第121話  4月29日 軽井沢旅行 (2)


 1日目 

 ――――――――――――

 翔斗&凪side


「じゃー夜ごはんの時間に」


「はーい」


 凪の挨拶に美月が答え、僕と凪、美月と美香で別々の行動を開始した。


 先程の電車移動の際に3人で話し合ったらしく、この現状を僕がどうこう言うつもりもなかった。


 なかったというより、言う通りにしてねという雰囲気が2人から、美香は若干だったが伝わってきたので黙って従うことにした。


 …………女子って怖い。



「なんか久しぶりですね、2人きりって」


 現在、どこに向かっているのかも分からず凪の横を歩いている。


「そうだね、引っ越ししてからは初めてじゃないか?」


「たしかにそうですね。美月ちゃんと一緒にいましたし、しょうがないと言えばしょうがないんでしょうけど」


「まーねー。てか、今からどこに向かうの?」


 やっぱり行き先だけは聞いておこうと思った。

 何も知らない旅もいいけど、流石に知らなすぎるのは怖いから。


「そうですね……今回行こうとしているのは2箇所で1箇所は少し遠いところにあります。でも、結構有名で行ったら翔斗くんもわかると思いますよ」


 …………どうしても、行く場所の名前は教えてくれないらしい。


 まぁ、それでもせっかくの凪との時間、凪と一緒に過ごせるのならそれでいいやと僕は思った。


 タイミングもいいからね。






 僕はこの旅で答えを出そうと思っている。僕自身が後悔しないための答えを。


「じゃー凪のエスコートを楽しむことにするよ!」


 そう言って、僕は凪の手を握る。

 もちろん恋人がやる手の繋ぎ方。

 エスコートされてばかりではダメだとわかっているから。


 隣で凪が少しだけビクッとなっていたが、すぐに握り返してくれた。しかも、腕を絡める形で……。


 こんなことは初めてだ。凪と腕を絡め、手を繋ぎながら歩くなんて。

 前に手を繋いで歩いたことはあるけどね。


 だが前みたいにドキドキすることはなく、至近距離とも言えるこの距離感に僕は安らぎをおぼえた。



 それだけで僕は気がつく、答えは既に出ていたのだと。


 この旅行は答えを出しに来たのではなく、その答えの答え合わせをするために来たのだと。


 後悔しないと決めた時点で僕が望む本当の選択は僕にとって最高の答えでなくてはならない。


 そう、だからこそ僕はこの旅行で[優柔不断だから仕方なく出した答え]ではなく、[僕自身が望んだためこの答え]なんだと確認するのだ。


 という事で、すぐに答え合わせもできてしまった僕は思い切りこの後のデートを楽しむことにした。


「はい!楽しみにしてくださいね!!」


 笑いながら言う凪はとても美しかった。




 ――――――――――――


 翔斗くんの方から手を繋いでくれるとは……。


 まさかの出来事で一瞬驚いてしまいましたが、負けていられず、手を握り返し、腕を絡めてあげました!


 この半年ちょっとの期間で、私も成長できている気がします。



 ………………あれ??翔斗くんってまだ悩んでいるんじゃなかったっけ?これってもう答えが出てるってことかな??翔斗くんの方から手を繋いで来たし、これ多分そうだよね??あれれ??あれれれれ?もしかして、私と美月ちゃんで考えたこの作戦は意味のない物だったかもしれないですね……。


 どうしましょう。焦凪です。


 私と手を繋いでくれたってことは、とりあえずどちらも振ると言うのはなくなったという事なのでしょうか。


 名探偵シャーロック凪が頭を働かせます!


 そして答えが出ました!私が翔斗くんから振られることがくなったと言う答えが……。

 なぜなら、こうして翔斗くんの方から手を繋いでくれたから!!!

 ……あれ、これさっきもあったような気がします。


 翔斗くんが答えを出した。それだけで急に胸がドキドキしてきました。


 いつもならしないのに……。


 さらに、運悪く意地を張って腕を絡めてしまったばかりに当分はこの距離で歩かないといけなくなりました……どうか翔斗くんにこのドキドキが伝わらないことを願います!


 いつ伝えてくれるのか、楽しみにしながら翔斗くんと軽井沢観光を楽しむことにします!!





 1箇所目、私たちが来たのは軽井沢絵本の森美術館。

 ここは、1800冊を超える絵本が自由に閲覧できる場所となっています。


 なぜここを選んだのかと言うと、私たちが初めてデートをした時のことを再現したいなと思ったからです!


 結局のところ、翔斗くん自身が答えを見つけてしまっているので無理やりドキドキさせなくてもとは思っています、と言うか絵本なんて懐かしすぎるではないですか!私、すごい楽しみです!!


「絵本の美術館なんてあるんだね。いつも難しい文字とかしか読まないから逆に新鮮さがあっていいかも!!」


 翔斗くんもすごく喜んでくれています!

 絵本で喜ぶ2人……側から見たら可笑しいカップルとか思われているんでしょうか。


「ですよね??今回もあの時のように一緒に読みましょうね??」


 いくら翔斗くんの答えが決まっていたとしても、しっかり可愛いとこは見せておかないと。


 デートの良さで美月ちゃんには負けたくありませんからね!!


