朝露視点
第25話 10月12日 デート(お出かけ)の最後は[下]
今、私と古巻くんはファミレスにいます。
そして先程あった出来事を思い出していました。
……1時間前
私は初めていつもと違う出版社の本を買いました。
古巻くんと一緒に買えたこと。他の本に出会えたことでとても機嫌が良くなってしまい、私は調子に乗ってしまったんです。
いつもはしないのに、あろうことか私は後ろ向きで道を歩いていました。
案の定、男の人にぶつかってしまい、私はすぐに謝りました。古巻くんも謝ってくれました。こう言う時にすぐ一緒に謝ってくれる古巻くんはやっぱりいい人だな〜……いやそれどころではありません。
謝りましたが男の人は許してはくれませんでした。
古巻くんはそのぐらいのタイミングで私の前に出て、男の人と話してくれるようになりました。
ですが、男の人は止まりません。
ついには古巻くんも少し怒り始めました。
……全部私のせいなんです。なのに、なぜ古巻くんがここまで怒ってくれるのか疑問に思いました。
そして、男の人は古巻くんに殴りかかろうとしました。こんなに迷惑かけたんだ、もう友達としてやっていけないだろう。そんなことも頭をよぎってしまいます。私は2人が接触する瞬間を見ていません。いや、見ることができませんでした。
[ドンッ]と言う音が聞こえてきて私は咄嗟に目を開けます。そこには男の人が仰向けに倒れていました。
「え?」
私は間抜けな声を出してしまいました。
何が起こったのか分からず私はその場で動くこともできません。ここまで自分が無力だと感じたことはなかったです。古巻くんと出会う前の孤独な感覚が蘇ってきます。今回のことで流石に嫌われてしまう。
ここまでうまくやっていたのに私が台無しにしてしまった。そう思うだけで涙が出てきそうでした。
そう思っていると、手に温かい感触が伝わってきました。
「とりあえず今はファミレスに向かいましょう」
そこには、私の手を引いて笑顔を作りながら話しかけてくれている古巻くんがいました。
その顔はいつもと何も変わっていませんでした。私とラノベのお話をする時の優しい顔と同じでした。私は黙って手を引かれながら手を離そうとはしません。
こんなことをしてしまったのに、私は嬉しかったから。
そして現在私と古巻くんはファミレスにいます。
「あの……古巻くん。先程はほんとにすみませんでした」
先に口を開いたのは私でした。
「いや、当たったこと自体は朝露さんも僕もすぐに謝ったし謝らなくていいよ。逆に僕も……その、朝露さんに夢中になっていて後ろの人に気が付かなかったし……」
恥ずかしそうに古巻くんがそう言うと、私も段々と先程手を繋いでいたことを思い出してきました。
なので私は古巻くんに質問をします。
「それで、先程は何をしたんですか??」
古巻くんは私からの質問に対して、一回深呼吸すると話し始めました。
「あれは合気道ですね。僕は小学校6年間合気道を習っていました。理由としては妹を守りたかったからですかね」
そう言って恥ずかしそうに古巻くんは言ってきました。
「なるほど、合気道だったんですか……改めて守って頂きありがとうございます」
私は頭を下げて古巻くんにお礼を伝える。
「いえいえ、逆に今まで合気道自体覚えたのが無駄だったかなって思っていたので、朝露さんを守ることに使えてよかったとです」
笑いながら古巻くんは言いました。
そのあと私たちはそれぞれ食べたいものを注文しました。古巻くんはハンバーグとライス。私はスパゲッティーとデザート。そしてなんだかんだ楽しみにしていたドリンクバーを頼み、取りに行きます。
ですがやっぱり私は元気が出ませんでした。
するとそれを感じ取ったのか、古巻くんがこの後のことを聞いてくれました。
「朝露さん今日の夜はどうしますか?
