普通なら感謝すれば良いだけ。また他人に戻ればいいのだが、僕自身があの時、2度目の別れ際、花にかけた言葉によりそれではダメなのではないかと思わされていた。
僕はあの時、花に向けて「友達として話せるようになれたらいいな」と言った。
それに対して花は、「反省していることを示して友達に戻りたい」と言っていたのだ。
多分だけど花は花であの時、何かしらの反省をして自分を変えようとしていたのではないか。
そんなことが頭をよぎった。
僕が、友達として話せるようになれればいいなと言ったから、花はそれを目指して頑張っている。
そうではないのかもしれないけど、少なからず頑張る理由には入っているだろう。
前までの僕ならそのことにさえ気が付かなかったと思う、けど今ならわかる。
前までの花なら絶対あのタイミングで声は出さない。
周りの空気を読んで、黙ることを選ぶはずなのだ。
僕と花が付き合っている時に学校で話していなかったのも花が周りの目を気にしていたからというのがあった。
だからこそ、あそこで割って入ってきた花は明らかに前とは変わっているのだ。
僕の発言で花が変わろうと頑張っているのであれば、花がどう思っていても少なからず僕にも責任はあると思う。
だから、一切の無関係ではなく、花の変化に気がついたのであればギブアンドテイクとして僕も何かしらの変化を起こさなくてはいけないと思った。
「翔斗くんお昼食べよー」
そんなことを思っていると、一人だけ席が離れている凪がこちらにきた。
いつもなら二つ返事でいいよと言うのだが、今日は最初にすることがある。
「ごめん凪、少しだけ待ってて」
そう言って僕は席を立ち上がり、花のところに向かう。
何をするわけでもなく一人でご飯を食べようとしている花を見て、再度驚きながらも僕は花の前まで移動をした。
急に目の前に人が来たのだから、驚くのも当然だろう。びっくりした表情で顔を上げた花は、僕の顔をみて少しだけ嬉しいそうな、そして少しだけ気まずそうな顔をする。
だが、今の僕たちの関係に、相手がどう思っているかと言う気遣いはいらないと思う。
だから―――
「さっきはありがとう。助かったよ」
僕はそれだけ言って自分の席に戻ることにした。
その際、後ろからは小さく「うんっ」と言う嬉しいそうな声が聞こえて来た気がしたがそれも今は気にする必要はないだろう。
たったこれだけの事だけれども、最初から友達に戻ろうとしている僕たちにはこのぐらいがちょうど良いのかもしれない――と、僕は思った。
花がどう思っているのかはわからないけど、いつしか花と友達に戻りたいと思っているのは少なからず本当なのだ。
あの時から花が変わろうと努力をしているのなら、少しずつでもいいから、僕の方からも寄り添ってもいいと思う。
ただし、それは花が変わろうと努力をし続ける間であって、努力するのをやめた時にはまた関わることはなくなるだろう。
そんなことを胸に秘めながら、花のことで腹が立つことがなくなっている自分に少しだけ嬉しく思のだった。
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128話読んで頂きありがとうございます!
これにて3章は最後となります。
次からは4章です。
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