第124話 5月1日 軽井沢旅行 (5)
3日目
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朝起きると横に美月が寝ている。
どうして、こうも2人は僕のベットに潜り込んでくるのだろうか。
しかも、美月は僕の寝巻きの裾を少しだけ握る形で寝ている。
あざといというか抜かりがないと言うか……流石美月だなと僕は思った。
改めて、今日の夜にでも2人と話をしようと考えていたのたが、3日目の今日は美香と1日過ごすことになっていたらしく、話しをするのは明日以降になりそうだった。
美香と2人でお出かけか……なんだかんだで久しぶりな気がする。
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ついにこの日がやってきた。
お兄ちゃんとデートの日!!
どうせお兄ちゃんのことだから、お出かけぐらいにしか思っていないんだろけど、別に美香はそれでいいと思ってる。
この間の美月さんとの話で気づいたことがある。
美香はお兄ちゃんのことを誰よりも好きだと思っているけど、恋人になりたいとは思っていないこと。
実際、お兄ちゃんの近くにいたら何かしらしたくはなるだろうけど――凪さんと美月さんとは少しばかり好きが違うのかなって思った。
多分私の中には家族としてお兄ちゃんを好きな気持ちと、異性としてお兄ちゃんを好きな気持ちが混ぜっているんだと思う。
だからか、美香が望むお兄ちゃんとの形というのは付き合うではなく、ずっと一緒にいること。
両思いを目指すのではなく、お兄ちゃんは美香を家族として、美香はお兄ちゃんを家族、異性として、好きでいればいいのだと思う。
これが、この旅行に来て美香がたどり着いた答えだった。
とりあえず、もう当分ないであろう2人の時間を今日は楽しもうと思う!
最初に美香たちがやって来たのは、軽井沢レイクガーデンと言う場所。
湖を中心に8つのガーデンエリアが広がる英国風のナチュラルガーデン。
たまには兄妹2人でのんびりお花を見るのもいいんじゃないかなって思ってここにしたんだけど、思ってた以上に綺麗な場所で驚いた。
「花を見るところって、どんなところだろうって思ってたけど、見所あって面白いな!」
2人で歩きながら、時には止まり、お花を見ている。
お兄ちゃんもこの時間を楽しんでくれているみたいでよかった。
「うん!じっくり見ることなんてないから、新鮮だよね」
側から見たら美香たちってどんな風に見えてるのだろう。
カップルだと思われてるのかな??
それとも、仲のいい兄妹だと思われてるのかな?
見方によって人が感じ取る美香たちの関係なんて、色んな形に変化していくものだと美香は思う。
例えば、今のこの状況。
美香はしゃがみ込んでお花を見ているのに対して、多分足が疲れたのだろうお兄ちゃんは立ち上がってお花を見ている。
この状況を美香が見たのであれば、妹が見ているお花をお兄ちゃんが一緒に見ているという構図だと思い、兄妹で仲がいいんだなって感じると思う。
しかし、この状態から美香が立ち上がり、お兄ちゃんの腕に美香の腕を絡めると――美香だったらカップルとして仲がいいんだなと思う。
「どうした?急に腕なんか絡めたりして」
焦ることもなく、普通に聞いてくるお兄ちゃん。
美香のことを全く意識していないのだとわかる。
少しばかり思うところはあるけど、少なくともお兄ちゃんにもっと意識して欲しいとか、もっと美香のことを見てほしいとか思うことはなく、妹でも女子なんだから照れるぐらいしなよと言う意見しか出てこなかった。
「いいじゃん!前までこうやって一緒に歩いてたんだからさ」
「歩いてたって……美香が小学6年生ぐらいの頃だろ」
「ふふ、まーね〜!」
そうは言っていても、無理に引き剥がそうとしないお兄ちゃんはやっぱり優しいと思う。
こう言うところが凪さんや美月さんから良く思われているところの一つなんだろうなと思った。
「お兄ちゃん、かっこよくなったね!!」
「なんだよそれ……恥ずかしいからやめてくれ」
「うわぁ……妹に言われて照れてるーー」
「照れてないわ!ほら次行くよ!!」
多分、この褒められだけど照れ隠しだけで終わるお兄ちゃんは美香にしか見られない姿なんだと思う。
凪さんや美月さんだと絶対お兄ちゃんは褒め返すから。
凪さんや美月さんが知らない姿を美香が知っている。
それだけで美香は幸せだし、今のお兄ちゃんとの関係が美香には合っているのだと思えるのだった。
次にやってきたのは、ハルニレテラスという場所。
レストランやカフェ、生活雑貨など15のショップが揃う小さな街と言われている複合施設。
恋愛経験がない美香なりに考えた、2人でゆっくりしながらデートができるスポット――としてはここが最適だと思った。
ご飯を食べたり、家で使えそうな便利グッズを買ったり、旅行でなくてもできることだけど、あえて美香はお兄ちゃんと旅行先でこう言うことがしてみたかった。
あとは……久しぶりにゆったり、まったりしながらお兄ちゃんと話したい。
お腹も空いたことだし、2人でカフェに入り一息つくことにした。
席はテラス席で、テラスからは小川が見える。
自然と一体化しているカフェだけあって、緑豊かな森林がカーテン代わりとなり日差しを遮ってくれていた。
時々吹く風なんかは、とても涼しく快適な時間になりそうだ。
「2人に話はできたの??」
目的の一つであるお兄ちゃんとの会話。
ここのカフェでするのがいいだろうと美香は思う。
「まぁ、そうだね。正直なところ男としてはみっともないと思ってしまうことなんだけど、2人を選ぶと言う結果を選ばさせてもらったよ」
「でも、後悔はしてないんでしょ?」
「まーね。後悔しない答えを選んだんだから後悔なんてするわけないよ」
「ならいいじゃん!美香は応援するよ!」
これは素直な気持ち。
2人の頑張りはずっと見てきて、2人のお兄ちゃんを思う気持ちは本物。
応援しない理由はない。
「ここまで来れたのは決してお兄ちゃんの力だけではないと思ってる。美香、ありがとう。色々話を聞いてくれて」
「如何致しまして」
それからは静かな時間が流れる。
周りの人の話し声や、鳥の鳴き声。
無言でいることが苦痛に感じることもなく、2人で小川を眺める。
これがカップルと言うものなのかな?
