第123話  4月30日 軽井沢旅行 (4)


 2日目

 ――――――――――――


 目が覚めると隣に凪がいた。

 並んでいる2つのベットにそれぞれ寝たはずなのだが……なぜ横にいるのだろうか。


 結局昨日は、なぜかキスを迫る凪を頑張って抑え、どうにかされないで寝ることができた。


 お互い思い合っているのだからしてもいいとは思ったものの、流石に美月に申し訳ないと思ってしまったのだ。


 やはり僕の中にある、2人は平等に接すると言う思いは変わっていないみたいだ。





 僕は昨日凪に告白をしたと思っている。思っているが、よくよく考えてみると、二股宣言してしまったせいもあり付き合い始めたという実感がなかった。


 遅かれ早かれ今日の夜までには美月に対して思いを伝えることになるので、2人には改めて同時に告白をしようと思う。


 そもそも1人ずつだけだと、二股をするという覚悟から逃げているように思えて嫌だった。



 と、思っていると部屋の扉がノックされた。


 大体誰かは予想がつく。

 昨日のうちから「朝迎えにいくね!」と連絡が来ていたから。


 横で寝ている凪を起こさないよう、ゆっくりベットから出て、部屋の出入り口へと向かう。


 開けると、案の定そこには美月がいた。しかも、準備ができた状態で。


「おはよう!翔くん!」


「うん、おはよう美月……それにしても準備早くない?」


 時間を確認するとまだ7時になったばかり。

 8時半から朝ご飯の時間になっているため、今から準備しても間に合うはずだが……。


「何言ってるの?もう私との時間始まってるんだよ??いつまでも凪ちゃんの側にいさせてたまるか!」


 そう言って、美月は僕にハグをしてきた。


 突然の行動に避けることも出来ず、ハグをされてしまったというのもあると思うが、昨日凪に告白した時よりもドキドキしてしまった。


 しかし、美月なのだから仕方がないなと僕は思う。


 だって、僕は美月のそういう突発的な愛情表現がすきだから。


 だが、いつもドキドキさせられてばかりでは僕自身何も成長できていない。

 たまには美月にもドキドキしてもらおう。


 僕はハグを仕返す訳ではなく、優しく綺麗に整った髪を崩さぬように頭を撫でた。


 一瞬だけ美月の体が跳ねたものの、美月はすぐ応えるかのようにハグに力を入れた。


 僕はまたもや答え合わせをすぐ終わらせてしまったようだ。


 外にまで聞こえているのではないかと思うくらい、胸の高鳴りが大きくなっている。

 この大きさこそ、美月を思う気持ちの大きさなのだと僕は思った。


 美月に対しての答えは出た。

 あとは思いを伝えるだけ。

 今日は夜に限定はせず、タイミングを見計らって伝えようと思う。

 あとは、今日も思い切り軽井沢旅行を楽しもうと思う。




「えへへ……幸せ〜」


 思わず声が漏れてしまったのか、胸元から声が聞こえてきた。


 そんな美月を僕はとても可愛いと思った。


 ――――――――――――


 翔くんにハグをしたら、優しく頭を撫でてくれた。

 それだけでも嬉しいのに、私の髪の毛を崩さないように気を遣ってくれていることがさらに嬉しかった。


 私は翔くんのことが本当に大好き!


