第119話  4月29日 行かないと行かない


「翔斗くん!」「翔くん!」


 体の揺れと、聞き慣れた声によって僕は目が覚めた。


「んっ…………ん、おはよう〜2人ともどうしたの……」


 覚醒していない中どうにか挨拶をしながら体を起こした。


「やっと起きた〜ほら早く準備していくよ!」


「本当いつまで寝ているつもりですか?遅刻ですよー遅刻」


 今日は確かゴールデンウィーク初日だから学校は休みだったはず、2人と遊ぶ約束もしていないし、正直状況が飲み込めなかった。


「ごめん、何の話をしてるかわからないよ」


「も〜そんなこといいから」


「早く準備してください!」


「準備ってどこ行くの?」


「「3泊4日の温泉旅行に行くんですよ!!」」


「また綺麗に揃って、本当2人は仲がいい……な、ん?……………………え、ごめんなんて言った??」


 あまりにも唐突すぎて、最初理解ができなかった。


 今、旅行と言ったか??それも3泊4日?そもそも準備もしてないのだが…………。


「だから、旅行に行くって!」


「言ったんです!!」


 やっぱり嘘ではなく、本当に旅行に行くみたいだ。



 何もわからないまま、待たせるわけにもいかず、着替えて準備してから色々話を聞くことにした。


 いつも通りの流れで僕はクローゼットを開けたのだが、あからさまに僕の洋服がなくなっていた。


 僕はすぐにわかった。

 美香が一枚噛んでいると。



 着替えながらではあるが(凪と美月が一旦自分達の家に戻っていることは知っていたので)、旅行に行く準備万端であろう美香のいるリビングへと足を運ぶ。


「なぁ〜美香、なんでお兄ちゃんに言ってくれな……ってなんでまだパジャマなの?」


 確かに、僕の想像通りリビングに美香はいた。だが、格好は全く想像通りのものではなかった。


「おはようお兄ちゃん。なんでパジャマなの?って美香行かないもん旅行」


 テレビで朝のニュースを見ながら美香は平然と答えた。


「3泊4日だぞ?家に1人でいるつもりか??」


「いや、友達の家に遊びに行く」


 明らかに美香は、嘘をついていた。と言うか、今までなぜ僕は気が付かなかったんだろうか。

 そもそも美香は、昔から家に僕たち2人しかいないこともあり敢えて友達なんか作ってこなかったんじゃないか。


 自分がどれだけ周りを見れていなかったのか、良くわかる瞬間だと思った。


「ダメだ」


「え??いや、ダメってどう言う意味」


「そのままの意味だよ。美香も一緒に旅行に行くの」


「なんでよ。そもそも3人で予約してるんだよ?無理に決まってるじゃん。それに、友達と約束しちゃったし……」


「それは嘘だよ。前までのお兄ちゃんだったらわからなかったかもだけど、今ならわかる。美香、友達の家なんて行ってないだろ」


「え、なんで…………」


 やっぱり嘘だった。

 …………なんでもっと早く気がついてあげられなかったんだろう。


「今回は美香も絶対連れて行くから。意地でも行かないと言うなら、お兄ちゃんも絶対行かないからな」


 そう言って僕は美香の隣にドカッと座った。


「どうしてもなの?」


 涙目で美香は質問をしてきた。

 少しばかり心にくるものがあったが、どうにか沈めて美香に言った。


「あぁ、どうしてもだ」


 美香はそれだけ聞くと、自分の部屋へと入っていった。



 ―――――――――


「………………そんなこと言われたら、行かないなんて言えないじゃん……お兄ちゃんのバカ」


 どうも美香です。

 色々あってお兄ちゃんから、旅行に美香も連れて行くと言われました。


 しかも、行かないならお兄ちゃんも行かないなんて言っている始末でございます。


 行くのは全然構いません。凪さんと美月さんならどうにかしてくれると思いますし、お金なら払いますから。


 問題はそこではありません。


 美香の気持ちを抑えられる気がしないんです。

 あの日お兄ちゃんと話した日から、どうしても凪さんや美月さんが羨ましいと思ってしまうのです。


 美香なんて望めばずっとお兄ちゃんと居られるのに。


 そんな自分が嫌で、それでもお兄ちゃんへの思いは増すばかりで……だからこそ、旅行だって断ったのです。


 いつも通り、お兄ちゃんのために友達の家に行くと嘘をつき、一人、家で留守番をする。


 嫌でも数日さえ我慢すれば、またお兄ちゃんとの時間が返ってくるから。


 だと言うのに、お兄ちゃんがそれを許してくれません。


 とりあえず支度をします。

 美香のせいで凪さんや美月さんに迷惑はかけれせんので。


 ―――――――――


『ってことだから、美香を連れて行こうと思うんだけど大丈夫かな??』


『翔斗くんが連れて行かないと行かないって言うならダメなんて言えませんし、そもそも私と美月ちゃんは一緒に行こうと、せんせ……美香ちゃんを誘っていますから全然構いませんよ。ね、美月ちゃん』


『もちろん!じゃー私たちで1人追加って連絡しておくから。時間もあるし、ゆっくり準備しなって言っといて!じゃー後でね!』


『うん!ありがとう!また後で』


 凪と美月に電話にてお願いをすると、快く了承してくれた。


 なんだかんだで4人で出かけるのは初めてな気がする。

 無理やり行くことになったし、美香に嫌われてなければいいけど……。




 それから、1時間ほどで美香の準備ができたため、改めて4人集まり、出発するのことになった。


 場所は、長野県の軽井沢。

 ここから電車で2時間ほど言ったところにある温泉旅館だと2人は言っていた。


 一体どんな旅館なのか。


___________________________________________

119話読んで頂きありがとうございます!


コメント、応援、小説のフォロー、レビューして頂けたら嬉しいです!よろしくお願い致します!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る