「う、うん。そうだね、一緒に見ようか」



 しかし……いつまで経っても、翔斗くんから話をされませんね。いつ話してくれるのでしょうか。





「楽しかったね!」


「そうですね!なんかお金を払って買ったりしない絵本だからこそ、楽しめったって感じがしますよね」


 1時間ほどゆっくり過ごした私たちはお腹もすいたのでお昼ご飯を食べに行くことにしました。


 翔斗くんからはまだ話をされていません。


 …………いつ話してくれるの〜〜〜凪は待っていますよ〜待ち焦がれ凪!ふふ、なんかいい響きですね。


 この1時間の間でも、手を離すことはしませんでした。いや、翔斗くんが離してくれることはありませんでした。


 こんなに積極的な翔斗くんは初めてな気がします。

 まだ時間はありますし、もう少しだけ待ってみようと思います。





 お昼ご飯を食べ、2箇所目の目的地へやってきました。


 ちなみに、まだ翔斗くんから話はされていません。


 これは焦らしているんでしょうか。焦らしプレイですか??別に……翔斗くんなら……いいですけど……凪、最初は普通がいいな………………ってもう変なこと考え始めてしまいました。


 もう直接聞くべきでしょうか……いや、あと少しだけ待って見ましょう。




 2箇所目に私が選んだ場所は、軽井沢から電車で少し移動したところにある、海野宿という場所です。


 日本の道百選に選ばれているぐらいだから知ってますよね!!


「うわ〜なんかタイムスリップしたみたいだね」


 小学生が言いそうな感想だなと思いました。

 私は翔斗くんの、時より見せるこの幼さも結構好きなんですよね。


 いつもはかっこいいのに、時々可愛くなる。

 可愛くなると、子犬みたいに翔斗くんが見えてきてどうしても頭を撫でてあげたくなります。


「…………あの、、凪さん?そのこんな道端でこれはやめて頂きたいなっと思うんですけど……」


 と翔斗くんから言われ自分の手を見ると、私の手は翔斗くんの頭を撫でていました。


「うわぁ、ごめんなさい。ついやってしまいました……」


「う、うん大丈夫だよ」



 すごい恥ずかしい……翔斗くんは大丈夫と言ってくれましたが、大丈夫ってなんですか?大丈夫って。私ばかりドキドキしているのがなんだか気に入りません。


 それに、全然話す気ないじゃないですか。

 美月ちゃんと一緒の時に話をするつもりなんですかね……流石に一人ひとりにも話してほしいと私は思います。


 もう聞いてみます。


「ねー翔斗くん」


「ん?凪どうしたの?」


「そろそろ、私たちとの関係について翔斗くんの中で答えが見つかったんじゃないかなって思って、もし決まってるなら答えを聞かせて欲しくて」


「やっぱり気が付いていたよね……ごめんね。凪と美月が揃っている時に話をしようと思ってたけど、それぞれにも話はした方がいいよね」


「うん。美月ちゃんがどうかはわからないけど、私はしっかり2人の時に答えを聞きたいです」


「わかった。それなら、旅館に行ってからでもいいかな?その時凪と2人になる時間をもらって話をするから」


「そうですか、わかりました。なら、夜に答えを聞かせてください。それと……伝えてなかったので今伝えますと、今日の夜もずっと私と一緒ですからね??」


「え?どう言うこと?」


「まさか、出かける時だけ2人きりだと思ったんですか??」


 さっきまでの仕返しも兼ねて私は翔斗くんの耳に口を近づけます。


「今日は夜も2人っきりですよ……」


 もちろん!夜が一緒だからと言って何かがあるわけではないですし、翔斗くんもそれはわかっていると思います。


 わかっている上でも、翔斗くんには私と同じ部屋だと言うことに想像して、ドキドキしていてほしいのです。


 私自身、翔斗くんといるとドキドキより落ち着きや安らぎの方が強く感じます。


 だからこそ、私とのドキドキはとても大切にしてほしいです。


 デートのほんの一瞬でもずっと私にドキドキしていてほしい、そう願います。


 まぁ、本当はさっきまでの仕返しが9割を占めるんですけどね!ふふふ!ダーク凪!参上!!




 海野宿の古民家カフェなどで優雅なひとときを過ごし、私たちは美月ちゃん&美香ちゃんペアと合流。

 一緒に旅館に備え付けられているレストランでご飯を食べ、それぞれのお部屋へと行きます。


 お部屋はとても綺麗で、居間と寝室で分かれていました。

 全体的に木材でできているからか、とても落ち着きがあります。


 いつもならくつろいで時間を忘れるくらい本を読むところですが、今はそんな気分ではありません。翔斗くんからお話があるから。


「凪、約束通りお話しするからこっち来てくれないか??」


 居間の方にいた翔斗くんから呼ばれました。

 私は同じ空間にいることに若干の緊張を感じたため寝室にいます。

 もちろんこれから大事な場面であるのなら、寝室がいいと私は思います!!


「嫌です。翔斗くんがこっちに来てください。私は恥ずかしいのです」


 こんなに待たせたんですから言うことぐらい聞いてくれますよね??