 今日は全力で翔くんに私の気持ちを伝えたいと思う。


 その気持ちを込めて、私はハグの力を強めた。





「朝から何やってるんですか…………」


 当然部屋の中から声がして、私と翔くんの距離は遠ざかる。


 誰かなんてすぐにわかるけど、もう少しだけ翔くんとハグがしたかったなと思い残念な気持ちになる。


 とりあえず文句を言おうと、声の方へと顔を向けるとそこには洋服がはだけている凪ちゃんが立っていた。


 まさしくカップルが朝から一仕事しましたと言う感じの格好。


 思わず翔くんのことを見るも、翔くんもびっくりしていたことから、凪ちゃんの単独行動だとはすぐにわかった。


 いつもの通りの流れ、いつも通りの攻撃。

 しかし、いつもより凪ちゃんの顔が幸せそうに見えた。


「翔くんの顔見たらすぐに凪ちゃん単独ってわかるからね?早く着替えてきたらー」


 私はそれだけ言って、朝ごはんまでの時間を美香ちゃんと過ごそうと思い部屋へと戻る。






 部屋では………………美香ちゃんが明日の作戦?か何かを必死に考えていて、結局ご飯までの間、1人でテレビを見る羽目となった。






 ――――――




「やだ……」


「え……」


 私からの思わぬ一言で翔くんの表情が固まった。

 それでも私は口を閉じない。


「どうして……やっぱり凪ちゃんの方がいいの?」


「いや……そんなことは思ってない」


「でも、そう言うことじゃん。結局私は凪ちゃんに勝てなかったんだ」


 ついに翔くんは下を見てしまった。

 だけど、この言葉に嘘はない。


 私が思っていることをありのままに伝えただけなのだ。


 ――――――


 ………………遡ること8時間前。




 私と翔くんは軽井沢にある白糸の滝へと来ていた。


 2人でウォーキングコースを腕を絡めながら歩く。


 高さが3メートル、横がカーブを描きながら70メートル続く滝はとても素晴らしいものだった。


 翔くんも必死になって滝をスマホに収めようと色々な角度で写真を撮っていた。


 楽しんでくれているようで、私も自然と笑顔になった。




 お昼を挟んだあと、私たちがやってきたのは同じく軽井沢にある、セゾン現代美術館という場所。


 緑の中の美術館をコンセプトにしているらしく、自然の中にぽつんと芸術作品が展示されていた。


 時には、気付かず通り過ぎてしまうという事も何度かあり、色々な意味で楽しめる時間となった。


 その頃には、空はオレンジ色に染まりもうすぐ夜になろうとしている。


 そろそろ旅館に戻らなくてはいけない時間なのだが、

 私にはもう1箇所行きたい場所があった。


 それは、午前中にも行った白糸の滝。理由は暗くなるとプロジェクションマッピングをしていて、明るい時とはまた違った景色が楽しめるから。


 夜ご飯までの時間には間に合うとわかっているので、翔くんも嫌な顔せず了承してくれた。



 白糸の滝のプロジェクションマッピングはとても綺麗なもので、先程来た時よりも翔くんは写真を撮っていた。


 その帰り、手を繋ぎ4度目となる道を2人で歩いていると、先程から黙っていた翔くんが話しかけてきた。


「こんなタイミングでごめん。歩きながら僕の話を聞いてほしい」


 それだけで、翔くんが何を言おうとしているのかわかった気がした。


 先程まで静かだったはずの胸の鼓動が高鳴り始める。


 ついに、翔くんから答えを聞く時が来たのだ。


「うん……」


 私的には、ちゃんと空気を作った上で告白されるのも憧れるが、こうやって何気ない時に告白されるのもロマンチックでいいなと思う。


 だから、私は歩くのをやめず、そのまま翔くんの話を聞こうと思った。


「ここ最近僕はずっと美月、凪、そして僕の関係性について考えてきた。その答えとして僕自身が後悔しない答えを出そうというのが答えになったんだ」


 翔くんに何があったのかはわからない。

 だけど、あの本屋さんの後からしっかりと向き合い、考え、自分の意見を貫くと答えを出した。


 前の翔くんだったら考えられないことで、この短時間で翔くんは成長したのだと感じた。


 そして、そんな翔くんのことを心から私はかっこいいと思った。


「僕が後悔しない答え……それは僕にとっては一つしかなくて、2人のうちどちらかを選ぶというのは考えられない」


 翔くんの言っていることを私はすぐに理解でき、心から嬉しさと感動が湧き出るのを感じた。


 これまで頑張ってきたことがやっと報われるのだ。


 嬉しくないわけがない。


「僕は美月のことが好きだ。そして、凪のことも好き。美月がどんな答えを出してもしょうがないとおもっている。こんな言い方で申し訳ない。僕と二股を前提にお付き合いしてください」


 普通だったらあり得ない告白だと思う。


 だって二股してくださいだよ?一般の人が聞いたら何言ってるので終わること。


 だけど、私は少しも嫌だと思わなかった。


 相手が凪ちゃんだから?

 どちらか選ぶとなったら負けると思うから?


 ……いや違う。


 翔くんだったら、二股だったとしても私のことをしっかりと愛してくれると信じてるから。


 現に、これまでどちらかを疎かにされたことなんて一度もなくって、必ず翔くんは私たち2人を平等に扱ってくれた。


 だから、信じる。二股だったとしても私は翔くんと付き合う道を選ぶのだ。


 それに、私たち自信がこの二股をいいと言うのであれば誰も文句なんて言えるはずがないのだ。


「私も翔くんのこと好き!大好き!二股するのはダメだと思わないし、前からそうなるだろうなって思ったからいいもん。そのかわり、何があっても私のこと幸せにしてね!絶対、約束!」


「うん、約束する。幸せになるための努力は惜しまない。絶対2人を幸せにするよ。でも、また改めて2人一緒にいる時に話をさせてほしい。1人ずつだと、僕自身納得がいかないから」


 その一言で私には疑問が生まれた。


「また改めて2人一緒にいる時に話を……」


 今、翔くんはこう言ったのだ。


 と言うことは、凪ちゃんには昨日のうちに好きと、二股をしたいと伝えたと言うことだ。


 と、なると………………



 ――――――


 …………………そして、現在に至る。





「やだ……」


「え……」


 私からの思わぬ一言で翔くんの表情が固まった。

 それでも私は口を閉じることはしない。


「どうして……やっぱり凪ちゃんの方がいいの?」


「いや……そんなことは思ってない」


「でも、そう言うことじゃん。結局私は凪ちゃんに勝てなかったんだ」


 ついに翔くんは下を見てしまった。

 だけど、この言葉に嘘はない。


 私が思っていることをありのままに伝えただけなのだ。


 違うとするならならば、そこまで怒ってはいないと言うことだけ。


 私よりも凪ちゃんの方が先に告白されていることに、悔しさと嫉妬があるだけ。


「嘘だよ!!私の方が後なのは気に食わないけど、二股が嫌なわけではないから。あ〜でも、順番後回しにされたんだし、これぐらいなら許してくれるよね!」


 え?っと言って翔くんが私の方を見る。


 そのタイミングで私は翔くんのほっぺに唇をつけた。


 男子なのにとても柔らかいほっぺだと思った。


 口にしようかとも思ったけど、それはまた今度にする!


 翔くんは私といるとドキドキすると言ってくれた。

 惚れ続けていると言ってくれた。

 …………凪ちゃんの方を先にしたことはあれだけど。

 翔くんが私のそう言うところを好きと言ってくれるなら、私はとことん翔くんをドキドキさせてあげたいと思う。


 好きだと言ってくれたから、両思いになったから、付きあったからでは満足なんかできない。


 これはその第一歩。


「ふふ、今回はほっぺで許してあげる!!今度はそこにするからね♡」


 そう言って、私は翔くんの唇を指を指す。


 目標は凪ちゃんのよりも先に!

 絶対に達成してやる!!!


 そして、これからも翔くんのことをドキドキさせ続けてみせる!


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