そんなことを美香は思った。
お兄ちゃんとは決して純粋な恋人として見える景色を見ることはできない。
凪さんや美月さんのように、単純な好きだけで丸く収まるような関係ではないからだ。
それでも、このような時間がこれからも、少しでも、美香にあるのだとしたら、凪さんや美月さんのことを羨ましいと思うことはもうないだろうなと思った。
だって、こんなにもカッコよくて優しくて大好きなお兄ちゃんが、美香の横で美香と同じ景色を見ているのだから、これ以上なんて望むだけもったいないのだ。
「よかった――」
ボソッとお兄ちゃんが呟いた。
顔は先程と変わらず小川を眺めたまま。
「何が?」
だから、美香も眺めたまま聞き返す。
「ん?いや……美香がちゃんと答えにたどり着けてよかったと思ったんだよ」
「え?」
それは、あまりにも予想外の発言でたまらず美香はお兄ちゃんのことを見てしまう。
流石は兄妹なのだろう。
こんな時、顔を見るだけで大体は何を考えているのかわかってしまう。
本当にいいことであり、悪いことだと思う。
「いつから……」
核心を突く質問だと、我ながら思ってしまった。
「いつからと言うか、別にお兄ちゃん最初から凪と美月の関係だけで悩んでいるわけではなかったぞ?」
「え?!」
どう言うこと??最初から美香の気持ちに気が付いてたってことなの??
「そんな驚かなくてもいいじゃんかよ」
「いや……でも、」
顔が熱くなっていくのがわかった。
だって、お兄ちゃんも考えていたってことは、お兄ちゃんも……お兄ちゃんも美香のことを……
「え、そりゃー考えるでしょ。そろそろ妹離れしないといけないって。美香も最近悩んでたり、旅行行かないって言ったのも全部兄離れをするためでしょ?だから、これをラストになるべく美香を頼らないようにしないとなって思ってたんだよね。そして今日の美香の顔を見たら何かスッキリした顔をしてたからさ、美香も答えが見つかったんだなって思って!!」
チッ……
「はぁ〜もうお兄ちゃんのことなんて大っ嫌いだよ」
「え!?!?なんでよ」
「そんなの自分で考えて!!!ほらもういくよ」
そう言って、美香は席をたった。
そりゃ〜少しだけ腹たったよ。
期待させて落とされたんだもん。
でも、こう言う鈍臭いところもお兄ちゃんの良いところであり、美香が好きな部分でもある。
カフェを後にすると、シュンとなっているお兄ちゃんから話しかけられる。
「なんかごめんな……」
「…………謝られると余計むかつく!!もういいから、怒ってないから、ほらいくよ」
美香はまた、お兄ちゃんの腕を掴んだ。
でも、今回はさっきとは少し違う。
「いや、でも鈍臭いお兄ちゃんには罰をあげなきゃ!えいっ!」
チュッ―――
美香は美香の唇をお兄ちゃんのほっぺにくっつけた。
昔はよくやっていたことで、中学一年生になってからやらなくなったこと。
夜までなんか待てないよね。
だって側から見たら美香とお兄ちゃんはカップルに見えるんだからさ!!
「なっ……何して……」
「何してって罰だって言ってるじゃん!ほら、まだまだ可愛い可愛い妹である美香とのデートは続くよ!」
お兄ちゃんの腕を引っ張り、恥ずかしさを紛らわせながら、次なるお店へと美香たちは向かうのであった。
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次が旅行編ラストとなります。
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