第117話  4月20日 勝てそうにない

 ※複数視点とありますが、美香視点のみです。


 それから、お兄ちゃんが話し始めたのは15分ぐらい経った時でした。


 その間、美香はずっとお兄ちゃんの頭を撫でていたのですが……つい夢中になってしまい、「なんか、撫で方エロくない??」と言われてしまいました。


 む〜〜、そんなことよりお礼が先でしょ!お礼!!全く!


 いつも通り、脳内おふざけの後、美香はお兄ちゃんから今日何が合ったのかを聞きました。


 思っていた通り、お兄ちゃんは2人の関係のことで悩んでいたみたいです。経緯自体は思った通りではありませんでしたど……。


 しかし、高橋先輩か……一年生の間でも結構人気がある生徒で、一度だけなら顔を見たことあります。


 確かにカッコよかった。お兄ちゃん以下だけど。


 見た目も優しそうだった。お兄ちゃん以下だけど。


 勉強や運動もできるらしいですし、生徒から人気があるのも頷ける気はします。

 ですが、私は騙されませんよ。女の子と話している時の高橋先輩の目が明らかに邪なことを考えていそうな目をしていたことを……。

 他の生徒は騙せるかもですけど、甘いですね!


 やはりと言うべきですかね……男子なんて所詮そんなもんって感じです。


 それに比べて、お兄ちゃんは素晴らしい!あぁ!素晴らしい!


 ピュアで、真面目で、かっこいいし、気遣いもできる!もう私にはお兄ちゃんが居れば他の男子はいらないと言えます……って、そんなこと考えてる時ではなかった。


 つい、いつもの悪い癖が出ちゃった♡


 それでそれでっと、お兄ちゃんは凪さん、美月さんと3人で本屋に行きました。

 漫画を見ていたお兄ちゃんに、高橋くんは接触し、宣戦布告と言って美月さんへの気持ちを語り、お兄ちゃんと2人の関係を探る。最後にお兄ちゃんの心を揺さぶって来たと……。


 確かに、高橋先輩が言っていることは一般論としては正しいけど、実際のところ良いか悪いかの判断をするのはお兄ちゃん達3人であって、他の人がどうこう言えることではないと美香は思う。


 特に、お兄ちゃんの痛いところをついて、あたかも諦めさせるように話を持って行っているところが腹立つ。

 堂々と美月さんに対して自分の気持ちを伝えることはできないのかねと言うのが美香の見解。


 ……高橋先輩、大したことないですね。



「で、お兄ちゃんはどうしたいの?」


 作戦変更。

 私が答えを出してあげるのではなくて、お兄ちゃん自ら答えを出させます。


 そもそも、何でお兄ちゃん落ち込んでるの?

 悩むだけならまだわかるけど、落ち込む要素なくない?

 美月さんのことをとられるとでも思ったのかな??

 もしそうなら、情けなさすぎない?本当に!


「お兄ちゃんはどうしたい、か……どうしたらいいんだろうな」


 出たよ、お兄ちゃんのこう言う感じ。いつもはかっこよくて大好きなのに、こう言うところだけは全然好きじゃない。


 むしろ嫌い!!


 早くいつも通りのお兄ちゃんに戻ってほしい。


「まずさ、お兄ちゃんは美月さんのこと好きじゃないの?」


 美香の発言にお兄ちゃんは顔を上げました。


 ……キャッ!カッコいい!


「そんなわけないだろう。大好きだよ」


 ……む、む、む!それはそれでムカつく。


「じゃー何でお兄ちゃんは落ち込んでるの??今回の話の中でどこに落ち込む必要があるの?」



「それは……別に……」


 またもや作戦変更!もうズバッと言わなきゃ!


「ないよね?あるわけないよね?だって美月さんはお兄ちゃんのこと大好きって言ってるんだから。それでも落ち込むの?まだ自信がないの?もしそうならお兄ちゃんすごくださいからね?もう、この事については美香、何も言わない。自分で考えて!すぐわかるから。

 はい、次!これからお兄ちゃんはどうしたいの?」


 少し、強く言い過ぎちゃったかなと思いましたが、今は2人の関係をどうしていくのかを考えた方がお兄ちゃんのためになるので我慢です。


「うん……美香はまず、今のお兄ちゃんを見てどう思うんだ?ほら、2人を好きになって、どちらかを選ばなくてはいけないのに先延ばしにしているようなお兄ちゃんを……」


 お兄ちゃんからの質問を聞いて、美香の心が暗くなっていく気がしました。


 お兄ちゃんにこんなこと言われると、家族であるお兄ちゃんに対して本気で恋してる美香はどうなっちゃうの?って思ったから。


 正直、今ここで背中を押さなければ、お兄ちゃんはどちらか、それともどちらも、と言う答えに辿り着くことはできないと思う。


 どんなに凪さんや美月さんがアピールしたとしても、お兄ちゃんは傷つけてしまうことを気にして友達のままでいようとするから。


 もし、そうなったとしたら、「傷付けるの嫌だよね……美香と一緒にいよ、」とか言えばお兄ちゃんはずっと一緒に居てくれると思う。


 誰とも付き合わず、美香と一緒に。


 だけど、どうしても美香にはそれができなかった。


 花さんとのことからお兄ちゃんは成長し、ありのままの自分で居ても好きで居てくれる人に出会ったから。


 この数ヶ月、お兄ちゃんはとても幸せそうだったから。


 その分、美香の寂しさは積もったけど、美香は嬉しかったから。


 だからこそ、美香は自分の気持ちを押し殺してまで応援すると決めたのだ。


 今回も同じ、本当に望む答えではないけど応援する。


 だけど……少しだけなら、少しだけなら気持ちを伝えていいよね。


「美香は好きだよ、そんなお兄ちゃんでも。2人のことを好きになったって好きだよ。真面目に向き合き会おうとしてるもん。他の人が、高橋先輩がどうこう言おうと美香は応援するつもり。それに、結局は3人で決めることだと思う。しっかりお兄ちゃんが今どうしたいのか話してみるべきだよ。その上でどちらか選んでほしいと言われたのなら、傷付ける覚悟でどちらかを選ばないといけないと思う」


 もう泣きたい気持ちでいっぱいだった。

 結局好きの言葉は、お兄ちゃんには家族としてしか伝わらない。

 美香自身も家族に伝えるようにしか伝えることができない。


 心の中や頭の中が、応援したい気持ちと、したくない気持ちでぐちゃぐちゃだった。


 何度、お兄ちゃんと兄弟じゃなかったらって考えたか。せめて、血の繋がらない義理の兄弟がよかったよ。


「そっか……そうだよな、ありがとう美香。もう一度よく考えて、近々話すことにするよ。ごめん、本当にありがとう。今日はお兄ちゃんの奢りで夜ご飯でも食べに行こう!」


「……うん、美香は応援してるから。やったーお兄ちゃんの奢りだ。じゃー着替えてくるね」


 そう言って美香はお兄ちゃんの部屋を出た。


 どんなに小さくても、美香に気持ちに気づいてくるのではないかと思った。


 今回だけは本気で好きの気持ちを込めたから。


 それでも、お兄ちゃんには伝わらなかった……。



「ごめんも、ありがとうも、今日だけは全然嬉しくないよ……」



 やっぱり、美香はお兄ちゃんが好き。家族だなんて思えない。


 この気持ちは誰にも負けてない。

 お兄ちゃんのことを誰よりもよくわかってる。


 それなのに、凪さんと美月さんには勝てそうにない。



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117話読んで頂きありがとうございます!


美香はこのストーリの中で主人公より大事な役割を持っている気がする笑


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