さすがに疲れましたよね……明日は休みですし、今日は話すのやめておきますか?」
私を気遣って聞いてくれているのはわかっていたのですが、古巻くんの質問によりあと少ししたら古巻くんとはバイバイしなくてはいけないことに私は気がつきました。そしてとても寂しい気持ちが押し寄せました。だけど家に帰ってからいつものやりとりをやるのはなんか私的にもできないと思いました。
それに、今日はメッセージなんかじゃなくて古巻くんの声が聞いていたい。そう思いました。
ですが、私は
「そうですね……疲れたのだ今日は寝ましょうか」
そう答えてしまいました。
それからはあまり会話もなく運ばれてきたご飯を2人で食べます。
時々古巻くんが美味しいですねと言ってくれますが、それに対しても私はうまく答えることができません。
私はどんどん嫌なことを考えてしまいます。
今回のせいで古巻くんがもう私と遊んでくれなくなってしまったら。古巻くんが私といるとつまらないと思ってしまったら。そして、私のことを嫌いになってしまったら。考えれば考えるほど私は落ち込んでいきます。ほんとは古巻くんがそんなことを思っていないとわかっているのに。この後家に帰ったら1人になること、その後も古巻くんとは話せないこと、それだけで私は自分を追い詰めてしまいます。
私がこうやって考えていくうちに別れの時間は迫ってきます。気がついたら最寄りの駅から家に向かって2人で歩いていました。
その間ずっと無言だったのか、何か会話をしていたのかそれすらも私にはわかりません。
そしてついに私たちの家の前までついてしまいました。こんなはずじゃなかったのに。私が後ろ向きで歩かなければ。たった一つのミスがここまで大きなことになることを私は恐ろしく感じていました。
私は何も言わず家に帰ろうとしました。
ですがそれは止められました。
古巻くんに手を掴まれていたんです。
「朝露さん今日はありがとうございました」
古巻くんからお礼を言われました。
お礼なんて言われる筋合いなんてないのに。
お礼を言わなくてはいけないのは私なのに。
「最後の方は色々ありましたけど……」
心の中で私は何度も謝ります。
ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
ですが、声には出ません。声を出したら泣いてしまいそうだから……
「僕はそれすらもいい思い出だったと思いました」
私はその言葉を聞いて思わず「ふぇ?」と変な声を漏らしてしまいました。
「朝早くに家を出て、ラノベ・マンガ図書館に行っき、2人して恥ずかしくなりました。お昼は事故ではありましたけど、朝露さんと間接……キスをしました。そのあとも朝露さんの本を2人で選びました。その時の朝露さんはとても幼くて本当に見ていて可愛かったです。そして、先程の男とのこと。これ自体も僕的にはカッコいい姿を見せることができて嬉しかったです。ファミレスでは、ドリンクで悩んでいるのを見てとても面白かったです。長くなりましたけど何が言いたいのかと言うと」
そこで一回言葉を区切り、古巻くんは言いました。
「僕は今日、朝露さんと出かけられて幸せでした。また僕と一緒に出かけて欲しいです」
私はその言葉を聞いた瞬間、先程からずっと我慢していたものが溢れ出してきました。
私が勝手に心配していたこと。古巻くんはこう思っていると勝手に決めつけていたこと。勝手に落ち込んでいたこと。……それも含めた全てを古巻くんは幸せだと言ってくれました。
私は泣きながら言いました。
「私も……古巻くんと……出かけられて
……幸せです」
それに対して
「同じ思い出よかったです」
そう言ってまた笑顔を見せてくれました。
本当に古巻くんの笑顔を見ると癒されます。
その後は私が泣き止むまで古巻くんは付き添ってくれました。
心から私は古巻くんと友達になれてよかったと思います。
そして今なら先程言えなかったことが言える気がしました。古巻くんなら笑顔で、いや、照れながらいいですよと言ってくれることが今の私ならわかります。
「古巻くん、実は先程嘘をつきました」
首を傾げながら古巻くんは、
「嘘?ですか?」
と、聞いてきます。
「はい。ほんとはこの後もいつも通り話したいと思っているんです」
いや、これじゃない。
私が今日古巻くんとしたいのはこれじゃない。
したいのは……
「いや、今日は古巻くんと電話がしたいです」
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25話読んで頂きありがとうございました。
報告です。先程ご指摘頂いたこともあり、今までこの物語に出していた他の作品とわかる直接的な文章に○をつけました。一通り見て○をつけたつもりではありますが見逃している可能性がございます。その場合コメントでお伝えしていただけると嬉しいです。よろしくお願いします。
さて、途中古巻くん地雷踏みましたね。
ほんとに見事に踏みましたね、、笑
そのせいで朝露さんの気持ちが上がったり下がったりを繰り返してしまいました。
本当に大変なんだからやめてと言いたいですね笑
次からはついにメッセージから電話に向けて話が進んでいきます。
そして電話によりどのように2人の関係が変わっていくのが楽しみです。
誤字脱字、感想、ご指摘などのコメントお待ちしております。
レビュー、小説フォロー、応援などしていただけると嬉しいです。
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