 正直なところ、もしかしたら……と考えてしまいます。

 そんなことはないだろうと分かっていても、あるのが人生ですからね……。




「お待たせ」


 寝室に来た翔斗くんは私が座っているベットとは違う方に座りました。


 何故そっちに座るかな…………もう、しょうがないので、私が隣に座ってあげます。


「はい。たくさん待ちました。答えを……翔斗くんの答えを教えてください」


「うん……ごめんね待たせちゃって。なんか緊張するけど僕の話を聞いてほしい」


「はい……」


 私だって緊張するんですよ?翔斗くん。


「まず、僕は凪のことが好きだ。どこがと言われると多過ぎてわからないけど、一番好きなところは一緒にいて落ち着くところ。凪とならなんだってやっていけるような気がして、ずっと一緒にいたいと思う」


「はい……私も翔斗くんのこと好きです。私の知らない世界をいつも見せてくれる翔斗くんは私にとって世界そのものなんですよ。私も翔斗くんとずっと一緒にいたいと思います……でも、それだけじゃないんでしょ??」


「うん。まだ話には続きがある。まず謝らせてほしい、ごめんなさい。僕は結局どちらかと言う答えを選ぶことはできなかった。凪にこうして告白している今でも、僕は美月のことを好きだと思う。もちろん、凪と話している時や一緒にいる時に美月のことを思い出しているわけではないよ。ちゃんと凪だけに集中をしているつもりだ。僕は自分が本当に最低な人だと思っているよ。それでも、僕は自分が後悔しない道を選ぶと決めたから、2人に振られる覚悟で思いを伝えようと思うんだ。この旅行はその覚悟があるか、2人への気持ちが本物なのかの答え合わせだと思っている。だから、僕は明日美月に思いを伝えようと思う。凪に気持ちを伝えたばかりなのに申し訳ない。本当にごめんなさい」


 翔斗くんは翔斗くんなりにとても考えたのだと思います。



 前までの翔斗くんなら絶対にこの答えは出さなかったと思う。

 そんな翔斗くんが必死になって答えを見つけて、自分を犠牲にすることなく心からの願いを口にしているのです。


 否定するわけがありません。


 …………そもそも、別に私も美月ちゃんも二股しないでなんか一言も口にしてないんですけどね!!


「じゃー翔斗くんはこんなにかわいい私がいながらも二股をしたいと言うんですね?」


「うん。それが僕の選んだ答えだよ……振られることも覚悟は決めているから、正直に凪の気持ちを……」


「いいですよ」


「え?」


「いいですよって言ったんです。まず、元々二股しないでなんて一言も言ってないですからね。薄々そうなるだろうなと思っていましたし、むしろ美月ちゃんなら張り合えますし全然フェルカムですよ!」


「そ、そっか……」


 なんだか、ホッとした顔をしていますね。振られる覚悟……本当にしていたのですね。


 そう言う真面目なところも私は大好きですよ!!


「で!す!が!条件です!私の方が先に翔斗くんと出会ったのですから1番目の彼女ってことにしてください。あとは……ん!!」


 私は腕を大きく広げて無言で翔斗くんに合図をしました。


 もちろん、翔斗くんなら分かってくれますよね?これがどう言う意味なのか。


 目を瞑っているのでわかりませんが、私に近寄ってくる雰囲気はしました。


 次の瞬間には背中に回された腕と共に、雰囲気ではなくなりました。


 そう、私と翔斗くんはハグをしているのです!




 はじめてのハグは初めて好きになった人と……初めてラノベを読んだ時に憧れたシュチュエーションでした。そのラノベでは、一度別れてしまいますけど

 ……私たちがそうならなければいいと言うこと。

 翔斗くんとならどんなことがあったって乗り越えていけますよ!


 それから、5分くらいは翔斗くんと私はハグをしました。

 本当は……チュ、チュウとかもして見たかったですが、美月ちゃんが可哀想なので我慢しておきます。


 感謝してくださいね!美月ちゃん!!っと思っていると、なんだか気まずそうに翔斗くんが口を開きました。


「あのさ、凪……先に出会った方が一番目の彼女ってそれだと美月にならないかな。いや、まず告白もしてないんだし、僕が振られるかもしれないんだけどさ」


 翔斗くんの言葉により私は思い出しました。

 ………美月ちゃんは小さい頃に翔斗くんと会っていたのだと。


 どうしましょう……変な汗が出てきます。もうこうなったら、


「美月ちゃんのことなんて構ってられないですぅーー!!翔斗くんの初キスは私が貰います!!!」


「あ、いやちょっと……初キスは確か美香だったような(小声)」


 そうして少しの間、キスを迫る幻のハレンチ凪とどうにかして(なぜかわからないけどキスを阻止したい)翔斗による攻防戦が繰り広げられるのであった。


___________________________________________

121話読んで頂きありがとうございます。


少しトントンと話が進み過ぎたかなと思ってしまいますが、あえてそうさせて頂きました。


これが、翔斗の出した答えです。賛否両論あると思います。どうぞコメント欄で感想をこぼして行ってください!お待ちしております!





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